虚しくても

Ryu

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第十四章

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姫路少年刑務所はB級刑務所になる。
B級というのは累犯刑務所の事で、累犯者は勿論の事、初犯者であっても暴力団構成員や更正する可能性がないと判断された受刑者はB級刑務所に入れられる事になる。
A級というのは初犯刑務所の事で、初犯者であり、堅気という事がA級刑務所に入れられる要件となる。
私は検討される余地もなく、B級となったのだろう。
そして、不定期刑等の例外もあるが、基本的には二十歳から二十五歳までの受刑者が少年刑務所に入れられて、二十六歳以上の受刑者は一般刑務所という事になる。
姫路少年刑務所では入所時、独居房に入れられて、二週間の新入考査訓練を受けさせられる。
ここでは矢田の宝と再び会う事が出来た。
考査訓練期間中、主にやらされるのは軍隊式行動訓練だった。
そしてこの二週間の間に、みっちりカマシを入れられる。
私がいた頃は、荒牧刑務官、曽我刑務官、秋山刑務官の三人がカマシを入れる役割をになっていたように思う。
この二週間の考査訓練期間を終えると工場へ配役される事になる。
姫路少年刑務所には一訓から七訓の、七つの工場があって、私は五訓に配役された。
五訓の工場長は手塚刑務官だった。
手塚刑務官はわりと厳しい工事長ではあったが、私は嫌いではなかった。
この五訓では私より一足先に姫路少年刑務所に移送されていた柄沢興業(当時)の英雄と再会出来た。
豊中の山中も姫路少年刑務所にきていた。
令和元年に吉本興業所属の芸人、、、
宮迫博之と、大阪北新地の飲み屋で一緒に写っている写真がニュースで流れた名古屋の野口君も同じ時期に姫路少年刑務所に入っていた。
五訓での生活は英雄もいたし、同じ部屋には伊丹市でダブルドラゴンの異名を持つ、喧嘩で有名な長友兄弟の次男、ヨシ君がいたので仲良く過ごせていた。
だけど、やはりここは刑務所、それも若い受刑者ばかりの少年刑務所なので喧嘩がたえる事がない。
英雄が喧嘩して懲罰となり、ヨシ君と私も、他のグループと工場で乱闘して、保護房にほうりこまれてから懲罰となった。
保護房というのは、基本的には暴れる受刑者を入れておく部屋なんだけれど、当時は拷問まがいの事が当たり前のように行われていた。
ヤキを入れられるぐらいは普通の事で、革手錠と呼ばれる拘束具を使用するのだ。
腰に巻くベルト状の物で、前と後ろに手錠が着いている。
片方の手を腰の前で縛られ、もう片方の手は腰の後ろで縛られるような具合になる。
このベルトを締めあげられると本当に苦しい。
保護房の中には、床に穴が開いただけの便所以外には、窓も何もない。
コンクリートの壁だけで出来た、冷たくて無機質な部屋だ。
革手錠を着けられた状態で数日間、保護房で過ごす事になる。
布団など、入れてはくれない。
寝る時にも革手錠は着けられたままだ。
そうすると肩の骨が外れる事もある。
食事は両膝をついた状態で、犬のように皿に顔を突っ込んで食べるしかない。
トイレはどうするのかと言うと、、、
保護房では股が裂かれてある服を着させられる。
用は足せるようになっているんだけれど、勿論、大便の後に尻を拭くなんて事は不可能だ。
この保護房という密室で、刑務官に虐殺された受刑者は決して少なくはないだろう。
刑務官というのは大半は普通なんだけれど、病的な異常者も少なくはない。
昔からの悪習がそうさせるのか、監獄という特殊な空間が人間を狂わせてしまうのかは判らないが、異常な刑務官は本当に狂っている。
明治時代に出来た監獄法を改正する事なく放置していた事もその原因の一つではないかと思う。
しかしその監獄法も、、、
平成十三年十二月に名古屋刑務所で起きた、刑務官による受刑者虐殺事件が明るみになり、ようやく改正される事になったのだ。
この事件は名古屋刑務所の保護房で、複数の刑務官が保護房に収容されている受刑者を押さえつけた上で、ズボンを下ろし、その受刑者の肛門めがけて高水圧ホースで放水して、内蔵を損傷させて受刑者を虐殺したというものだ。
この他にも名古屋刑務所では、やはり保護房に収容されている受刑者を複数の刑務官が革手錠を強く締めつけ、内蔵を損傷させて殺害するという虐殺事件が明るみになっている。
勿論、これらの事件は氷山の一角にしか過ぎないのだが、この保護房で行われていた受刑者虐殺事件が明るみになって、初めて監獄法改正の動きにつながった。
この事件が明るみになっていなければ、何も変わる事はなかっただろう。
しかし、監獄法が改正されてからも、徳島刑務所で行われ続けていた変質的な虐待事件が明るみになったりしている。
この事件は、徳島刑務所の病舎や医務棟診察室において、多数の受刑者達が長期間にわたって変質的な虐待を受け続けていたというものだ。
死亡した受刑者、自殺した受刑者も出ている。
その結果、、、
平成十九年十一月、徳島刑務所の受刑者達が暴動を起こして、その変質的な虐待内容が明るみになったのだ。
そのような事件をはじめ、刑務官による受刑者への虐待、虐殺事件は今でも起き続けている。
それらが無くなる事はないのかも知れない。
また、監獄における懲罰というのが本当に理不尽極まりない。
監獄の規則では、受刑者は刑務官から理不尽な事を言われたり、されたりしても言い返してはならないとされている。
受刑者が言いたい事を言ってしまうと反抗したという事で懲罰にされてしまう。
だから、仮釈放を考えている受刑者は刑務官の言いなりにならざるをえない訳だ。
徳島刑務所のように、刑務官から押さえつけられて、医務官に肛門をいじくりまわされたりしても、、、
刑務官から半殺しの目にあわされたとしてもだ。
私自身も漫画のような話だけれど、理不尽な懲罰を受けた事がある。
医務診察の際、医師が私の胸の音を聴いていた。
「大丈夫やな、特に問題なし」
医師はそう言うのだが、その耳には聴診器が入っていなかった。
医師は首に聴診器をぶら下げたまま、胸の音を聴いているふりをしていただけという訳だ。
「先生、聴診器入ってませんよ」
私の発したその一言に医師は激怒した。
それから私は職員を侮辱したという罪状で懲罰を科される事になった。
その他、監獄には考えられないような懲罰も存在する。
マスターベーションの事を監獄ではアタリと言う。
アタリをして懲罰になれば、陰部摩擦罪。
アタリをする時にエロ本を見れば、目的外使用で懲罰を科される。
どう考えても目的通りだと思うのだが、、、
監獄というのは本当におかしな所だ。


