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高校生編

mission51 土曜日の第一イベントを恙なく遂行せよ!

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 そんなこんなで待ちに待った土曜日。

「ドラゴン、起きろ。30秒で支度しろ」
「ふぇ? ふぁ……うぅん、ほー……ちゃぁん?」

 なぜかやたら色っぽく起きる太郎をなるべく視界に入れないようにして適当に着替えを見繕って投げる。着替え後もまだ寝ぼけている太郎の口を強引にこじ開けて歯ブラシで磨いて唇が柔らかくて指に触れる舌の生温かさが妙に心地よくて

「……っ! あとは自分で磨いてくれ!」
「ぶくぶく……」

 あっぶねぇ! 下手に接触するもんじゃない。

「ほーちゃん、終わったよー」
「よし、うがいして髪整えたら出るぞ」

 これが、土曜日の3:25の出来事である。

 笹川との待ち合わせの時間を朝の四時という信じられない時間に変えてもらい、その後は老人ホームの下見、それが終われば箱森の引き立て役をして、お待ちかねのお泊まりイベントだ。

 我ながらとんでもない過密スケジュールにしたもんだが、こうでもしないとイベントがこなせない。鹿峰のどうでもいい犠牲を一応無駄にしないためにも今日はこれで乗り切るしかない。

 太郎とまだ明け方とは言えない時間の暗い道を歩いてはいたが、例の触手は出てこない。きちんとしたイベントとして認識されれば夜道にも現れないのか。

「あ、笹川さんだ」

 笹川さらら。謎のぬいぐるみパミュリャンと腹話術で会話するミステリアスな少女。朝四時の神社がこのゲームに登場するキャラの中で一番似合っている。

「来てくれたんだ……ふふ」
「おはよう笹川さん! 良い朝だね」

 まだ暗いから良い朝かどうかの判別は難しいが、太郎の元気さは見習いたいものだ。その気力を少しは分けてほしい。

「赤来戸くんも……来てくれたんだ。うん……いいよ。魔力の保有者は、多い方が良い」
「あー……そういや、行きたい場所があるけど自分一人じゃ魔力が足りないとかそんな話だったか」

 このメンツで魔力を本当に有してそうなのはカッスくらいしかいないという貧弱パーティだが、まあゴブリンが出るわけでもあるまいし、問題ないだろう。どこに行くのか全く知らされていない点は怖いが。

「こっちだよ……ほら、こっち」

 神社に入り、本殿の横を通り抜け裏へ。そこから山へ向かう細い道を進んでいくと……。


 大変に雰囲気のある洞窟があった。


 周りでギャァギャァからすも鳴いているし帰りたさ満点だ。

『おいカッス』
『我を気軽においおい呼びつけるなぷん』
『あの洞窟は大丈夫な場所なんだろうな』
『あれぷん? えっと……』

 カッスが尻をこちらに向けて考え出した。なんで俺の鼻先に尻を向ける必要があるのかはあとで問いただしたいところだ。

『ああ、なんか心霊現象が起こるとか噂の場所ぷん。中に入ると誰かに肩を叩かれたり』
「帰る」

 そんな怪しげな場所に一秒だっていていられるか。

「どうしたの、ほーちゃん? うんち?」
「そうだよ……ここまで魔力が満ちているのに帰るなんて」
「知らん。私有地へ勝手に立ち入るのはそもそも厳禁だろ。あとうんちじゃない」

 もっともらしい理由をつけて踵を返す。ここまで付き合ったんだから老人ホームのメンバー代としては十分だろう。

「大丈夫…………ここ、家の土地だから。それに、さ」

 木々がざわめく。それと同時に嫌な風がまとわりつくように吹いた。


「もう、帰るのは難しいんじゃないかなぁ……」


 道が、ない。

 来たはずの道がそこにはない。

「ねっ……パミュリャン」

 そこにあるのは、獣道さえないように生い茂った木々の群れだけだった。ガサガサ、ザワザワと音を立てるそこは、入ったら二度と出られないのではと思わせる。

「そっか、こうなったら進むしかないね。洞窟も笹川さん家のものなら安心だし!」
「いやいやいやなんでそんなに前向きでいられるんだよめっちゃ怖ぇわ! 怖くない? 怖くないのかドラゴンは!?」
『わっ!』
「ひっ!」

 ドラゴンに詰め寄っていると無駄にカッスに驚かされた。なんなんこのブタ。

『ぷーくすくす! 殺人事件で一番に殺されそうな怯え方してるぷん。愉快痛快ぷん!』
『カッスお前……覚えてろよ』

 テレパシーで毒付いてみるが、確かに三流っぽい言葉になってしまった。くっそ、怖がってるの俺だけかよ。

「ふふっ……仲が良いね。じゃあ……進むよ」

 もう進まないとどうしようもなさそうなので、太郎の服の裾を引っ張りながらついていく。いや、これはいざとなれば太郎は守らないといけないから仕方なくしているだけで深い意味はない。怖い。

 洞窟には当然明かりなんてないので、朝方四時の静謐といえば聞こえがいい独特な空気の中を、笹川の懐中電灯一つで進んでいく。ゲームではいいよな。それっぽい背景に立ち絵だけ添えてりゃいいんだから。

 奥からぴちょん……ぴちょんと等間隔に謎の水音が聞こえたり、カビ臭かったりコウモリが出てきそうな心霊現象以外にもなんか嫌な要素が入っているところを進む気持ちなんかゲーム開発者には分からないよな。そんな人の心がないから潰れるんだよお前の会社は!

 と、最大限ゲーム開発者へも呪詛を送っているうちに開けた場所に出てきた。天井も高くなっていて外の明かりが差し込んでいる。あの水音はここからだったのか。どこからか流れ込んでいる水が下へ溜まり、朝日を反射して煌めいている。RPGの回復の泉を彷彿とさせるような、そんな厳かな場所だ。ここなら多少怖くない。

「じゃあ……ひとりずつ、この水を口に含んで」
「え? やだ……」

 現代っ子である俺にそこのへんの水をいきなり口に含む習慣はない。

「儀式のひとつだから……ねっ?」

 そんなお母さんが赤子をあやすように言われても抵抗はある。これ飲水なのか? 本当に大丈夫なやつ?

「飲んだよー」
「ふふっ……早いよ赤来戸くん……」

 含むだけじゃなく飲んじゃったのか。太郎は本当にメンタル鋼だな。見習いたい気持ちもなくはないが、俺にあのレベルは土台無理な気もする。

「それに……口で含んだのを……こうやって、相手に渡すんだよ」

 笹川のキスでパミュリャンの口部分が濡れた。なるほど、相手がいる系の儀式だったのか。……なるほど?


「じゃあ……二人で、やってみて」
「は?」
「え?」


 水を口に含んで、相手に口付けて口の中の水をそれぞれ相手に飲ませる儀式を、俺と太郎で。


「じゃあほーちゃん……んっ……ひゅりゅ?」


 途中で水を含んで、もう準備万端な太郎。



 後ろを見れば、当然のように出口は塞がれていた。
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