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第一章

閑話 女官の楽しみ

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女官それが私の仕事だ。
働き口としては待遇もいいし、給料だって悪くない。ただ、厄介なのがこの国の王太子殿下である。

女官をやっているだけあって、王宮の噂や王太子の噂など多く聞く。

「ねぇ、殿下まただって。」

殿下は魔力も凄いが、知識量もすごい。
この間も、殿下についた家庭教師が国王に家庭教師の辞退を申し入れていた。
そのことを知らない私が、一緒に仕事をしていた別の女官に聞く。

「またって…なんですか?」
「あぁ、殿下ってあの歳の割にめちゃくちゃ頭いいのよ。魔力も膨大でしょ。だから、殿下に付く家庭教師が自信を無くしてしまうのよ。それで、直ぐに辞めさせてくれーってなるわけ。あら?あなた新人さん?」

廊下掃除に使っていたモップに寄りかかりながら、話してくれる。

「あ、はい!!先週から入りました!!アンナと言います。」
「そう!よろしくね!あ、それからね、教師が教えるものをなんでもこなすのよー。私だってもし、教師なら殿下にものを教えるなんてしたくないもの。それにいつもつまらなそうにしてるしね。やっぱ、天才は違うわ。あ、でも私の先輩の話だと幼い頃の殿下は可愛かったらしいわよ。はぁ~、近くで見てみたかったなー。」

私はそこそこいい家柄だと思うが、殿下とは直接あったことがなく、殿下の王宮での生活を知らなかった。

「へー、そうなんですね…じゃあ、殿下は何になら夢中になるんですか?」
「そんなの私にも分からないわよー。でも、確かにそうよねー。なんだろう。」
「こらっ!そこの2人!手を動かしなさい!!」

話しているところにタイミングよく現れたのは女官長だった。

「す、すみません。」

頭を下げ、そそくさと仕事に戻る。

「あ、アンナ。あなた先週からよね?」
「はい。そうですけど…」
「ちょうどいいわ。殿下がもうすぐこちらにいらっしゃるので、挨拶なさい。」

女官長に突拍子もないことを言われ、慌てる。

こんな格好でいいのかな…

掃除もしていたこともあり、着ていたスカートの端が薄汚れている。

「すみません…女官長、服がその…少し汚れているんですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。殿下はそういうことは気にしないわ。むしろ、よく働いてくれると関心してくれると思うわ。」
「そういうものなんですかね…?」
「そういうものよ。ほら、もうすぐ来るわ。行くわよ。」
「はい!!」

女官長の後ろに付き、殿下付きの複数の女官とともに殿下が来るという部屋に向かう。
部屋の前に着くと女官長が戸を叩いた。
すると中から返事が帰ってくる。

「殿下。失礼致します。」

中に入ると殿下は椅子に座り本を読んでいた。
初めて間近で見る殿下は、それは美しくて精霊王の先祖返りというのは伊達じゃないと思った。

「ご指定のものをお持ち致しました。」
「あぁ、ありがとう。早かったね。」
「いいえ、殿下からのお頼み事ですので。」

殿下は女官長から何かを受け取り、再度本を開いた。
すると女官長は私に視線を送るので、ゆっくりと1歩前に出る。

「それと…。こちらは先週より王宮侍女として入りました、新人です。」

侍女長の紹介で殿下は顔をあげ、私は頭を下げる。

「そう。よろしくね。」

頭をあげ、殿下を見ると愛想の良い笑顔を振りまいてくれる。けれど、その笑顔は物凄く薄っぺらく感じた。笑顔でいてはくれるものの、その瞳には何も写してない。
私はこの時から殿下が怖くなってしまった。そのあとも、何度か殿下と接触することはあったが (単にすれ違ったりするだけだが) 殿下の笑顔はどこか怖くて、あまり殿下とは関わりたくないとさえ思ってしまった。

______________________だから信じられなかった。


庭園で無邪気に笑う殿下を見るまでは。

お相手はこの国の侯爵令嬢。殿下と同じく、私が簡単にお会い出来るような方ではない。そしてその方は、殿下の婚約者だ。
噂では殿下の方が侯爵令嬢に夢中らしい。

私がいつも通る渡り廊下は王宮の来客用の庭園を見渡せる。この渡り廊下は、王城に入る国賓やらも通るので、そこから見える庭園はこじんまりとはしているものの一段と華やかだ。

そこで男女の逢瀬をする、華やかなふたり。
お似合いと思ってしまう。

最初、女官達などからその噂を聞いた時は信じられなかった。

「また殿下、婚約者様と会ってるわよ。」
「あぁ、あの庭園でしょ。それより殿下のあの笑顔見た?」
「もちろんよ。婚約者様に骨抜きにされてる殿下可愛かったわよ。」

初めて殿下達を見た日から毎日2人はそこで会っていた。

あの噂はいつしか王宮内では有名な事実となっていた。

私が怖いと思っていた殿下はそこにはいない。
恋心とは違うけれど、年相応に笑い、その中に大人びた笑いを見せ、彼女に熱い視線を向ける殿下を見るのが好きになった。

そんなふたりをこっそりと見守るのが、私の日々の楽しみの1つである。
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