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29-①
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五月だというのに夏日のような熱い日が続く中、ようやく迎えた結婚式当日。
今日は比較的過ごしやすく穏やかな天気で、この日をこうして迎えられたことに正直なところホッとしている。
「疲れてないか、華」
お色直しの後、テーブルラウンドを終えて高砂に戻ると、響騎さんがスッと手を伸ばして私の手を握る。
「平気です。ありがとうございます」
響騎さんが私を心配しているのは、こんな晴れの日に月のものが重なってしまったからだ。終わりかけとはいえ、なにもこんな時にと思ってしまう。
おかげで私は貧血気味の中、朝からずっと気を張っていて、ひとときも油断出来ない緊張状態で過ごしている。
万が一にもドレスを汚すことがあってはならないと、万全の対策を取ってはいるものの、ボディラインの出るドレスをよくぞ選ばずにいたと過去の自分褒めてあげたい。
(本当に、自分のことながら間が悪いというか……)
こんな時ですら想定外のことは起こり得るのだと、このところ式を迎えることへのストレスでサイクルが狂ってしまったことに苦笑してしまう。
招待客が結果的に二百人弱の超大型規模に膨らんでしまった披露宴会場には、うちの父はもちろん、響騎さんの戸籍状の養父であるウラノの会長の姿もある。
そんな中、友人からのスピーチやカルテットの生演奏など、招待客による余興やイベントが終わると、いよいよ披露宴はクライマックスを迎え、両親への手紙を読み上げる。
そして花束贈呈の後、新郎の養父である会長の挨拶に続いて響騎さんからの謝辞を済ませると、私たちは会場を後にしてバタバタと招待客のお見送り準備をする。
「華!」
「ごめんなさい。フラッとして」
貧血が酷くなってきたのか、目眩を堪えきれずによろけると、響騎さんに抱き留められて慌てて居住まいを正す。
「椅子を用意してもらおうか」
「大丈夫です。せっかくの晴れの日に、みなさんに心配を掛けられませんから」
「でも顔真っ青だぞ」
「こんなのいつものことなので。ただの貧血なんで、本当に大丈夫です」
心配する響騎さんに笑顔で返すと、あと少しだからと鼻を鳴らして気合を入れ直す。
そして披露宴会場の扉が開くと、次々と退出する招待客にプチギフトを手渡しし、お礼の挨拶をしてお見送りする。
友人や同僚は後の方まで残ってくれていたようで、お見送りの列が滞ることも少なく、改めてお祝いの言葉を掛けてもらって、こちらも心を込めて見送ることが出来た。
もちろんその中には前園さんご家族や倉本さんの姿もあって、呉林室長や恩田くん、秘書室の青木室長も今日のために会場に足を運んでくれた。
あたたかいお祝いの言葉を改めて掛けてもらって、なんとか体調不良を堪えて笑顔で返す。そうして最後の一人まで見送りを終えると、緊張の糸が切れ、響騎さんにもたれかかった。
「よく頑張ったな。お疲れ様」
「お疲れ様でした」
答えるとすぐにフワッと体が軽くなり、朦朧とする意識の中で響騎さんが私を抱き上げたのだと気付いたけれど、残念なことに私の意識はそこで途絶えた。
それからどれくらいの時間が経ったのか、気付いた時には控え室に用意された簡易ベッドの上に寝かされていた。
「響騎さん?」
「気が付いたか」
「ごめんなさい、私」
ゆっくりと体を起こすと、窓の外がまだ明るくて安心する。
「大丈夫だよ。二、三十分寝てただけだ」
既に着替えを終えた様子の響騎さんは、私の隣に腰掛けるとすぐに私を抱き寄せてこめかみにキスをする。
「すぐ支度して出ないと、迷惑になりますよね」
「無理するな。この部屋なら時間は気にしなくて大丈夫らしいから」
「本当にごめんなさい。情けないな……」
