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高校生編

mission46 頑張ってる人を応援せよ!

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「んー、実行委員なんて柄じゃないけど、ほーちゃんからの頼みだしね! いいよ!」


 何も考えず秒で承諾してくれた太郎が良い奴に思えてきた。ホモルートさえなければ、変な奴だけど悪い奴じゃないんだよ。うん。


「そういやドラゴン。桐生と昔会ったこと覚えてるか? できる限り詳しく話してくれると助かるんだが」
「桐生さんか……えっとねー」


 太郎からも話を聞いてみたが、結果は同じだった。むしろ、あの時は俺の方が桐生と長く過ごしていたし……俺が覚えてないってことは、詰んだんじゃないか。



『毒でも吐き出せそうな顔してるぷんね』



 失礼なことしか言わない奴が来た。いや、待てよ。



「カッス。そういえばお前はサポートキャラだよな」
『ぷん。なんでもお任せござれなサポートキャラとは我のことぷん』
「さすが頼もしいな。昔桐生と会った時のことを聞きたいんだが」
『桐生ぷんね! 確かに会ったぷん!』
「そうそう、さすがカッスだな! さすカッス! で、桐生と俺が会話した内容なんだけど」
『ぷーん……』


 首を傾げられた。


「お前はもうっ! 本っ当! せめて話に入ってから首を傾げろよ!」
『そんなこと言われても我だって忘れてしまうことはあるぷん!』
「何がなんでもお任せござれだよふざけんな!」
『むきー! 大体忘れたのはお前が悪いぷん』


 カッスに正論で殴られてしまった。


「それを言われると立つ瀬がないんだよ……」
『途端に萎むなぷん』


 分かってはいるのだ。忘れた俺が悪いし、まあ何とかなるだろうと適当なことを言ってしまった俺が悪い。仕事でも忘れたりミスをしたりした時はその場で謝罪が基本なのに。


「あー……何言ったんだ俺は」
『思い出せないってことは大したことじゃないぷん。寝るぷん』


 その日はカッスに慰められて寝てしまった。そうして、次の日桐生に話をしようとしたが。



「なんかもう放課後だし桐生いないし……」
『報われないぷんね』



 自分の人生がそう上手くいってる感はなかったがそこそこやれていたのに対して、ゲーム世界はハードすぎる。フラグの前に心が折れそうだ。


「ほーちゃん帰ろー」
「ドラゴンはいるんだな……」
「うん、いるよー」


 そんなこんなで思い出せそうもない桐生との会話が気になりつつも歩いていると、


「あ、おばさんに買い物頼まれてたんだった」
「ああ。じゃあ寄っていくか」


 息子であるほまれに頼まずに太郎に頼んだのは謎だが、もしかしたらイベントかもしれない。少し回り道をして近所のスーパーに入る。と。


『すごいよ素敵なウインナー! うぃんうぃんあなたもうぃんうぃん! うぃんうぃんうぃんうぃんウインナー!』


 謎の歌が爆音で流れていた。


「なんだこの圧を感じる歌は……」
「初めて聞くねー。えっと、あったあった。青森県産のニンニクと」


 ほまれの親は産地まで指定してるのかよ。青森がニンニクで有名だったか、そもそもニンニクで有名な県がどこかは知らないが……こだわりでもあるのだろうか。


『うぃんうぃんうぃんうぃんウインナー!』
「あとウインナーだ」
「本当に頼まれたかそれ?」


 歌に洗脳されている気がするが、太郎が買うと言って聞かないので、とりあえずウインナー売り場へ。行ってみると、謎の人だかりができていた。ドーナツ化現象と言っていいのかは分からないが、ウインナーの試食販売をしている奴を中心として円状に人が取り囲んでいる。

 ドーナツなので、試食販売およびウインナー売り場は空白地帯となっており、誰も近づいていないが。


「あれ? なんでみんな買わないのかな?」
「あれだけ変な歌が流れていたら売れそうなもんだが……ん?」


 見れば、試食販売員が声を張り上げて宣伝していた。


「美味しいウインナーです! 晩ご飯にどうぞ!」


 通りの良い声で呼びかけているが、良い声すぎて、そして歌同様に圧を感じる声でなかなか近寄り難いものがある。買いたいけど買いにくいからみんな止まっているのか。



 つーか、あれ宮藤じゃねぇか。



「宮藤まなみです! ウインナー! ウインナーいりませんか?」
「それじゃ売れるもんも売れねぇだろ」
「え? あ、う」
「宮藤さんウインナーちょうだい」
「赤来戸も、な、なんで」
「いや、近所のスーパーだし」



