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第一章

9.王太子の苦労 -王太子視点-

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母上が提案したお見合い大作戦というものは、貴族の令嬢のみではなく令息も招待されることとなった。理由は、学友も増やせとのことだった。

次期国王としては、人脈が広いに越したことはない。それはわかっているが、利用されるのは真っ平御免である。それに信頼できる友人なら間に合っている。

そんなことを父上の執務の手伝いもとい、王太子としての仕事をしながら考えていた。

「難しい顔をしてどうしたんですか?」

そう話を切り出してきたのは、信頼できる友人の1人であるルイス(愛称:ルイ)だった。

ルイはイディデュワール公爵家の次男である。
今は王太子専用の書斎で、私の補佐という立場を請け負ってくれている。本来補佐はアレクの仕事だったりするのだが、生憎アレクはやることがあり、この場にいない。

彼には1つ違いのウィルフレッド(愛称:ウィル)という兄がいるが、年上だとあまり感じない。
ルイの方が年上だと感じることもあるくらいだ。
それくらい気さくな友人である。まぁ、精神年齢が低いと言った方が分かりやすいかもしれない。
けれどやる時はやるので、あまりそこは問題視するところでは無い。

「いや、来月のことでちょっとね。」
「王妃様主催のお茶会のことですか?」
「そうだ。ん?なぜ茶会のことを知ってるんだ?」
「先日私の家にも招待状が届きました。」
「そうか。ルイの所にまで招待状が届いてたのか。」
「はい。兄も行く気満々ですよ。」
「あまり変なことはしないでくれと伝えてくれ。」
「えぇ、それはもちろんですが、兄は外で取り繕うのが上手いので大丈夫だと思います。」

ウィルは親しいものにはすぐに砕けるが、外面は紳士なので騙される令嬢が多いと聞く。

「確かに。それなら大丈夫か。」
「……お見合いですか?」

さすがルイ、察しが早い。
あの母上の性格も知っての上の考察だろう。

「あぁ…」
「お見合い代わりにお茶会とは考えましたね、王妃様も。」
「そこまでして、早く私に婚約者を見つけて欲しいみたいだ…。」
「いや、分かりませんよ。ただ楽しんでいるだけかも知れません。」
「はは、母上ならそれも有り得るな。」
「気楽に本当にお茶会だと思って参加してみてはいかがですか?アルが、お見合いを断って来た理由はなんとなくですが察しています。現に私も今、様々な見合いを断っている身ですので。」
「ルイもか…」
「はい。上の立場になるほど、縁談の量は増えますよ。まぁ、この国の特色である精霊の加護も王家に近いほど恩恵が多くありますので、それを求める者も少なくありませんから。アルがその点は1番わかっているのでは?」
「厄介だな…高位貴族も、王族というのも。」

精神年齢が長けているとはいえ、これは8歳児の会話ではないな。と空気をかするように苦笑してしまう。

目を通し終わった書類をまとめ、父上に許可を貰いに行くべく、席を立つ。

「それじゃぁ、私は父上に書類の許可を貰ってくる。その後母上にも呼ばれているから、ルイも今日の分が終わったらそのまま帰っていいよ。」
「わかりました。」
「じゃあ、いってくる。」

ルイに別れを告げ、そのまま父上の書斎へとむかった。戸を3度叩く。

「父上、私です。」
「入っていいよ。」

父上の声の後、戸をあける。

「失礼します。こちらが書類です。」
「ありがとう。」
「では、私はこれで。母上に呼ばれてますので。」
「アル、王太子としての仕事をこなしてくれるのはいいが、年相応の楽しみも十分にしてくれて構わないぞ。」
「それなりにしています。」
「そうか…それならいい。それと父として言うが、まだアルはまだ幼いのだから、もっと甘えてくれてもいいんだが……」

