虚しくても

Ryu

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第二十二章

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意識が戻った私は、関西労災病院のICUのベッドの上にいた。
両踵骨粉砕骨折、第一腰椎破裂骨折、第五腰椎破裂骨折、肋骨骨折、両中足骨骨折、尾骨骨折、左手首骨折。
両足の骨は何本もの金具で創外固定され、腰椎はプレートで固定されていた。
飛び降りた前後の記憶はなかったけれど、、、
どうにもならない虚無感だけは残っていた、、、
私がヤクザだからという理由で、父は一度も病院には来なかった。
その方が私も楽だった。
入院中、数ヶ月間は情けない状態が続いていた。
寝たきりで、自分では寝返りをする事も出来なかった。
小便はカテーテルで出して、大便は摘便をされる。
浣腸をしてから、看護師さんが私の肛門に指を突っ込んでオムツに排泄していた。
食事も看護師さんに食べさせてもらい、、、
入浴はストレッチャーに乗せられて、看護師さん二人がかりで、頭のてっぺんから足の先まで洗われる。
洗ってくれている看護師さん達には申し訳なかったけれど、私は屈辱しか感じていなかった。
組織の人間が見舞いに来てくれていたので、入院生活にそれ程の不自由はなかった。
だけど、どうにもならない虚無感と、得体の知れない苛立ちが消える事はなかった。


大きな病院というのは手術後、長期的な入院はさせないようになっている。
それで、私はまだ寝たきりの状態だったんだけれど、園田のアイワ病院を経由して、西難波町の桂クリニックに転院した。
アイワ病院の院長も、桂クリニックの院長も、親分の関係者だった。
何の因果か、偶然にも私はそんな経路をたどる事になった。
桂クリニックへ転院してからも、暫くの間、私は寝たきりの状態が続いていた。
ベッドの角度を一週間ごとに少しずつ上げていく事から始めて、その後、座る練習をする。
座れるようになったら、車椅子に乗る練習。
それから、ようやくリハビリ室でのリハビリが始まった。
その後、多少車椅子で動けるようになり始めた平成十八年の春頃、、、
私は桂クリニックを退院した。


桂クリニックを退院してすぐ、私は立花のマンションに引っ越して、生活を始めた。
車椅子生活にある程度慣れてから、私は本部に顔を出した。
親分からは治療に専念するように言われた。
会長からもやはり同じ事を言われた。
事務局長は頻繁に私の自宅に来てくれていたので、ゆっくり話をする機会があった。
「すんません、こんな不細工な事なってしもて、、、」
「そんなんかまへんけど、とにかく治療とリハビリに専念せなあかんぞ」
「はい、早よ治して復帰しますんで」
「そんな焦らんと、相談役とかな、、、そういう形とってもええやんけ」
「、、、、、」
「会長も言うとったがな、命があっただけでも有り難い思てやな」
「、、、、、」
当然の事だ。
やっと車椅子に乗れるようになったばかりの私には、何も出来はしない。
私も親分、会長、事務局長の話を受けて、リハビリに励んでいた。
励んでいたんだけれど、、、
医師や理学療法士からは、歩けるようになる事はないだろうと言われていた。
そして平成十八年の夏、、、
脊髄損傷を伴う体幹機能障害、両下肢不全麻痺という診断で病状固定、、、
身体障害者二級に認定された。
当番免除、会費免除となり、第一線から身を退いた私は、胸中にくすぶったものを抱きながら生活するようになっていった。


平成二十七年
親分が引退して、細川組は解散する事になる。
親分の引退、細川組解散の知らせには、当然、淋しさを覚えはしたけれど、それと共に、私の中でずっとくすぶり続けていたものが綺麗に消えたような気がした。
その後、、、
雄輝連合会の会長が二代目を継承した事は耳にしていた。
だけど、その頃の私には、遠い世界の話になっていた。
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