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幼少期編
mission2 マスコットキャラと仲良くせよ!
しおりを挟む「ぎゃっ……ばっ! はぁぁああああああ!?」
え、何なになに!?
こっち? こっち? こっちなの!?
主人公ならまだ分かる。なんとかできる。自分でホモエンドのフラグ折ればいいだけ、選ばなければいいだけだろう。だけどこれはダメ。こっちはダメだよ。ダメなんだよ!
俺の突然の叫声にほまれの母親が駆けつけてきた。自分の息子が鏡に向かって違う、違うだろ! なんて言っているのはよくよく考えたら狂ったと思われても仕方がない。
結局、宥められて体調不良ということでベッドに返されたが、なかなか頭の整理がつかなかった。
「あー、今日休みますって課長に連絡入れないとなー」
現実逃避なのか現実回帰なのか分からない言葉を口に出しても日常には戻れなかった。いっそ寝てみれば逆にあちらで目が覚めるのではとも思ったが、結果は時計の針が進んでいるだけだった。どうしろってんだ。
「説明、説明がほしい」
この世界で何かやれば帰れるのかはたまた帰れないのか。もしも転生ならば女神様的なものがいて少しでも説明してくれるのが筋ってもんじゃないだろうか。
藁にもすがる気持ちで部屋の本棚を漁っていると、唐突に本棚の下から緑色の光が飛び出し、俺の周りを何周かした後あるキャラクターの姿になった。
『おまたせぷんー!』
黄緑色の体にやたら長い耳。ウサギを模している割には可愛いとは言いづらくキモカワイイとも言いづらいなんとも微妙な容姿をしたキャラクター。
『我が名はライカッカ・スウェール・ド・ピャリチャードーー』
「カッス! お前カッスじゃないか!」
あまりに長過ぎる名前に尊大な態度、うさぎなら素直にぴょんにすればいいのにムカつく語尾。攻略サポートキャラのくせにまるで役に立たない上、喜ぶと目が光るという設定で毎回画面が光ってうっとおしいとプレイヤーのヘイトを集めに集めたキャラクター。
『こんなやつカスでいいだろ』
と誰かが言ったことを発端に最終的にカッスの渾名で定着した90年代の腹パン第一位キャラクターことカッスがそこにいた。
「カッス! カッス! お前リアルで見ても本当可愛くないな! あと出てくるの遅ぇよカッス!」
『失礼すぎだぷん!』
嬉しさのあまりつい罵倒しながら撫でくりまわしてしまったが、カッスは一応何かを知っているらしい。お待たせとか言ってたし。俺の手を跳ね除けてカッスは軽く咳払いをした。手にはいつの間にか紙を持っている。
『えー、多分お気づきだと思いますが、これは水玉ハッピーステップ♪ の世界です、だぷん』
紙読み上げてるだけじゃないか。しかも棒読みだし遅いし無理に語尾つけてるし。紙をよこせと言いたくなる。
『驚かれるのも……す、い? いーきょくとうぜん、当然とおぼっ? 思います』
「紙をよこせ!」
紙には綺麗な字でこう書かれていた。
【こんにちは、神です。
多分お気づきだと思いますが、これは水玉ハッピーステップ♪ の世界です。驚かれるのも至極当然だと思います。説明が遅くなり大変申し訳ありません】
いーきょく、しごく、か。頭悪い設定だったかな、カッス。
【この世界には多くの望み・願いがあり、それらが多く交わった時に叶えることが私の仕事です。
物語のエンディングにたどり着いてほしい、エンディングが見たい、別の世界に行きたい、他にも小さな願いが積み重なった結果、あなたが今そこにいます】
そういえば、仕事のことを考えなくていい世界に行きたいとは言ったが……こんな世界に来てこんな奴になりたいとは一言も願っていない。
「カッスさ、これ俺じゃなくてもよかったんじゃないのか?」
『その通りだぷん。過去にもこの世界に来たプレイヤーは何人もいたぷん』
何人もいた、のにクリアできなかったのか。
『みんなバグに飲み込まれるかホモになってしまったぷん』
「は? え?」
バグに、飲み込まれる? ホモに……なってしまう!?
『主人公に転移する人間ばかりだったぷんが、どうも主人公になるとほまれをみんな好きになっちゃうみたいで……現実世界に帰っても気分が抜けないみたいぷんね』
「どういうことだよ!」
この世界での強制力はそんなに強くておまけに現実にまで影響するのか! そういえば、これの実況やってたナリムーンさん一時期姿を消してから、最近ゲームの趣向が大分変わってたような……まさか。まさかな。
『そうした事情なんかがあって、お前は主人公じゃなくほまれになることになったぷん。ほまれになって主人公をエンディングまで導くことがお前の役割だぷん!』
殴りたい。腹パンスレのみんなはこんな気持ちだったのか。
「ちなみに、現実世界に帰る方法は?」
『エンディングを迎えられたら帰れるぷん。バッドでもなんでもいいぷん』
バッドエンド……ってホモエンドじゃねぇか!
「つまり、誰もみたことがないエンディングを見つけなきゃいけないのか……」
しかも、俺はサポート。主人公に好かれないようにしつつ、そこまで導かなければならない。転生ではなく転移であったことが救いだが、それで救いがあったと大手を振って言えるのだろうか。
『まあ、ゲームの世界だし気楽にやるぷん! ぐぇっ!?』
暴力表現に厳しい昨今ではある。
が、腹パンではない分、頭をはたくことくらいは、まあ多めにみていただきたい。
切に、そう思う。
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