とこちらを気にしながら言ってくる。

「甘える時は甘えさせて貰いますね。それでは失礼します。」

父上の書斎を出る時に、と父上が溜息と同時に「息子が冷たくて悲しい…」としょぼくれた声でボソッ漏らしたが、聞こえない振りをして立ち去った。

そのまま母上の所に向かう。
今日は自室にいるとの事だった。
自室といっても父上と母上、2人の部屋なのだが。
部屋の前に着くと嫌な予感が漂ってくる。
その予感を感じ取り、踵を返そうとした時に部屋の戸が開いた。

「さぁ、待っていたわ。」

見つかった。部屋へと連れ込まれると、予想通りの光景が目の前に広がっていた。
母上は王妃ながら庶民向けのブティックを経営している。その事は私と父上、そして母上付きの侍女だけの秘密である。その事が公になると、こぞって貴族たちが取り入ろうと商品を買いに来ることが目に見えているため、公開していないのである。

そのブティックの新作に意見を言うのが私の仕事の1つでもある。1回1回が長いので、服に興味がない私には辛い作業でもある。適当に良いなどと言うと母上にもっと細かくどこがどういいのか教えて欲しいと言われ、大変なのだ。

そんな作業を季節の変わり目に毎回やる。

今日が新作ができる日だったか…
すっかり忘れていた。

頼まれた作業をしていると母上が尋ねてきた。

「お茶会、そんなに乗り気じゃないみたいだけど、嫌かしら?」
「いえ、別に嫌というわけではありませんよ。」
「そう。それならいいけど…私にはきちんと相談しないとダメよ。」
「面白いからですか?」
「んー、それもそうだけど、何より母親ですもの。あなたの事が心配なのよ。それとあなたに早く番を見つけて欲しいというのもあるわね。」
「番ですか…」

この国の王族には番というのが存在する。
その存在は国の歴史に関わってくる。
パッフェルト王国の建国者、精霊王には番がいたと言われ、生涯を共にした。
生まれ変わっても愛する番と再度巡り会えるよう魔術を施した。
番というのは、すぐにこの人物だと分かるらしい。出会うとその人以外は異性として認識できなくなる。

しかし、この事実は王族のみぞ知る秘密。
番は王族、つまり国家の弱点。
弱点は他国に知られてはならない。そのため、王族以外には知らされない。完全なる門外不出の情報。

昔、番を失ったある国王は、国事に手を付けられないほどに寝込み、番の後を追って亡くなった。
愛する人が居ない世界は耐えられない。

それこそ番を人質に取られでもしたら、どんな賢王でも、番を助けることを第一に動く。
どんなことをしてでも。たとえ国を失ったとしても。簡単に言うと、この国を我が者にしたいのなら番を奪えば一瞬にして手に入れることができるということだ。
それ程までに番という存在は王族にとっては大きい。

精霊王が施した魔術の代償なのか、番を見つけられない王族は魔力や、精神力が落ちていく。
魔力が莫大である私達は、成長してゆく過程で増えていく自身の魔力量に耐えきれず、精神崩壊を起こす。いくら精霊王の末裔だろうが、肉体は人間であるからだ。
魔力が落ちていくのは穴のあいた袋の容量。精神崩壊によって壊れた器は、塞がなければ漏れていく魔力を抑える術はない。


古典的ではあるが、人間の三大欲求

《睡眠》《食欲》《性欲》

これが、この厄介な性質を抑える方法。


しかし、《睡眠》《食欲》はある程度抑えられるものの、あまり意味をなさない。

1番重要なのは《性欲》。《愛情》や《情欲》なのだ。自然に愛する者を探す。自分にとっての唯一を探す。我々王族の天理なのだ。

父上と母上は番であるが、父上は母上を見つけるのに、時間がかかった。
その分、父上は相当な苦労をしたらしい。
私は先祖返りということもあり、このまま番を見つけられないと父上以上の苦労が待っていると言われる。その症状はいつから現れるかはわからない。

だから、私に苦労させまいとたくさんの令嬢と合わせられてきたのだ。

「…けれど今はいいです。」
「あら、そう?」
「はい。そのうちに。」
「まぁ、そうね…あっ、ほら、この新作も見て!」



母上との作業はその日の夜まで続いた。
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