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第一章

4.初めてのお茶会

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あれから約1ヶ月お茶会の開催日となった。

新しく仕立てたドレスに袖を通し、ニケに薄らとした化粧をしてもらう。ここ1ヶ月ニケがお茶会に向けてエステだなんだと綺麗にしてくれていたので、肌がキメ細やかくすべすべだった。

5歳児だから必要ないとも言ったけれど、女は若いうちからが勝負なんです!!と楽しんで手入れしてくれていたのでお願いすることにした。

母様が笑顔でお見送りをしてくれる。
父様は私と一緒に同行するために先に馬車に乗り込み私が乗ってくるのを待っていた。

御者に手を引いてもらい馬車に乗り込むと母様に楽しんでね。と見送られるので元気よく、はい。と返事をした。



お城に向かう馬車の中…

私はとてつもなく緊張状態なのである。

手が震える。お腹が痛い…………帰りたい……

そんな気持ちを追い立てるように馬車はお城に近づいていく。いつもそばに居てくれるニケは家でお留守番なので、緊張を解いてくれる相手がいない。
ニケの大切さに改めて気づいた。

「リリ、大丈夫か?」

父様のさり気ない気遣いが嬉しい。

「そこまで堅苦しい席じゃない。あまり緊張しなくても大丈夫だ。」
「それは…わかっているのですが、やはり初めての公の場なので緊張は、するのです。」

頬を少しむくれて、涙目になりながら話す私に、父は大丈夫だよ。ともう一度言い頭を撫でてくれる。父様の優しい瞳に見つめられると張り詰めていた心が少し緩んだ。

「茶会は子供達のみだ。すまないが私はついて行けない。帰りは一緒には帰れるからその時にどんなことをしたのか話しておくれ。楽しみにしているよ。」
「旦那様、リリアナ様。もうすぐお着きになられます。」

父様と話していると馬車の前方にある小窓を開け、御者が声をかけてくれた。
いよいよだ。今は不安に耐えるしかない。

大丈夫大丈夫。できる。大丈夫。

お経のように念を唱える。
父様はそんな私を見ながら、少し笑っていたらしいが、私は、念仏を唱えるのに必死で全く気づいていなかった。
そのまま馬車は進み、来客用の城門をくぐり抜ける。城門の周りにはいくつもの貴族の家門付きの馬車が置いてあった。それを見るとさらに背筋が引き締まる。馬車から下ろしてもらい、行ってらっしゃいませ。と御者に送り出してもらった。

「ヴァランガ侯爵閣下。ご令嬢。お待ちしておりました。」

声のした方向を見ると赤髪の騎士のように引き締まった服装をしている青年がこちらを見ていた。

「あぁ、アンドレイクか。こっちは娘だ。よろしく頼む。」
「畏まりました。」

親しそうに話しかけるが表情が一切緩まない父様がなんだか新鮮である。アンドレイクと呼ばれた青年の方を向きドレスの裾をちょんと掴みお辞儀をすると、向こうも丁寧にお辞儀を返してきた。

「それとそんなに畏まらなくていい。今日は侯爵として来たが公の場ではないからね。」
「わかりました。団長。それと先程、陛下から団長が到着し次第こちらに来るようにとの通達が…」
「わかった…リリを送り次第行こう。さぁ、リリこちらへ。」

父様が私の背中に手を当てエスコートするようにアンドレイクと呼ばれた人についていく。
あとから聞いた話しだが、アンドレイクは父様が団長を務める魔法騎士団の副団長であり、モンタギュー伯爵家の次男だという。相当腕が立つらしい。



会場の前に着くと、中から賑やかな声が聞こえてくる。どうやら会場は王宮内の庭園みたいだ。

「リリ。私はここまでだ。陛下の所に行かなくてはいけない。」
「はい。父様ここまでありがとうございます。」

父様は私の頭を優しく撫でてから踵を返すと、めんどくさいな。と愚痴を零しながら、陛下のところへ向かった。そう言えば父様と陛下は幼馴染だった気がする。愚痴を零せるほどきっと仲がいいのだろう。ちなみに陛下だけでなく父様は現宰相、現外交官とも幼馴染らしい。
なんとも偉い人達に囲まれている。

父様の姿が見えなくなったところで、庭園へと足を踏み出した。

様々な花に囲まれているその庭園は丁寧に手入れされ、この国特有の花や外国からの献上品として送られた花が所狭しと並んでて、見るものを魅了する。
そんな庭園で行われるお茶会会場にはたくさんのご子息、ご令嬢がいた。

中に入ると中央付近で話していた私の年齢よりもすこし上であろう3人のご令嬢達がこちらにやってきた。

「ヴァランガ侯爵家リリアナ様。失礼致します。お初にお目にかかります、バナット侯爵家マリアと申します。お話宜しいでしょうか。」
「えぇ、マリア様。初めまして。名前を知って頂いてるようでとても嬉しいですわ。」

社交界というものはその国独自のルールがある。

この国では下位のものが上位のものに声をかけるには上位の方の家門と名前を呼び、話しかける許可を貰う必要がある。逆の場合は礼儀はあるものの、普通に話しかけても良い。
マリア様は同じ侯爵家ではあるが、王家の序列ではヴァランガ侯爵家よりも3つほど序列が下である。
ヴァランガ侯爵家は序列3位であり、私が礼をしなければ行けないのが、パッフェルト王国王家、現宰相を務めているマルグリード公爵家、現外交官のイディデュワール公爵家だけである。

「ヴァランガ侯爵家は名門ですもの。知らない方が恥ずかしいようなものですわ。」
「ありがとうございます。お隣にいらっしゃるのは、アナベラ様とオードリー様ですわね。よろしくお願い致しますわ。」

マリア様の隣に佇んでいた2人にも声をかける。
2人は口元に手を当て驚いていた。

アナベラ様は伯爵家の次女であり、オードリー様は子爵家長女である。マリア様も合わせ3人とも8つの歳を迎えている。
ちなみにアビゲイル先生に渡された資料の中では、私がお茶会参加者の中で最年少ということは確認済みだ。

全員年齢が幼いとはいえ、やはり貴族令嬢である。まるで小さな社交界だ。

2人が驚いたのは自分達の名前を私が知っていたからだろう。
家系が上位にある女性は自分よりも10以上下位のか女性の名前をあまり覚えない。社交界でも囲むのは自分との身分に近い人か、下位でも仲の良い人達だ。下位の方たちに話しかけられて覚えることもあるらしい。

社交界全体の女性達の名前を覚えているとしたら、王妃様か政治などに関わっている上位貴族の夫人などである。

名前を覚えていると社交界でも有利な地位を築けることも少なくはないのでそのために覚える人達もいるらしいが、何せ人数が多いので覚える人の方が少ない。
アビゲイル先生の資料様様なのである。

「名前を知って頂いて光栄ですわ。」

オードリー様が笑顔を向けてくれた。
その言葉を聞いて、アナベラ様も嬉しそうに頷いてくれる。

「リリアナ様。先日5歳になられたようでおめでとうございます。仕草といい、とても美しいですわ。」

アナベラ様のこの一言が私の心を少し軽くさせた。
よかった。緊張していたが意外と上手くいっているみたいだ。

3人との会話が終わった後もかなりの人達に声をかけてもらった。多分侯爵家や序列順位というのもあり、私に挨拶をするようにと親に言われているのだろう。
なんとか立ち振る舞うことができたが、私の中ではそろそろ限界である。

前世でも味わったことのない、人の多さに酔ってしまった。




うぅ…気持ち悪い……

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