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高校生編

mission39 戦いの終着点を見届けよ!

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 前回のあらすじ。ギャルゲーの主人公が攻略対象にツームストーン・パイルドライバーを仕掛けていました。終わり。


「逃げないで! 話をしたいだけなんだ!」
「ぎゃぐぅぅぅううう!」


 いかん。箱森が攻略対象に有るまじきガチの悲鳴を上げている。なんとかしたいが、どうしたら解決するんだ、これ?


『あ! あれを見るぷん!』
『なんだカッス!』
『飛行機雲がクロスしてるぷん! 初めて見たぷん!』
『確かに珍しいな! 馬鹿野郎!』


 無駄な時間を過ごしてしまった。太郎と箱森は……あれ?


『なぁ、カッス』
『何ぷん? 我はもう少しこの素敵な景色を見ていたいぷん』
『生きてりゃ何回かは見れるだろ。そんなことよりアレだ、アレ』


 ツームストーン・パイルドライバーがかかった体勢のままではあったが、攻守が逆転していた。そう。箱森が太郎にかけていたのだ。


「箱森さん落ち着いてぇぇ」
「うぐぅぅううう」


 こんな可愛くないうぐぅ聞いたことねぇよ。


『ああ。ツームストーン・パイルドライバーは掛けた側に仕返すことができるぷん』
『なんでお前知ってんの?』


 あまりプロレス技に詳しそうには見えないが。


『あんな感じでやってやられてで転がることもあるぷん』
『あんな感じ?』


 見れば、太郎と箱森が技を掛け合いながら転がっていた。プロじゃないせいか、なんかそういう虫みたいで気持ち悪いな。ある程度転がったところで力尽きたのか、2人は離れた。太郎は主人公補正でか、まだ元気そうだ。他も補正してくれ。


「箱森さん、僕は、ただ昔のことを謝りたかっただけなんだ」
「え……?」


 そりゃ、謝るよりも先に技をかけられたら、え……とか言いたくなるだろうよ。


「可愛くないなんて、傷つけるようなことを言ってごめんね。ずっと、気になってたんだ」


 言葉だけ聞けば良い感じに聞こえるが、気になってる割にお祭りは全力で楽しんでいたな。気にしたら負けなのかもしれないが。


「で、でも、赤来戸くんは、私のこと、可愛いなんて思ってないんでしょう?」
「思ってるよ」
「え……?」


 え……、とは俺も思うが、順調にイベントが進んでいるようなので、ツッコまないことにする。


「箱森さんは可愛いよ。久しぶりに会って、髪型が変わったり、眼鏡もかけてたりしたから最初分からなかったけど、可愛いのは変わってないよ」


 どこで仕入れた知識だ? さっきまで人の話に飽きてリコーダー吹いてたとは思えないような立ち振る舞いだ。今なら、どこかの乙女ゲーにゲスト出演しても歓迎されるかもしれない。そんな太郎の言葉を受けた箱森は、



「へっ」



 荒んでいた。なんでだよ。


「可愛い可愛い言っときゃ解決するって思ってるんでしょ? あー、やだやだ。思ってもいないこと言っちゃってさ」


 コイツはコイツで変わりすぎだろ。


「はっ。そりゃ小さい頃、父親の言うことを間に受けて自分で可愛い可愛い言いまくってましたよ。えぇえぇ。歩く黒歴史ですわ。あー、生きててごめんなさいね」
「お前……何があったんだよ」


 親なら大部分が子供に可愛い可愛い言うだろうし、小一だったらまだ黒歴史というほどでもないだろうに。そんな俺を箱森は睨みつける。


「どうせアンタ達だって笑ってたんでしょ。春日野さんの方が可愛いのにこんなブスが何言ってるんだって」
「ブスなんて一言も言ってな」
「今言った! 言ったってことはやっぱり心の中で思ってたんでしょ!」


 なんか激昂された。なんだこの情緒不安定なら生き物は。


「箱森さん普通に可愛いと思うけどなぁ」
「本当に可愛い子には普通なんて言わないもん」


 一言で言うと……拗らせてんな。『私ブスだからー』っていうのに同意しても怒られるし、そんなことないよって言っても具体的にだとか、でもでもとか、なんかぐだぐだ続いていくやつだ。


 つまりは、面倒臭い。


「三つ編みも似合ってるよ」
「これは編み込みだもん」
「編み込みも可愛いよ」
「さっき覚えた言葉を適当に使わないでくれる?」


 むしろよく太郎は戦っている方だと思う。俺は若干イライラしてきた。



「私のことなんて本当はどうでもいいんでしょ? なら放っておいてよ」



 面倒くせぇぇぇえええ! とは思うものの、元の原因を辿れば太郎の言葉なんだろうし。元に戻すにはどうしたらいいんだ、これ。


「分かった、じゃあ放っておくね」


 面倒臭くなったわけでもなさそうだが、太郎は言われた通り素直に諦め、焼きそばパンを食べ出した。え、ここで食べんの? 俺そんな勇気持ち合わせてないんだけど。


「わ、私パン買いに行きそびれたのに……」


 コイツはコイツで気にするのそこかよ。太郎はカツサンドも食ってるし……ああもう。


「食えるかわからんが、俺のをやるよ」
「ぜんまいわらびクリームパンに……よもぎサバパン!?」


 在庫処分の要領で渡したが、やっぱり駄目か。



「な、なんで私の好きなものばっかり……」



 お前はこんなゲテモノが好きなのかよ。親父は何食わせてるんだ。先程までとは打って変わって柔らかい雰囲気が箱森を包む。そういや、コイツ無駄にチョロかったな。


「あ、ありがと。あんまり信じられないけど……2人の言うことなら、ちょっとだけ、信じてあげても、悪くはないような、いいっちゃいいんだけど」


 モノにつられてんじゃねぇよ。あと言い回しがどっちか判断つきにくいわ。


「な、何よ。じろじろ見て。私、そんな簡単な女じゃないんだからね」


 俺が箱森の顔を見てしまう理由は口元にでかいぜんまいがついているせいだよ。早く取れ。


「でも、こんな私にこんなに構うなんて、まさか2人とも、私のこと、す、すきとか」


 そこはポジティブなんだな。勘違いだけど。


「僕そういうのよくわかんない」


 子供か。むしろお前はギャルゲーの主人公として少しは知っておいてくれ。


「え、そうなの? 古井戸くんは?」
「俺は生まれつきそんな感情は持ち合わせていない」
「そう……2人とも、可哀想な生き物なのね」


 憐まれた。なんだコイツ。



「私よりも可哀想……。! そういうこと。いいわ、すべて分かったわ」



 豆電球がついたようなアイコンは久しぶりに見たよ。そして、何が分かったと言うのか。箱森は、よもぎサバパンを食べ終えたと言うのに、まだぜんまいがくっついたままの顔を誇らしげなものに変え、高らかに宣言した。




「不肖、この私が赤来戸くんと古井戸くんに恋愛とは何かを教えてあげるわ」




 ベスボと違って本当に不肖じゃねぇか。





 早く昼休みが終わることを祈っているが……。






 残念ながら、こういう無駄なイベントの時に限って、都合良くチャイムは鳴らないまま。
 箱森の恋愛レッスンが始まるのであった。

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