 動揺する宮藤を置いて帰ってもいいんだが、イベントの可能性もあるし……とりあえずこのドーナツ化現象だけ解消しておくか。


「宮藤。それじゃウインナーは売れない」
「で、でも人は集まって……」
「確かに集まってるけど売れてないねー」


 よくスーパーにいる試食販売員だが、何も言わなければいるだけで近寄り難いし、積極的に話しかけられても買わなきゃいけない気がしてなんか嫌という客にとってはいてもいいし、試食はしてみたいけどあまり介したくはない難しい立ち位置なのだ。


「適度な接客っていうのが必要なんだよ。とりあえず今はこっちに来い」
「あ……うん」


 宮藤が移動したことで、歌の洗脳を受けた客がちらほらウインナーを買い出した。ここで狙うのはウインナーを見て迷っている客だ。


「宮藤。今だ、あの客に控えめにウインナーを渡してこい」
「え、あの人? 分かった」


 控えめに、というのをきちんと分かってくれたのか、『よければお一ついかがですか?』と、ウインナーを食べてもらうことに成功した。


「試食はこちらにもありますので、良かったらどうぞ」


 そして、人間誰かが食べているとなんとなく自分も食べたくなるもの。ただ、自分から食べたいとは言い出せない人も多いので、その人達用に宮藤が焼いていたウインナーを指差す。

 食べると買っていく人間も多いので、ドーナツ状になっていた人の群れは解消傾向にあった。


「んー。でも、ウインナーって焼くのが面倒だったりするんだよね」


 宮藤の試食を終えた男がそんなことを言い出す。助け舟を出すか。


「レンジでチンしても大丈夫ですよ。チーズや豆板醤乗せると良いつまみになりますし」
「レンチンかー」


 興味を持った男性に、さらに太郎が追い討ちをかける。



「それに、このウインナーすごく逞しいですよ」
「!」



 なんだこの追い討ち。


「逞しいウインナーか……」
「逞しいウインナーです」


 逞しいウインナーって何だろうな。


「ほーちゃん! 売れたよ!」
「……うん。良かったな」


 ウインナーの逞しさはイマイチ伝わってこないが、まあ売れたのなら良いだろう。



「なんか……すごいわね。2人とも」



 個人的には逞しさだけで売った太郎の方がすごいが。


「宮藤。なんかよく分からんが、自分の名前も言ってたってことはアイドル活動の一部かなんかなんだろ? ただ、試食販売するなら主役はウインナーだ」
「うん……」


 やけにしおらしいが、プールで勘違いして泣いていたこともあったし、意外と打たれ弱いのかもしれない。


「おまけではあるんだけど、ウインナー売ってる店員さん可愛かったなーって後々繋げられるくらいが理想なんじゃないか? まあ、その……歌は悪くないし」
「うん。あの歌なんか耳に残るよねー」


 顔もヒロインだけあって悪くはないが、そこは言い出すと面倒なのでやめておこう。


「歌、良かった?」
「うん! 特にうぃんうぃんうぃんうぃんウインナーのとこが良かったよ!」
「……古井戸も?」
「まあ、そうだな」
「ハッキリ言ってよ!」


 そんなにウインナーの歌大事か?


「良かったよ。あれだ。ウインナーの逞しさを感じられた」
「なにそれ」


 そう言う割には嬉しそうだ。適当にコメントしたが、確かに悪い歌じゃない。察するに、宮藤が作詞作曲して歌ったんだろう。案外才能あるじゃないか。


「でも、売れ残っちゃった。もっと勉強しないと駄目ね」


 見れば、ウインナーが5個ほど余っていた。埋め尽くすほどあったわけだから、これだけ売れば成功のような気もするが。



「ありがと。顧客のニーズを捉えるって、アイドルにとっても大事なことよね。今度は手を借りなくても売れるように頑張るわ」



 向上心もあるようだった。あと5個か……まあ、いいか。



「じゃあ俺達も買い物すんだから」
「あれ? ほーちゃん。ウインナー全部買うの?」



 黙っててくれよ。なんか恥ずかしい。


「べ、別に無理して買わなくても」
「あー……たまにはウインナーパーティーしたい時があるんだよ。な、ドラゴン」
「そうだね! 逞しいウインナーを口いっぱい頬張りたい時あるよね!」


 それはないが。


「ってことだから貰ってくわ。じゃあな、宮藤」
「宮藤さんまた明日ね!」
「あ……うん!」


 あんなに通りが良いはずの声は届かなかったが、口の動きで感謝されたのは分かった。



『なんだかお優しいぷんね』
『まあ、方法は間違っていたけど、頑張ってる奴には報われて欲しいからな』



 自分につい重ねてしまったのか。それは自分でもよく分からないが。




「ふぁっ! お汁、肉汁がすごくて口いっぱいあったかいのでいっぱい! このウインナーすごい! すごいよほーちゃん!」






 急遽開催されたウインナーパーティーは、ひどく食べづらい中で行われた。
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