チート御曹司と再会したら、初恋以上に全力で溺愛されてしまって困ってます

濘-NEI-

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28-②

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 こんなに忙しいのだから、自分たちのことが疎かにならざるを得ない状況だけど、今日も家に帰ったら結婚の準備を少しでも進めないといけない。
(ああ。時間が足りない)
 これを嬉しい悲鳴と思っていいのか。それはあまりに楽観的だろうか。
 私と響騎さんの結婚については、相変わらず箝口令が敷かれたように周りには広まっていない。
 結婚式を挙げれば招待客から噂は広まるかも知れないけれど、響騎さんがあまりにも周りに対して塩対応なので、最初の頃に比べたら彼に対して色めき立つ女性社員は減ったように思う。
 殊更秘書課のメンツからは、よくあんな冷たい人と仕事出来ますねと辛辣な意見をもらうこともある。
(まあ確かに、仕事はストイックだから期待に応えるのは容易じゃないけどね)
 そんなことを考えつつ、電話やメールでリスケの調整を済ませると、スケジュール管理表を更新してファイルを保存する。
 それが終わると、響騎さんからの指示に沿って明日必要になる会議資料を作成し、無人の事業部長室を簡単に掃除してからデスクに資料をまとめたファイルを置いた。
「ああ、出張の手配をしとかないと」
 急遽決まった再来週の出張に私は同行しない。必要に応じて一緒に行く場合もあるけれど、基本的には会社に残ってメールや電話の対外的な対応を円滑に進めるためだ。
 結局そうしてデスクにかじり付いて仕事をこなしていると、あっという間に時間が過ぎて、十七時半になってようやく響騎さんが戻ってきた。
「お疲れ様。明日の資料はどうなってる?」
「まとめ直したものをデスクに置いてあります。調整後のスケジュールはメールでお送りしてますので目を通しておいてください」
「了解、ありがとう。あとコーヒーもらえるかな」
「ご用意します」
 作業の手を止めてすぐにコーヒーを用意すると、部屋のドアをノックして中に入る。
 響騎さんは戻ってすぐだというのに電話をしながら器用にキーボードを叩き、私を見るなりアイコンタクトでお礼をすると、すぐに仕事に集中してやり取りを続ける。
 特殊なケースではあるけれど、いくら彼が浦野の人間で若くして海外勤務で研鑽を積み、結果を出してきて会長の覚えがめでたいとはいえ、三十という異例の若さで今のポストを任されている事実はハードであり、今まで以上に結果を求められるだろう。
 当たり前のようにそんな難しいことをこなす彼を素直に尊敬するし、私も出来ることを全力で努めようと決意を新たにすると、邪魔にならないようにコーヒーをデスクに置き、一礼してすぐに部屋を出た。
 既に定時は過ぎているけれど、やろうと思えばいくらでも仕事はある。デスクに戻るなりかかってきた電話の対応をしつつ、作成時類のファイリングを開始する。
(新しいファイルとか、そろそろ備品チェックして発注しないとな)
 キャビネットにファイルを収納しながら、在庫を確認すると、他の消耗品もチェックし、再びデスクに戻って色々と備品を発注する。
 発注表をファイルに綴じ、次はなにをしようかとパソコンと睨み合っていると、響騎さんから内線がかかってきた。
『そろそろ終わる。そっちは』
「一通り終えておりますので、すぐに出られます」
『そっか、待たせて悪かった。帰り支度して待ってて』
「承知しました。では宜しくお願いします」
 受話器を置くと、早速パソコンの電源を落としてからデスク周りを片付けて、ロッカーからコートやバッグを取り出した。
「槇村、支度出来てるか」
 部屋から出てきた響騎さんに声を掛けられ、大丈夫ですと答えると、彼はさもこの後、仕事でどこかに行くかのような顔をして自然な空気で私を連れ出した。
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