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幼少期編

mission27 フェチシズムを教授せよ!

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「子供達が遊ぶ風景写真を撮ろうとしただけ……だが、慣れないデジカメで失敗してしまってね」



 もっともらしい言い訳ではある。監視係もあまりの肌色率に戸惑っているし、このまま釈放もあり得そうだ。


 俺さえいなければ。


「慣れないデジカメでよくこんなに撮れるものですね」
「ああ、試し撮りってやつだよ」
「いえ、俺が言っているのは」


 このやや小麦色に近い肌色、わずかながら見える窪み。ヒントというより最早答えだ。




「慣れないデジカメで、小学生男子の膝裏ばかりよく撮れましたねって意味ですよ」




 場が凍る。男は数秒の沈黙の後、明らかに慌て出した。


「な、なぜ、そんなっ! わかっ」
「小学生女子はこの時代でさえ日焼け止めを塗っていて何も塗らないことが多い男子よりも肌がやや明るいことが特徴。それに、この肌色の中にある窪みは一見脇の下と迷うところですが、この骨の出方を見ればすぐに膝裏だと分かる」


 簡単な推理ですよ。言うと、男は膝から崩れ落ちた。


「私は……私は、ただ、少ない供給を、少しでも増やして、同士に喜んで欲しかっただけなんだ……」
「ニッチな趣味であるのは分かります。ただ、盗撮は犯罪ですよ」
「……はは、返す言葉もないね」


 その後、手の空いたらしい別の監視係が来て、男はどこかへ連れて行かれた。とりあえず解決して良かった。元々いた監視係とともにプールへ戻る。


「しかし変わった趣味の人だったね」
「まあ、世間はそこそこに広いですから」


 脇の下がメジャーに思えるくらい、フェチシズムの世界は奥深い。

「僕は熟年女性の白スクにしか興味がないからよく分からないけど」

 その趣味はその趣味で供給があまりなさそうだ。謎に性癖を告白しただけの監視係は、じゃあ、と一言言って監視係用のやたら高い椅子へと戻っていった。暑そうだな。


 それはそれとして、宮藤だ。


 ベタつく汗をそのままに、宮藤はまだうずくまったままだった。普段は親が守ってくれているのか、1人で対処しなければならない状況は余程怖かったらしい。


「終わったぞ、泳いでこい」
「つ、捕まったの?」
「ああ、監視係がどっか連れてった」


 宮藤は力が抜けたのかそのままへたりこむ。太郎を早く探しに行きたいところだが、放っておくのもなんだな。


「なんでも小学生男子の膝裏専門の変態だったらしい」
「は? なにそれ?」


 俺に聞かれてもな。一応膝裏の魅力くらいは解説した方がいいのか? だが、小学一年生からアブノーマルなことを知るよりは、ノーマルなことから段階的に知っていった方がいいだろう。どうせ、アブノーマルな魅力に落ちる奴は何をしてもそこからは逃れられないんだから。


「あー、その。つまり、足の裏があるだろ? その滑らかなラインが」
「なにそれ」


 ノーマルな解説を話し始めたばかりだというのに、宮藤はいきなりツッコミだした。足の裏でもまだ難しい方だったか?


 いや、


 違った。



「なにそれっ……」



 宮藤は、泣いていた。



「自分が撮られたなんて……恥ずかしい勘違いしてっ! すごい、バカみたいじゃないっ! 自意識過剰で、思いあがって……」



 ああ、そういうことか。




「バカみたいっ……」




 他の奴は気づかないフラッシュの光。それに何度も晒されて怖い思いをして。まさか、と思って動くことさえできなくなって。たまたま俺が通りかかるまで誰にも頼れなくて。



 だけど、自分なんて誰も撮っていなかった。



 思い上がり。自意識過剰。おまけに、そうした姿を見られたのはアイドルとしての自分をまるで知らず、自分のことを傲慢だのゲロ以下の存在だの言っていた奴の友達。


 無事だったことの安堵以上に、湧き出す羞恥心に押しつぶされそうになるのも無理はない。


「最低……最低っ……」


 泣きながら自身を罵倒している宮藤に、さすがに何も思わないほど俺も冷酷じゃない。



「別にいいんじゃないか」



 適切な言葉かどうかまでは、分からないけれど。



「アイドルなんてそもそもバカじゃないとなれないだろ。俺だったら、周りからカッコいいなんて言われても耳を疑うだけでアイドルになろうなんて思わないからな」



 しゃくりあげる声は止まった。まだぐずぐずはしているようだが、少しは落ち着いただろうか。


「周りの言うこと信じて、期待に応えて。人一倍努力もしなきゃなんないようなもの、普通なれねーよ」


 だからこそ、尊敬はする。



「自意識過剰結構。今回何もなかったなら良かったじゃないか。お前のお陰であのへんの何も考えてない小学生男子が怖い思いせずにすんだしな。
……少なくとも、俺はお前に何もなくて良かったと思うよ」



 本当に、宮藤の盗撮が目的の人間だったなら、いくら捕まったとしてもその恐怖がすぐに消えることはないだろう。



「あー……だから、その。避難訓練みたいなもんだと思って」
「もういい」



 言葉がなかなか出てこない俺に呆れたのか。




「……もういい」




 宮藤は、俺の前で初めて優しく笑った。いつもは人を見下すようにしか笑わないくせに。

 いつの間にか止まった涙の跡を腕で乱暴に拭い、お尻についた埃をはたいて立ち上がる。
 そして。



「ほら、はい」



 徐に足を突き出された。一応裏側を見せている。


「好きなんでしょ? お礼」


 なるほど。先程の一般的なフェチシズムを俺の嗜好だと勘違いしたわけか。


「どっちかというとおへその方が」
「はっ!? 見せるわけないでしょ! バッカじゃないのっ!」


 宮藤は急に激昂してプール方面へ行ってしまった。なんだよ。二択かと思ったのに。まあ、別に旧スクの下のおへその位置を想像するだけでも人は満たされることを知らないお子様には、まだ早い選択肢だったか。



 さて、大分遅くなってしまったが、太郎を探すか。



 と、俺もプールサイドまで辿り着いたところで、思い切り水が飛んできた。




「バーカっ」




 悪戯っ子のように笑う宮藤に、





 水を得た旧スクが、







 とてもよく似合っていた。
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