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高校生編
番外mission3 愛の大切さを実感せよ!
しおりを挟む高校生になってからしばらく経ったある日のこと。俺は箱森の家こと本屋に一人で来ていた。太郎とみけと箱森で遊ぶことになったのだが、女子二人は二階で準備中。太郎は、
「目覚まし鳴らなかったんだよー! セットしたはずなのにー!」
と、朝からその目覚ましに起こされて不快な思いをした俺のことなど考えもしない発言をしていたので置いてきたのだった。まあ、すぐに来るだろう。
「……ん? 同人誌コーナーか」
珍しいな。こんな小さな書店に、しかもこの時代に同人誌を置いているなんて。
「ふふっ。お勧めをお探しかい?」
「友達の親のおすすめ同人誌を読む俺の身にもなってください」
箱森の親父は以前と変わらず、ひげグラサンスキンヘッドという、本屋の店員のイメージとはかけ離れた姿で登場してくれた。仕事しててくれよ。
「いやいやいや! 今回は活きの良いのが入ってるんだって!」
「魚じゃあるまいし……ん? これは……!」
ママレードボールの同人誌か。現実ではもちろん分離していて、かたや少女漫画、かたや少年漫画で真逆の方向性ではあるがどちらも名作と名高い作品だ。ただ、この世界はそれが一つになっている上の同人誌だから……何系なんだ?
「ママレードボールは坊主も知ってるだろ?」
「俺が知ってるのと違う恐れがあるので、一応教えてください」
「いいだろう。こっちに来な」
わざわざ小さいホワイトボードまで出してきた。暇なのかこの親父。
「パッパラとポポロンの脱獄編までは説明しなくてもいいだろ」
「ちょっと待って」
パロディでもなんでもなさそうな知らない奴らの知らない話がいきなり出てきた。名前的にアレとアレの組み合わせじゃないのかよ。
「ん? じゃあアエグニュートリューン編までしか読んでないのか?」
「俺が追いつけるところから話してください」
つまりは、最初から。
「まず、天照大神って神がいて」
「そのへんは冒瀆になりそうなんで飛ばしてください」
これから同人誌を語るような下りで出す名前じゃないだろう。
「注文の多いガキだな……。まあ、そんなこんなで、悟海と多少伝線のある薄手の黒ストッキングが旅に出たんだが」
まだパロディ感ある名前だが、相棒が細分化された好みの一つになってしまっている。名前なのかそれは。
「その先でお互いの両親がパートナーを入れ替えて再婚して」
旅に出てから訳のわからん展開ではあるが、まだパロディ的なところが残っているからついていけるな。
「その関係で二人もギクシャクしちまうんだよ」
「まあ、するでしょうね」
きちんとした原作の方はそのもどかしいような甘酸っぱいような、時に強引なような展開に心奪われたものだ。まさにマーマレード。
「それで、悟海と伝線黒ストが兄妹であることも分かって」
「そう略すんだ」
「誤解なんだが、2人とも別れちまって、そこで出会ったのが……」
このへんから全くついて行けそうにないが、パッパラとかいうのが出てくるのか。
「ヤマタノオロチ」
「飛ばして飛ばして」
「モンスター系は良いだろ」
「モンスターとかいうと同じ作者がキャラデザやってる別のゲームも想像できてややこしいんですよ」
大物を敵に回さないでほしい。
「っかー! 何も説明できねぇじゃねぇか!」
「すみませんね」
「まあここらで同人誌の話に戻ると、通常は伝線黒ストのゲソNTRを想像するだろ?」
それがその同人界隈のスタンダードなのか? 悟海と伝線黒ストの純愛系じゃなくて。
「ただ、これは……変身能力を持つパッパラとポポロンが男体化した伝線黒ストと擬人化されたポポロンのダブル不倫触手ものという一線を画した」
「想像が難しいやつやめてください」
なんでも詰め込めばいいってもんじゃない。結局パッパラとポポロン知らないし。
「まあ、それに……。俺はまだ高校一年生。その同人誌は読めませんよ」
「はっ。何を言ってやがる」
箱森の親父は無駄に溜めて、
「……これは、R-15だ」
口元を歪めるかのように、笑った。
R-15。あくまで個人的な見解であるが、昔からネット小説を中心に「ちょっとエッチな描写」があるものがよく振り分けられてきたカテゴリである。
しかし、作者によって「ちょっとエッチ」の塩梅が違うせいか、本当に「ちょっと」なものから、「え? ここまでやっちゃってもいいんですか?」的なものまで幅広く、さらにはこれも作者によっては隠しリンクの先にあることもあり、R-15というだけですでにエロいような、18禁よりもハードルが低い分、より中学生あたりから血眼になって読む人間もいる分野である。俺はそこまで読んでいないが。
なお、それが暴力的な描写でR-15だったと読み終わった時に気づいて、肩を落とすのもまた一興である。
「ほう……高校1年生でも読めるギリギリのところをついてきますね」
「ふふん、少しは興味が湧いてきたか」
しかし、この程度で俺が堕ちると思ってもらっては困る。
「ただ、知らないジャンルの同人誌に手を出すのは不敬では?」
「ふん、同人誌なんて存在そのものが不敬みたいなもんさ」
まあ、中には敬意を込めて書いているものもあるだろうけど。最終的には作者とか出版社が許すかどうかだからな。
「この同人誌が今なら500円!」
安い。手元にある金で買えてしまう。
「さあ、今ならコレとコレもつけて三千円だ!」
「在庫処分をしないでください」
まあ、そろそろ太郎も来るだろうし、2人も降りてきそうだし、たかだかこんな知らない同人誌のために金を払うこともないか。うん。
そんなこんなで4人で遊んで帰ってから。
「詐欺じゃねぇか!」
『何を騒いでるぷん』
「フルカラー16ページって書いてあるのに、3枚以外は差分でちょっとテキスト変えただけだし、細かく説明されてないし、後書きとゲストコーナーこんなにいらねぇよ!」
『よく分からんが落ち着くぷん』
カッスの言葉もなかなか耳に入ることはなく、作者に届くようにと叫ぶ。
「複雑な要素詰め込むならちゃんと書けよ! 愛がないんだよ! 愛が!」
「ほーちゃん!? 愛がどうしたの?」
「うるせぇ!」
今回ばかりは悪くはなかった太郎をうっかり怒鳴ってしまったが、太郎には愛の大切さをしっかり分かってもらいたいものだ。
なお、騒いだ罰でほまれの母親には割とひゅんとするくらい叱られた。
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