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第三章 オフ会に行きたい
#20 乙女のピンチ!
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「おー、ヴァンピィさんですよね? 僕です。タバスコです!」
対戦の合間に一息ついたところで、他所のテーブルからピアスやらシルバーネックレスやらをチャラチャラつけた青年が遊びに来た。
タバスコさんという名前は確かヴァンピィの相互フォローだった筈だ。ちなみに俺とは特に絡みはない。
見た感じ大学生くらいの彼は、気さくに夜宵に話しかける。
会話を聞くに、どうやらちょっと前にオンライン対戦でヴァンピィとマッチングして熱い勝負を繰り広げたらしい。
今はその時の感想戦で盛り上がっているようだ。
いや、盛り上がってるのはタバスコさんだけで、夜宵はコミュ障発動してあんまり喋れてないが。
とにかく夜宵に友達が増えるのはいいことだ。
暫くは対戦相手も空きそうにないし、俺は彼女を見守ることにする。
「ヴァンピィさんは今日大会が終わったら予定とかあります? 良ければ一緒に飲みに行きません?」
「あ、あの、えっと、その、私、未成年で」
「あー、高校生なんすかー。じゃあご飯でも奢りますよ」
「えっ、あの、それは」
どうにも雲行きが怪しくなってきた。
コミュ障の夜宵は断りたいけど、角の立たない断り文句が出て来なくて、そこに付け込んで相手は夜宵を二人きりで食事に誘おうとしている。
そろそろ助け船を出さないといけない。
「すいません。ヴァンピィは大会終わった後、俺と約束あるんですよ」
二人の会話に割って入ると、タバスコさんは俺の方を値踏みするように見つめる。
「へー、キミは? ヴァンピィさんの何なの?」
「俺はヴァンピィのチームメイトで、一応リア友でもあります。同じクラスだし、最近は毎日彼女の家で遊んでます」
「ヒ、ヒナ!」
俺の横槍に夜宵が慌てた様子を見せる。
彼氏面とまではいかないが、俺は夜宵とこんなに仲がいいぞアピールしてしまった。
とは言え、引き下がる気はない。
俺の言葉を聞き、タバスコさんはこちらに興味を失ったように淡泊な顔になった。
「あっ、そう」
そして、手を振りながらテーブルを離れる。
「じゃあね、邪魔したねヴァンピィさん」
よーし、諦めてくれたようだ。
「ヒナ!」
夜宵が涙目になってこちらを見つめる。
俺は彼女と落ち着いて話す為に、廊下に出ることにした。
そして、
「助けるのが、遅い!」
第一声から彼女にお叱りを受けてしまった。
抗議を込めて夜宵は俺の腕を強く掴む。
しかしよくよく見ればその手を震えていて、俺は彼女に怖い思いをさせてしまったことを後悔した。
「悪い」
素直に謝ることにする。
夜宵は顔を俯かせながら言葉を絞り出す。
「タバスコさん、ツイッターではあんな人じゃなかったのに」
「ツイッターでは、お前は男だと思われてたんだろうな」
だが今日、ヴァンピィが可愛い女の子だと知って態度を変えた。
俺にとってはオフ会はただ楽しいだけの場だが、女の子の夜宵には男の俺にはわからない苦労があるということを知った。
俺が夜宵を守らないと。
そこで夜宵は何かを思い出したように顔を上げる。
「そういえば、さっきのアレはどこまでホントなの?」
さっきの、と言われて思い当たるのはタバスコさんに向けた夜宵と仲良しエピソードだった。
「大会終わった後に私と約束があるって」
「ごめん、それは出任せだ」
「あと、学校では一緒のクラスって」
「それなー、夜宵は学校来てないからアピールポイントにはならないよな」
夜宵は確認を込めて一言一句丁寧に呟く。
「同じクラスなのは、本当?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
どうもこの情報、彼女にとっては初耳だったらしい。
「学校が同じなのは制服でわかってたけど、クラスまで一緒なんて聞いてない」
夜宵は困惑した様子で俺から顔を反らし、小声でぶつぶつと呟く。
「ヒナと一緒のクラス? じゃあ、学校に行けばヒナといつも一緒? そんな、それじゃ今まで休んでたのは。ううう、勿体ない」
夜宵さん、漏れてる漏れてる。
恥ずかしい独り言がこっちまで聞こえてきて、俺も照れちゃうから。
とにかく彼女の独り言は聞かなかったことにしよう。こっちも反応に困るし。
俺の存在が彼女が学校に来るモチベーションの一端になれるなら嬉しい。
それにしても、気の弱い夜宵の性格に付け込んで強引に食事に誘おうだなんて。
いくら夜宵と仲良くなりたいからって、出会ったばかりでそんなことをするのは迷惑じゃないか。
あれ?
