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高校生編
mission37 アイドルを引き止めることに成功せよ!
しおりを挟む「……アイドルと付き合うなんて面倒臭そうだから嫌だ」
「そういう付き合うじゃないわよ!」
そんなこんなで、宮藤と帰りを共にすることになった。太郎の様子が気になるんだが。
「……アンタは、高校までどうだったの?」
記憶にないことを言われてもな。
「俺は過去に囚われずに生きてるから」
「なにそれ」
自由に生きてるのね、と褒め言葉になっていないセリフを吐いて宮藤は笑う。そうして、しばらく歩いて公園に辿り着いた。幼少期に太郎と遊んだあの公園だ。
「……ここさ、初めて地元でロケした場所なんだ」
「ドラドラパンポロピンのハッフハフだっけ?」
「ドドスカポンピンパンのハフハーフ!」
「知ってるよ」
一瞬しか見たことはないが。
「知ってたならちゃんと言いなさいよ」
「俺もたまにはボケたいんだよ」
「なにそれ」
目的地に着いたからといって帰れる雰囲気じゃなさそうだ。まあ、太郎もさすがに少し離れたからといって、揉め事を起こすなんてことはないだろう。そこのへんにある適当な馬の乗り物に座る。これは……なかなか。
「噂は、アンタも知ってるんでしょ?」
姉に居場所を取られ、追いやられた的なアレか。
「私、自然な演技が可愛いって、ずっと言われてたの。子供らしい、無邪気な可愛さだったのかな? とにかく、それに応えたくて演じてきたの」
自然な可愛さを、ずっと演じていた。
「でも、なんか分かんなくなっちゃって。それじゃ子供すぎるとか、あざといとか、求められるものを演じてただけだったのに」
子役の最大の欠点は、成長することだ。成長に応じて求められるものが違うことを理解し、それに応え、需要と一致して初めて数少ない生き残りになることができる。宮藤は、よくある失敗例だっただけだ。
「素の私ってなんだっけ? って。分かんなくなって、帰ってきたんだ」
ただ、そう話す宮藤の顔は、諦めたものではない。何かを掴むために、何を言われても構わないと、決心して帰ってきたそんな顔だ。
「アイドル……また、なれるかな?」
宮藤は、こういう分かりきった答えを求めるような質問をしてくるな。
「興味ないな」
「はぁ!?」
分かってるよ同意求めてるんだろなれるよって言ってほしいの分かるけど。
「なんか面倒臭い」
「なにそれっ!?」
宮藤はすごく怒ってはいるが、正直な気持ちだった。多分同意してもダラダラ続く会話だろ、これ。なぜなら、
「だって、お前は俺がどう言おうとアイドル目指すだけだろ?」
何を言っても結果が変わらないなら、相手をするのも面倒だ。ぐじぐじ悩んだところで、どうせコイツは自分の決めた道しか歩まない。
「俺がアイドル辞めろって言ったら辞めるのか?」
宮藤は一瞬迷ったが、
「やめない」
あっさりと、自分の答えを口にした。
「あー、なんかもうバカみたい。アンタと話するんじゃなかった」
わざわざ放課後の貴重な時間を割いてやった割にこの言い草である。世の中のアイドルはもうちょっと謙虚でいてほしいものだ。
「うん。じゃあ、私都会に戻るわ」
「は?」
今度は、俺が驚く番だった。
「まあ、入学式まで出といてなんだけど、アイドルやるならやっぱり都会じゃないと。今度こそしっかりやらなきゃって気にもなったし。特にここにいる理由は」
「待て待て待て」
現在攻略対象は10人。攻略不可になった鹿峰とどう考えても無理なみけを除くと、宮藤を入れて8人しかいない。桐生が本命で綾咲が二番手としても、ここであっさり宮藤を手放していいのか?
