上 下
16 / 57
幼少期編

mission15 適切な雑誌を購入せよ!

しおりを挟む
 スポーツドリンクを飲んで回復した桐生は図書館の中へ。再度トイレに行きたくなったらしい太郎も図書館の中へ入り、俺一人が残された。

「おい、カッス」
『何ぷん? 今我は日向ぼっこで忙しいぷん』

 暇そうに日を浴びていた。夏だから暑いぞ。

「一日で起こるイベントは基本ひとつなんだよな」
『そうぷんね。午前中にパラメータを上げて午後に街へ出てイベントひとつの流れぷん。確率で起きるイベントやおまけイベントくらいはあるぷんが』

 その2つは攻略本には記されてなかったな。あの攻略本も発売前に出た雑誌の付録だから、この先は君の目で確かめてくれ方式だったし。仕方ない。

「まだ夕方になっていないが、これから本屋に行っても時空の狭間は現れないか?」
『それは問題ないぷんね。あれは目的地に行かないとか、決められたことをしてない時に出てくるぷん。あと、夜になると出るぷん』
「お月様かよ」

 カッスの長ったらしい説明を省略すると、夜の背景を作り込んでいないのが原因らしかった。作られていないところに一歩でも踏み出すと呑まれるらしい。まあ、夜に外出することなんて早々ないだろうから大丈夫か。



……大丈夫か?



 それはともあれ、本屋へ行きたい理由はひとつ。魅力を上げる本を変えるためだ。カッスが買ってきた適当な本で魅力が上がったのなら、別な本でも問題ないだろう。あの本は早く捨てたい。

『我が買ってきた本を無駄にするのは複雑ぷんが、魅力を上げよう! と思って本を読むことが大事だからなんでもいいぷん』
「プラシーボかよ」

 要は気分の問題だった。それっぽい本ならなんでもいいかもしれないが、実害が酷い。


「ほーちゃんー」


 太郎が戻ってきたことだし、そろそろ行くか。


「見てみて! おっきいミミズ!」
「確かにでかいな。捨ててこい」


 真っ直ぐ戻れって言ったじゃねぇか。あとミミズよく触れるな。俺なんて今ダンゴムシ触るのも無理だぞ。小さい頃なんで触れてたのか分からんくらいだ。

「ばいばーい」
「せめて土の上で捨ててやれよ! アスファルトで焼かれてんぞ!」

 太郎にもう一回拾わせて日陰の土の上に再度放させた。とんでもないことするなコイツ。と思ったが、思い当たる節もある。


 優しさがないのだ。


 太郎のパラメータは学力高め、体力そこそこ、微量の雑学に皆無な魅力と優しさ。デートの際、帰られないためになんとか今日魅力を上げ始めたところだが、人としての優しさが欠けたサイコパスになりつつある。

 攻略本によれば、桐生すみれは学力・体力・魅力重視。明日以降会う本命は学力・体力重視。キープで考えている相手も学力・魅力重視だが……さすがに優しさがないのも不味いか。難しいな。


「ほーちゃん、本屋さんってここ?」


 考えている間に本屋へ着いたようだ。元気に先に中に入っていった太郎が心配ではあるが、とりあえず本を探すか。

『ぷん? そこは教養関係の本じゃないぷんよ』
「それは知ってるんだが」

 レジに近い棚にエロ本が置いてあるのを懐かしんでただけだった。ラインナップを見ても分かる通り相当自由な時代だったと思う。やましい気持ちはないが、とりあえず一冊手に取って中を開こうとすると。


「おいおい、坊主にゃまだ早いぜ」


 エプロン姿の非常にいかついおっさんに話しかけられた。スキンヘッド・サングラス・ひげ。接客業ならワン・ツー・フィニッシュだろう。

「子供はこれでも読んでな」

 渡されたのは自由帳だった。どう読めってんだよ。

「別にやましいことは何一つないですよ」
「何?」

 見た目は子供だが中身は大人の俺を舐めてもらっては困る。


「その本は、全年齢向けです」


 俺の言葉に店員らしきおっさんは急いで雑誌を確認する。

「ほ、本当だ! 表紙の雰囲気から確実に18禁だと思えるが、どこにもそのマークがついてねぇっ! この18禁が数多ある雑誌の中からあえてそれを選ぶとは……お前、何者だ?」

 自由帳は……この棚か。そこに返しながら店員にも返答する。


「別に……ただ本を愛する者ですよ」


 つい強キャラ感を出してしまったが、なんということはない。現実世界の名前が少し違うそれを知っていたからだ。本はきちんと並べたい派だから正しい棚へ持っていこうと思っただけだ。8歳が読んでも怒られないギリギリを瞬時に選び取って読もうとしたわけでは決してない。