そう言えば俺も夜宵と出会ってすぐの頃、デートに誘ったな。
臆病な夜宵はそれに即答できなかった。会ったばかりの男と二人で出かける勇気はすぐには出てこず、かと言って断る勇気も持てなかった。
俺も結局やってることはタバスコさんと同じ、出会い厨なのでは?
うーん。
悩む。
ちょっと悩んだけど。うん、よくわからん。
いいや。俺がタバスコさんと同類だったらなんだっていうんだ。
同族で獲物の取り合いをして何が悪い?
確かに俺の夜宵へのアプローチは性急で強引だったかもしれない。だが今となってはこうして打ち解けているのだから結果オーライじゃないか。
夜宵がタバスコさんと一緒に食事に行ったら、なんだかんだで今の俺と同じように打ち解けていたかもしれない。けどそれは俺にとって面白くないのだ。
夜宵は俺のだ。俺が守りたい。そして俺が独占したい。
この気持ちは、ただの友人に向けるものなのだろうか?
よくわからなかった。
話題を変えようと、俺は夜宵に話を振る。
「とりあえず、そろそろ昼休憩の時間だけどどうする?」
参加者達はそれぞれのグループを作って近くの飲食店にでも行くことだろう。
折角のオフ会なのだから俺達も友人と一緒に行くのが普通だ。
しかし夜宵に普通レベルの行動を求めていいかというと。
彼女は俺の服の裾を掴みながら、ふるふると頭を振った。
「午前だけでもう私のコミュ力ポイントはすっからかんなの」
例えネットの知り合いとは言え、初対面の相手と談笑しながら食事するだけのエネルギーは残っていないらしい。
彼女は上目遣いにこちらを見上げて言葉を吐き出す。
「だからヒナ、充電させて?」
「俺と一緒に飯を食えば充電になる?」
そう問い返すと、彼女は顔を俯かせ、コクリと頷いた。
そっか、そっかあ。
他の人と食事するのはコミュ力ポイントを消費するけど、俺と食事するのは回復になるのかあ。
そこまで彼女と仲良くなれたことが、なんだか無性に嬉しかった。
俺は彼女を引き連れ、二人きりのランチへと繰り出すのだった。
対戦の合間に一息ついたところで、他所のテーブルからピアスやらシルバーネックレスやらをチャラチャラつけた青年が遊びに来た。
タバスコさんという名前は確かヴァンピィの相互フォローだった筈だ。ちなみに俺とは特に絡みはない。
見た感じ大学生くらいの彼は、気さくに夜宵に話しかける。
会話を聞くに、どうやらちょっと前にオンライン対戦でヴァンピィとマッチングして熱い勝負を繰り広げたらしい。
今はその時の感想戦で盛り上がっているようだ。
いや、盛り上がってるのはタバスコさんだけで、夜宵はコミュ障発動してあんまり喋れてないが。
とにかく夜宵に友達が増えるのはいいことだ。
暫くは対戦相手も空きそうにないし、俺は彼女を見守ることにする。
「ヴァンピィさんは今日大会が終わったら予定とかあります? 良ければ一緒に飲みに行きません?」
「あ、あの、えっと、その、私、未成年で」
「あー、高校生なんすかー。じゃあご飯でも奢りますよ」
「えっ、あの、それは」
どうにも雲行きが怪しくなってきた。
コミュ障の夜宵は断りたいけど、角の立たない断り文句が出て来なくて、そこに付け込んで相手は夜宵を二人きりで食事に誘おうとしている。
そろそろ助け船を出さないといけない。
「すいません。ヴァンピィは大会終わった後、俺と約束あるんですよ」
二人の会話に割って入ると、タバスコさんは俺の方を値踏みするように見つめる。
「へー、キミは? ヴァンピィさんの何なの?」
「俺はヴァンピィのチームメイトで、一応リア友でもあります。同じクラスだし、最近は毎日彼女の家で遊んでます」
「ヒ、ヒナ!」
俺の横槍に夜宵が慌てた様子を見せる。
彼氏面とまではいかないが、俺は夜宵とこんなに仲がいいぞアピールしてしまった。
とは言え、引き下がる気はない。
俺の言葉を聞き、タバスコさんはこちらに興味を失ったように淡泊な顔になった。
「あっ、そう」
そして、手を振りながらテーブルを離れる。
「じゃあね、邪魔したねヴァンピィさん」
よーし、諦めてくれたようだ。
「ヒナ!」
夜宵が涙目になってこちらを見つめる。
俺は彼女と落ち着いて話す為に、廊下に出ることにした。
そして、
「助けるのが、遅い!」
第一声から彼女にお叱りを受けてしまった。