「高校にはいてもいいんじゃないか?」
「だって都会からだと通いにくいし、拠点もあっちの方が便利」
「田舎だけどここはまだ暮らしやすい方だろ!」
ゲームの特性上、一つの街に図書館もプラネタリウムも海も公園も神社もと、詰まっている分暮らしやすいはずだ。便利が良いかは知らないが。
「いや、都会だと普通にあるし」
「便利に慣れすぎたら終わりなんだよ!」
自分でも何の話かは分からないが、とりあえず引き留めないと宮藤が永久追放されそうな気配を感じる。コイツの好みのタイプが何だったかは忘れたが、残しておくに越したことはない。
「アイドルなんてどこでもできるんだよ! ご当地アイドルとかいうだろ」
「なにそれ」
そういえば、まだご当地アイドルが栄えていない時代だった。
「大体、お前そんなに勉強できそうな顔してないし、あっちに戻ったら鹿峰みたいなアホになるに決まってるんだよ!」
「はぁ!? アンタ何言ってんの?」
しまった、つい鹿峰の名前を出してしまった。ごめんな、鹿峰。アホであることは否定しないが。
「失礼なことばっかり言って……。アイドルになってほしいのかほしくないのかどっちなのよ! 応援してくれるんじゃないわけ!?」
「そんなことはどうだっていいんだよ!」
アイドルなんてこの際どうでもいいが、あとは何か、何か言わないと。ああ、もう。
「とにかく、お前がいないと困るんだよっ!」
つい、大声で放ってしまった言葉は、何か別の意味が混じっているようにも聞こえた。本当は、混じってなんかないのに。
「アンタは……私がここにいないと困るんだ」
「そういう意味じゃないが」
「どういう意味よ」
ジロリと睨み付けられる。今日は厄日だ。まだ高校入学して初日なのに。
「……なんかそんな感じの意味だよ」
まさか、太郎のキープで残ってくれとは言えるわけもなく、適当にお茶を濁す。
「よく分かんないんだけど」
相変わらず怒ったような宮藤は、少ししてからため息をつき、
「ま、入学したばかりだし。この辺にも事務所はあったはずだから、そっちで実績作ってもいいけど」
髪を弄りながら、どうやら残る選択をしてくれたようだった。
「マジ助かる……」
「そんなに!?」
全身の力が抜けて馬にもたれかかる俺を、さすがに宮藤も心配してくれたようだった。良かった。これで宮藤まで消えたら、入学早々縁起が悪いなんてもんじゃない。
「宮藤」
別れ際、きちんとフラグを立てておく。
「また明日、学校でな」
時間と場所をきちんと伝えることは重要だ。俺も、太郎で学んだからな。宮藤は、はいはい、と悪くは思ってなさそうな様子で帰っていった。疲れた。
『それにしても女性の扱いが上手くない感じがぷんぷんしたぷん』
傍観者がぷんぷんうるさい。
「前にも言った通り、女性の扱いが上手けりゃこんなゲームはしてないし、なんならこんなとこにはいないんだよ」
『先が思いやられるぷん』
うるせぇよ。それに、女性の扱いが上手くならなきゃいけないのは太郎の方だ。
「ただいまー」
階段を上がり、今度は間違えないように自分の新しい部屋へ行くと、
「え!? ほ、ほーちゃんっ! おかえりっ!?」
荒らされた俺の部屋で、俺のパンツを頭から被った太郎がいた。
「お前は本当に何してんの!?」
「ちが、違うんだよほーちゃん! こけたらこっちが倒れてそっちがああなって!」
「本当もう! お前のためにすげぇ頑張って帰ってきたのに!」
教訓。太郎はできるだけ1人で行動させないようにしましょう。
後日。
「さすがにこうはならないわよ!」
鹿峰を指差しながら宮藤はめっちゃ怒っていた。
「ねぇねぇ! 渾名マナティでいい?」
「アンタはアンタで本当自由ね……。マナティって確か人魚のモデルだったかしら」
「そうそう! このブサイクなゾウみたいなの! 食べられるみたいだし、ぴったりかなって!」
「アンタどのへんをぴったりだって思ったのよ!」
騒がしいコンビだ。
でも、まあ。
素の宮藤で生活するのも悪くはないんじゃないだろうか。
と、面倒なので本人には絶対に言わないようなことを、なんとなく思った。
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