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高校生編
mission58 お化けの正体は
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夜。土曜日の夜である。
俺がいつもなら太郎とのバッドエンドのあれやこれやを夢に見てうなされている頃。今は太郎と一緒に桐生すみれ宅の廊下にいた。お化け退治のためだ。
「あんぱん買ってくれば良かったねー」
「張り込みじゃなくてお化け退治だろ」
『我も生ハムメロンがほしいぷん』
『お前の欲望はどうでもいい。胸にしまっとけ』
客間で寝ていてもどうしようもないだろうからとこうして張り込んではいるが、今のところ変わった気配はない。こんな怪しい行動をしているのに桐生の祖父母も絡んでこないところを見ると、間違った行動はとっていないと思うが。
ぶぼっ!
急に爆発音がした。既視感がある展開に思わず鼻を塞ぐ。が。
『貫通しやがる……とんでもない臭いだ』
『ぷぷん。ちょっと臭いやつが出たぷん』
『これがちょっとだと……?』
以前と同じようなやり取りをしながら込み上げる吐き気を堪えていると、先に太郎が倒れた。
「ぐ、ぐ、ぐざぃよぉ……ぼーぢゃぁん」
「落ち着けドラゴン……あと、この臭い俺じゃないからな。一応そこだけ信じて」
人が倒れるような屁をこいたなんてとんだ風評被害だ。なんとしてもそこだけは分かってほしい。
「そ、それじゃあ……この、臭いは」
「ああ……」
ただ、カッスのおならだとは言えないので。
「かまいたちだ」
ごめんな。こちらは何の恨みもないから、そちらもぜひ恨まないでほしい。勝手に凄まじい臭いをかまいたちのせいにはしたけど。
『非科学的ぷん』
『てめーのせいだよ非科学的なブタちゃんが』
ようやく臭いがおさまってきた。ああ、臭かった。これで息ができる。
「あれ、桐生さんだ」
確かに、あれは桐生すみれだ。ネグリジェというのか、ワンピース状のしゃなりとした洒落たパジャマを着て、ふらふらと部屋から出てきた。
「おしっこかな?」
「まあ……桐生もトイレくらい行くだろ」
昭和のアイドルじゃないんだから。アイドルも正直トイレには行くだろうし。
「待って……ほーちゃん」
進む桐生をなんとなく尾行していると太郎が思いついたように口を開いた。
「うんち、かも」
そこはどっちでもいい。出すもの出してスッキリして寝てくれるなら別にこちらとしては構うところではない。
「かまいたちに襲われないといいけど……うんちしてる時に襲われたら可哀想だ」
「そりゃそんな時に襲われたら可哀想だけどさ」
きっとかまいたちじゃないパターンだから大丈夫そうな気もするが……ん?
「大変! ほーちゃん、桐生さんトイレの場所間違えてる! このままじゃ野グソになっちゃうよ!」
「それはそれで確かに由々しき自体であるんだが」
『え、ゆゆ式?』
『それは似てるけど違うものだ。なんでお前がそこにひっかかるんだよ』
太郎とカッスのせいで話が進まないが、桐生はお風呂方面に入って行った。風呂の前には当然のことながら脱衣所がある。
「ほーちゃん、急ごう!」
「待て待て」
着替えていることから風呂には入って寝ているはずだが……脱衣する場所にあっさり足を踏み入れていいものか。しずかちゃんよろしく寝ぼけて風呂に入ろうとしている可能性も……なくはない、か。この頃はお風呂タイムとか謎にヒロインが風呂に入るシーンもちょいちょいあった気はするし。
「少し開けて覗いてみよう。着替えて風呂に入ろうとしているようならそれ以上は放っておこう」
現実的な提案をして、脱衣所の扉を少し開ける。桐生がつけたであろう明かりに一瞬目が眩んで、少しずつ目が慣れて状況が分かるようになって、そして。
「桐生、やめろっ!」
急いで中に入って、桐生の肩を掴む。
振り向いた桐生は虚な目をしていて、こちらとは視線が合わない。
「ドラゴン、これを! 隠してくれ!」
手に持っていたそれを急いで奪い取り太郎へ渡す。
「え、あ」
「洗面台の中へ、早く!」
「……分かった!」
「ん…………あれ、ふるいど、さん?」
俺の声が大きかったせいか、桐生の瞳に光が戻り始めて、いつもの綺麗な声で俺の名前を呼ぶ。
「わた……ど、して……あ……」
ぼんやりとした桐生も状況が飲み込めてきたようだ。
90年代後半。ギャルゲーブームの中にも色々なブームがあった。メイドキャラやオカルトキャラといったキャラクターのブーム。発売前でもせつなさ炸裂と言わんばかりに沸き立つグッズブーム。様々あるブームの中に、それがあったことを、俺はなぜ忘れていたんだろう。
鬱ゲーブーム。
ヒロインが死ぬ。ヒロインが救われない。救いようのないバッドエンド。種類も多くあったそれに、宇柚月いろりイベントの不穏な空気から勘付いてもよさそうなものだったのに……!