抗議を込めて夜宵は俺の腕を強く掴む。
しかしよくよく見ればその手を震えていて、俺は彼女に怖い思いをさせてしまったことを後悔した。
「悪い」
素直に謝ることにする。
夜宵は顔を俯かせながら言葉を絞り出す。
「タバスコさん、ツイッターではあんな人じゃなかったのに」
「ツイッターでは、お前は男だと思われてたんだろうな」
だが今日、ヴァンピィが可愛い女の子だと知って態度を変えた。
俺にとってはオフ会はただ楽しいだけの場だが、女の子の夜宵には男の俺にはわからない苦労があるということを知った。
俺が夜宵を守らないと。
そこで夜宵は何かを思い出したように顔を上げる。
「そういえば、さっきのアレはどこまでホントなの?」
さっきの、と言われて思い当たるのはタバスコさんに向けた夜宵と仲良しエピソードだった。
「大会終わった後に私と約束があるって」
「ごめん、それは出任せだ」
「あと、学校では一緒のクラスって」
「それなー、夜宵は学校来てないからアピールポイントにはならないよな」
夜宵は確認を込めて一言一句丁寧に呟く。
「同じクラスなのは、本当?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
どうもこの情報、彼女にとっては初耳だったらしい。
「学校が同じなのは制服でわかってたけど、クラスまで一緒なんて聞いてない」
夜宵は困惑した様子で俺から顔を反らし、小声でぶつぶつと呟く。
「ヒナと一緒のクラス? じゃあ、学校に行けばヒナといつも一緒? そんな、それじゃ今まで休んでたのは。ううう、勿体ない」
夜宵さん、漏れてる漏れてる。
恥ずかしい独り言がこっちまで聞こえてきて、俺も照れちゃうから。
とにかく彼女の独り言は聞かなかったことにしよう。こっちも反応に困るし。
俺の存在が彼女が学校に来るモチベーションの一端になれるなら嬉しい。
それにしても、気の弱い夜宵の性格に付け込んで強引に食事に誘おうだなんて。
いくら夜宵と仲良くなりたいからって、出会ったばかりでそんなことをするのは迷惑じゃないか。
あれ?
そう言えば俺も夜宵と出会ってすぐの頃、デートに誘ったな。
臆病な夜宵はそれに即答できなかった。会ったばかりの男と二人で出かける勇気はすぐには出てこず、かと言って断る勇気も持てなかった。
俺も結局やってることはタバスコさんと同じ、出会い厨なのでは?
うーん。
悩む。
ちょっと悩んだけど。うん、よくわからん。
いいや。俺がタバスコさんと同類だったらなんだっていうんだ。
同族で獲物の取り合いをして何が悪い?
確かに俺の夜宵へのアプローチは性急で強引だったかもしれない。だが今となってはこうして打ち解けているのだから結果オーライじゃないか。
夜宵がタバスコさんと一緒に食事に行ったら、なんだかんだで今の俺と同じように打ち解けていたかもしれない。けどそれは俺にとって面白くないのだ。
夜宵は俺のだ。俺が守りたい。そして俺が独占したい。
この気持ちは、ただの友人に向けるものなのだろうか?
よくわからなかった。
話題を変えようと、俺は夜宵に話を振る。
「とりあえず、そろそろ昼休憩の時間だけどどうする?」
参加者達はそれぞれのグループを作って近くの飲食店にでも行くことだろう。
折角のオフ会なのだから俺達も友人と一緒に行くのが普通だ。
しかし夜宵に普通レベルの行動を求めていいかというと。
彼女は俺の服の裾を掴みながら、ふるふると頭を振った。
「午前だけでもう私のコミュ力ポイントはすっからかんなの」
例えネットの知り合いとは言え、初対面の相手と談笑しながら食事するだけのエネルギーは残っていないらしい。
彼女は上目遣いにこちらを見上げて言葉を吐き出す。
「だからヒナ、充電させて?」
「俺と一緒に飯を食えば充電になる?」
そう問い返すと、彼女は顔を俯かせ、コクリと頷いた。
そっか、そっかあ。
他の人と食事するのはコミュ力ポイントを消費するけど、俺と食事するのは回復になるのかあ。
そこまで彼女と仲良くなれたことが、なんだか無性に嬉しかった。
俺は彼女を引き連れ、二人きりのランチへと繰り出すのだった。
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