「ほーちゃん、じゃぼんあったよー」


 なんか有名な少年漫画雑誌と少女漫画雑誌が融合したような名前だ。

「ママレード・ボールが学校ですごい流行っててね」

 一字違うだけで嫌な予感がするな。というか、じゃぼんは探しにきていない。


「店員さん、ちょっと聞きたいことが」
「おとうさーん、ってあれ? お客さん?」


 声と共にレジ奥の引き戸が開いた。見覚えのある真っ赤な髪にツインテールの女の子。攻略本でも紹介されていた、箱森ひより。確か本屋の娘という記載はあったが、こんな簡単に出会えるとは。桐生の時の苦労が嘘みたいだ。

『確率イベントぷん。1024分の1の確率で、この日に出会うことがあるぷん』

 攻略本に【ここで書いてある出会い方以外で出会う子もいるかも…?】とも書いてあったな。出会いが違うだけで、あとのイベントには支障がないわけか。

「いらっしゃいま……っは、はっ、へっく……ふぅん」

 口に手も当てていたのにくしゃみは出なかった。出そうで出ないのって見てる方ももやもやするんだよな。


「好きだっ!」


 太郎は箱森になぜか告白していた。いきなり何してんのコイツ。と思ったが、アレか。


【女の子が口に手を当てていたらそれは告白待ちの合図です】


 チョットドッグプラスのトンデモ記事を本気にしていただけだった。元ネタの雑誌はここまでじゃなかった気がするんだが。それは置いておくとして、箱森だ。

「ふぇっ!? ちょちょちょ……すきって、えぇ?」

 めっちゃ動揺してた。イケるんじゃないかこれ。


「きゅ、急に好きとか言われても、その。困るっていうか」
「僕は困らないっ!」
「えぇっ!?」

 まあ太郎は困らないだろうよ。とりあえずこのまま静観しよう。

「君のその……赤い髪! 消防車みたいでなんかいい感じだし、目もタガメみたいだ!」
「タガメ?」

 睡眠学習してんじゃねぇよ。それは俺がカッスを微妙に褒めた時の言葉だ。


「おいおい、俺の目の前で娘を口説きだすとは良い度胸だな」


 せっかく良い具合にチョロインしてるんだから父親がチョロガードしてくるな。クソッ、何かこの親父を止める方法は……。

「お父さんはちょっと黙ってて」
「あ、はい」

 あっさりチョロガードガードされていた。なんだろうな。自分より年上の人間が年下の人間に説教されている姿を見るのはなんだかいたたまれない。

「あー……あの年代の子供なんてみんなあんな感じだと思いますよ?」
「そうかい……」

 自分もその年代の子供の姿ではあるがそこはどうでもいい。太郎だ。あと少し押したらエンディングイケるんじゃないか! 思わぬ誤算だ。馬鹿にして悪かったよチョットドッグプラス!


「僕と、この夏を駆け抜けてくれ!」


 告白の言葉かどうかは微妙だが、箱森は真剣に考え込んでいる。早く、早く良い感じのエンディング曲が流れてくれ。頼む。



 箱森は、しばし考えた後。



「あー、うん。ごめんね。うん。私が可愛いから告白するのは分かるけど、ズボンにおしっこつけてる人、私タイプじゃないから」



 普通に太郎を振った。


 うん。不自然なシミあるもんな。さっき見た時より心なしか広がってるし。



「そっかー、残念」
「魅力を上げて出直してきなさい」



 的確にアドバイスされた。まあ、ズボンに盛大なシミ作ってれば、いくらイケメンだろうと魅力なしと判断されるだろう。残当というやつだ。


「箱森、女子の気持ちを男子が勉強したい時はどの本がいいのか教えてくれないか? できたら今から勉強して高校くらいで使い物になるくらいの本」
「なんで私の名前……っていうか、具体的すぎて気持ち悪いわね」


 ほっとけ。こっちは幼少期で終われるかと思ってちょっと期待したことを反省してるんだよ。


「んー。女子の気持ちっていったら、やっぱりこれじゃない?」


 ああ、なるほど。盲点だった。その雑誌を買って家路に着く。


「ドラゴン、明日からはそれを読んでしっかり魅力を上げような」
「任せてよ! しっかり読み込んで、理想の王子様になってみせるよ」


 太郎が手にしている雑誌は、この年代の少女のバイブル。びゃおだった。要するに少女漫画雑誌だ。女子の理想が詰まった男が出てくるなら、まあチョットドッグプラスよりはマシだろう。


「明日からはこの本を読んで、女子達をちぎってはなげちぎってはなげしてあげるよ!」
「ちぎって投げるな」


 化物じゃねぇか。どうにも不安しか残らないが、もう日も暮れる。二人のヒロインと出会えただけ僥倖だったというべきだろう。




「ただいまー!」




 先は長い。ただ、今はとりあえず。







 太郎を先に風呂に入れて、汚れたズボンで動くのを防ごう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...