乱闘での懲罰を終えた私は、六訓に配役された。
六訓には私より一足先に配役されていた英雄がいた。
六訓の工場長は、伊吹刑務官だった。
伊吹刑務官は面白いところも持ってはいるんだけれど、ヤキがキツくて、毎日、誰かが血を流していた。
違反した訳でも反抗した訳でもないのに、伊吹刑務官の気分次第で、好き放題にどつき回される。
六訓の受刑者のほとんどが泣きを入れていた。
伊吹刑務官の横暴は姫路少年刑務所で容認されていたので、誰も逆らう事が出来なかった。
そこで残りの刑期が半年を切っていた私が抗議をしたのだが、ヤキを入れられてから残刑を独居拘禁にされた。
しかし、私が独居房に入れられてから数人の受刑者達が私の後を追うように抗議してくれた。
その事が外のマスコミに伝わって、新聞沙汰になったようだった。
私の後を追うように抗議した受刑者の中には、一年ぐらい貰える筈だった仮釈放を捨ててまで行動に移してくれた人もいた。
その事を知った時には目頭が熱くなり、涙を止める事が出来なかった。
この後、伊吹刑務官は大阪拘置所に転勤させられて、門番をやらされながら晒し者にされる事になるのだ。
平成十三年十一月二十九日
私は姫路少年刑務所を満期出所した。
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