虚しくても

Ryu

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第一章

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昭和五十一年十一月
大分県の南端にある小さな漁村で私は生まれた。
陸の孤島と呼ばれるような辺鄙な所だけれど、、、
綺麗な景色に美しい海、、、
豊かな自然に囲まれたとてものどかな村だ。
幼い頃の写真を思い出すと、私は父と二人きり、、、
二歳年下の弟は母と二人きり、、、
そんな写真ばかりだったような気がする。
それが両親の気持ちの現れなんだと、今なら判るけれど、幼い頃には気にも留めていなかった。
淋しくなんかないというのは、やっぱり強がりなんだろうか、、、
いつの頃の事か、はっきり判らないけれど、私が幼稚園に入る前には、父の仕事の都合で、私達は兵庫県の尼崎市に移り住んでいた。
私はどんな幼少時代を送っていたのか、ほとんど記憶には無い。
覚えているのは父の怖い顔と弟を溺愛する母、そしていつも何かに気を遣って緊張ばかりしていた事ぐらいだ。
大工一筋の父はしゃべる事もしなかった。
いつも不機嫌で、仕事から帰れば酒を飲んで眠るだけの人だった。
機嫌の悪い時には暴れて物を壊す事もあった。
「木刀持ってけぇ、このガキしょう叩き殺しちゃる」
そう怒鳴り散らしては暴れて物を壊していた。
幼い私にとって、父は恐怖の対象でしかなかった。
母は弟の事しか愛せない人だった。
いつも汚い物を見るような目で私の事を見ていた。
「お母さんにはあっ君だけ、こいつなんかどうでもいい」
あっ君というのは弟の晃久の事で、こいつというのは、勿論、私の事だ。
私の目の前で弟を撫でまわしながら、毎日毎日、呪文のようにその口癖を聞かされ続けていた。
それが私の幼少期の記憶だ。
当然、日常的に母から殴られたり、身体的な虐待も受けてはいたけれど、繰り返し聞かされ続けていたあの呪文の方が深く記憶に刻まれている。
あとは、辛い、悲しい、苦しい、怖い、痛い、熱い、といった感覚だけは残っているのだが、幼いながらにも自己防衛本能が働いたのか、記憶の大部分を失っているような気がする。
それらが原因でなのかは判らないけれど、幼少期の私は、毎晩、死について漠然と考え、そして悩んでいた、、、
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