「傷が、増えて……」
血に塗れた桐生の細腕。それは、まぎれもなく洗面台にあったカミソリで、先ほど、桐生自身がつけた傷だった。
「かまいたちだ」
だったら、良かった。
「かまいたちが、現れたんだ」
つけられたばかりの傷から流れ出る血は、止まることなく、俺が吐き捨てた嘘と一緒にぽちゃりと落ちた。
俺がいつもなら太郎とのバッドエンドのあれやこれやを夢に見てうなされている頃。今は太郎と一緒に桐生すみれ宅の廊下にいた。お化け退治のためだ。
「あんぱん買ってくれば良かったねー」
「張り込みじゃなくてお化け退治だろ」
『我も生ハムメロンがほしいぷん』
『お前の欲望はどうでもいい。胸にしまっとけ』
客間で寝ていてもどうしようもないだろうからとこうして張り込んではいるが、今のところ変わった気配はない。こんな怪しい行動をしているのに桐生の祖父母も絡んでこないところを見ると、間違った行動はとっていないと思うが。
ぶぼっ!
急に爆発音がした。既視感がある展開に思わず鼻を塞ぐ。が。
『貫通しやがる……とんでもない臭いだ』
『ぷぷん。ちょっと臭いやつが出たぷん』
『これがちょっとだと……?』
以前と同じようなやり取りをしながら込み上げる吐き気を堪えていると、先に太郎が倒れた。
「ぐ、ぐ、ぐざぃよぉ……ぼーぢゃぁん」
「落ち着けドラゴン……あと、この臭い俺じゃないからな。一応そこだけ信じて」
人が倒れるような屁をこいたなんてとんだ風評被害だ。なんとしてもそこだけは分かってほしい。
「そ、それじゃあ……この、臭いは」
「ああ……」
ただ、カッスのおならだとは言えないので。
「かまいたちだ」
ごめんな。こちらは何の恨みもないから、そちらもぜひ恨まないでほしい。勝手に凄まじい臭いをかまいたちのせいにはしたけど。
『非科学的ぷん』
『てめーのせいだよ非科学的なブタちゃんが』
ようやく臭いがおさまってきた。ああ、臭かった。これで息ができる。
「あれ、桐生さんだ」
確かに、あれは桐生すみれだ。ネグリジェというのか、ワンピース状のしゃなりとした洒落たパジャマを着て、ふらふらと部屋から出てきた。
「おしっこかな?」
「まあ……桐生もトイレくらい行くだろ」
昭和のアイドルじゃないんだから。アイドルも正直トイレには行くだろうし。
「待って……ほーちゃん」
進む桐生をなんとなく尾行していると太郎が思いついたように口を開いた。
「うんち、かも」
そこはどっちでもいい。出すもの出してスッキリして寝てくれるなら別にこちらとしては構うところではない。
「かまいたちに襲われないといいけど……うんちしてる時に襲われたら可哀想だ」
「そりゃそんな時に襲われたら可哀想だけどさ」
きっとかまいたちじゃないパターンだから大丈夫そうな気もするが……ん?
「大変! ほーちゃん、桐生さんトイレの場所間違えてる! このままじゃ野グソになっちゃうよ!」
「それはそれで確かに由々しき自体であるんだが」
『え、ゆゆ式?』
『それは似てるけど違うものだ。なんでお前がそこにひっかかるんだよ』
太郎とカッスのせいで話が進まないが、桐生はお風呂方面に入って行った。風呂の前には当然のことながら脱衣所がある。
「ほーちゃん、急ごう!」
「待て待て」
着替えていることから風呂には入って寝ているはずだが……脱衣する場所にあっさり足を踏み入れていいものか。しずかちゃんよろしく寝ぼけて風呂に入ろうとしている可能性も……なくはない、か。この頃はお風呂タイムとか謎にヒロインが風呂に入るシーンもちょいちょいあった気はするし。
「少し開けて覗いてみよう。着替えて風呂に入ろうとしているようならそれ以上は放っておこう」
現実的な提案をして、脱衣所の扉を少し開ける。桐生がつけたであろう明かりに一瞬目が眩んで、少しずつ目が慣れて状況が分かるようになって、そして。
「桐生、やめろっ!」
急いで中に入って、桐生の肩を掴む。
振り向いた桐生は虚な目をしていて、こちらとは視線が合わない。
「ドラゴン、これを! 隠してくれ!」
手に持っていたそれを急いで奪い取り太郎へ渡す。
「え、あ」
「洗面台の中へ、早く!」
「……分かった!」
「ん…………あれ、ふるいど、さん?」
俺の声が大きかったせいか、桐生の瞳に光が戻り始めて、いつもの綺麗な声で俺の名前を呼ぶ。
「わた……ど、して……あ……」
ぼんやりとした桐生も状況が飲み込めてきたようだ。
90年代後半。ギャルゲーブームの中にも色々なブームがあった。メイドキャラやオカルトキャラといったキャラクターのブーム。発売前でもせつなさ炸裂と言わんばかりに沸き立つグッズブーム。様々あるブームの中に、それがあったことを、俺はなぜ忘れていたんだろう。
鬱ゲーブーム。
ヒロインが死ぬ。ヒロインが救われない。救いようのないバッドエンド。種類も多くあったそれに、宇柚月いろりイベントの不穏な空気から勘付いてもよさそうなものだったのに……!
「傷が、増えて……」
血に塗れた桐生の細腕。それは、まぎれもなく洗面台にあったカミソリで、先ほど、桐生自身がつけた傷だった。
「かまいたちだ」
だったら、良かった。
「かまいたちが、現れたんだ」
つけられたばかりの傷から流れ出る血は、止まることなく、俺が吐き捨てた嘘と一緒にぽちゃりと落ちた。
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