「そんなことない。途中でぶっ倒れるかとヒヤヒヤしたけど、最後までちゃんと華は頑張ってくれたよ」
今日は比較的過ごしやすく穏やかな天気で、この日をこうして迎えられたことに正直なところホッとしている。
「疲れてないか、華」
お色直しの後、テーブルラウンドを終えて高砂に戻ると、響騎さんがスッと手を伸ばして私の手を握る。
「平気です。ありがとうございます」
響騎さんが私を心配しているのは、こんな晴れの日に月のものが重なってしまったからだ。終わりかけとはいえ、なにもこんな時にと思ってしまう。
おかげで私は貧血気味の中、朝からずっと気を張っていて、ひとときも油断出来ない緊張状態で過ごしている。
万が一にもドレスを汚すことがあってはならないと、万全の対策を取ってはいるものの、ボディラインの出るドレスをよくぞ選ばずにいたと過去の自分褒めてあげたい。
(本当に、自分のことながら間が悪いというか……)
こんな時ですら想定外のことは起こり得るのだと、このところ式を迎えることへのストレスでサイクルが狂ってしまったことに苦笑してしまう。
招待客が結果的に二百人弱の超大型規模に膨らんでしまった披露宴会場には、うちの父はもちろん、響騎さんの戸籍状の養父であるウラノの会長の姿もある。
そんな中、友人からのスピーチやカルテットの生演奏など、招待客による余興やイベントが終わると、いよいよ披露宴はクライマックスを迎え、両親への手紙を読み上げる。
そして花束贈呈の後、新郎の養父である会長の挨拶に続いて響騎さんからの謝辞を済ませると、私たちは会場を後にしてバタバタと招待客のお見送り準備をする。
「華!」
「ごめんなさい。フラッとして」
貧血が酷くなってきたのか、目眩を堪えきれずによろけると、響騎さんに抱き留められて慌てて居住まいを正す。
「椅子を用意してもらおうか」
「大丈夫です。せっかくの晴れの日に、みなさんに心配を掛けられませんから」
「でも顔真っ青だぞ」
「こんなのいつものことなので。ただの貧血なんで、本当に大丈夫です」
心配する響騎さんに笑顔で返すと、あと少しだからと鼻を鳴らして気合を入れ直す。
そして披露宴会場の扉が開くと、次々と退出する招待客にプチギフトを手渡しし、お礼の挨拶をしてお見送りする。
友人や同僚は後の方まで残ってくれていたようで、お見送りの列が滞ることも少なく、改めてお祝いの言葉を掛けてもらって、こちらも心を込めて見送ることが出来た。
もちろんその中には前園さんご家族や倉本さんの姿もあって、呉林室長や恩田くん、秘書室の青木室長も今日のために会場に足を運んでくれた。
あたたかいお祝いの言葉を改めて掛けてもらって、なんとか体調不良を堪えて笑顔で返す。そうして最後の一人まで見送りを終えると、緊張の糸が切れ、響騎さんにもたれかかった。
「よく頑張ったな。お疲れ様」
「お疲れ様でした」
答えるとすぐにフワッと体が軽くなり、朦朧とする意識の中で響騎さんが私を抱き上げたのだと気付いたけれど、残念なことに私の意識はそこで途絶えた。
それからどれくらいの時間が経ったのか、気付いた時には控え室に用意された簡易ベッドの上に寝かされていた。
「響騎さん?」
「気が付いたか」
「ごめんなさい、私」
ゆっくりと体を起こすと、窓の外がまだ明るくて安心する。
「大丈夫だよ。二、三十分寝てただけだ」
既に着替えを終えた様子の響騎さんは、私の隣に腰掛けるとすぐに私を抱き寄せてこめかみにキスをする。
「すぐ支度して出ないと、迷惑になりますよね」
「無理するな。この部屋なら時間は気にしなくて大丈夫らしいから」
「本当にごめんなさい。情けないな……」
「そんなことない。途中でぶっ倒れるかとヒヤヒヤしたけど、最後までちゃんと華は頑張ってくれたよ」
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