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28-①

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 響騎さんの担当秘書になって早くも半年が過ぎ、私たちは結婚式の準備をしつつ、日々の業務に取り掛かっていた。
「今週はなにをする予定だったかな」
「大きな案件は、山ノ井やまのい重工業の間宮まみや様との会食ですね」
「違う違う。式の準備だよ」
「……浦野さん。それはプライベートな時にお願いしますと申し上げたはずです」
 少し遅めのランチを食べながら響騎さんを睨むと、彼は納得いかないらしく、そうは言っても時間の猶予がないと頭を抱える。
「やること多過ぎて時間足りないだろ」
「それはそうですけど」
「一生に一度のことなんだから、そっちだって大事なことだろ」
「ならせめて今夜にしてください」
「頭堅いなあ」
「どう言われようと結構ですが、約束は約束です」
 改めて釘を刺すと、響騎さんは渋々といった調子で頷いて、鴨せいろをペロリと平らげた。
 だけど実際のところ響騎さんが言うように、結婚式に向けた準備は色々と後回しになっていて、着手が遅れていることが多い。
 そもそも招待客のリストすら、まともに作成出来てない状態で、ここ最近ではそれが一番頭の痛い問題だ。
 響騎さんの立場と、私は父の立場があるから、私たち二人の結婚式なのに面識のない招待客を招かざるを得ないのも悩みの種だ。
(招待状の発送を考えたら、もうぎりぎりなのに時間が足りない)
 煮込みうどんを食べ終えると、私が食べ終えるのを待ってくれていた響騎さんにお礼を伝えて会計を済ませる。
 すぐに会社に戻り、会議の準備で資料をまとめ、響騎さんを送り出してからは、来週以降のスケジュール調整に時間を費やす。
 秘書の仕事は今もまだまだ勉強中で慣れないけれど、前園さんや倉本さんを頼りながら、なんとか一人でこなしている。
 響騎さんのとの関係はと言うと、たまには喧嘩もするけれど、比較的良好に日々を過ごせていると思う。
 そう言えば夏休みに有給を使って十日間の休みが取れた私たちは、響騎さんの友人を訪ねてロサンゼルスとラスベガスに行って来た。
 思えばあの旅行で一層距離が縮まった。
 初めて大きなケンカもしたし、仲直りする方法を二人で考え合ったり、これまでの日々に一日だって無駄な日はないように思う。
「よし。スケジュールはこれで大丈夫そうだな」
 予定を確認してファイルを保存すると、響騎さんが会議中の間にメールチェックを済ませ、社内でヒヤリングを希望してる部署の担当者と打ち合わせの調整をする。
 私の強みは開発系に知り合いが多いことで、頭の固い職人気質なあの人たちと、響騎さんをうまく取り持つことで力量を試される。
 いくら知り合いが多くても、進行形の仕事に関しては念入りな下調べも必要になってくるし、いつまでも古巣だからとなあなあで意見を聞く訳にもいかない。
 エンジニアの仕事からは離れてしまったけれど、今でも出来る限り勉強は手を抜かずに、知識のアップデートは怠らないようにしている。
(まあ、一番頑張らないといけないのは秘書業務なんだけど)
 そうこうしてるうちに、届いたばかりの海外からのメールの対応をしつつ、そろそろ会議が終わって響騎さんが戻ってくるはずなので、届いたメールの詳細を纏めにかかる。
 それが終わると、精算分のデータを入力して、プリントアウトした用紙に領収書を添付してホチキスで止めて経理に出す書類を仕上げてしまう。
「槇村、この後常務と打ち合わせになった」
 会議から戻った響騎さんに声を掛けられ、急なスケジュール変更に頭を悩ませつつ、急ぎで確認が必要なメールの内容を伝えると、言われた資料をプリントアウトしてホチキスで留める。
「常務との打ち合わせは十七時には終わる予定。マスルソフトウェアの滝沢たきざわさんは、明日の夕方にリスケしといて。先方には一応許可取ってるから」
「承知しました」
 出来上がった資料を手渡しつつ、確認事項をメモに控えると、慌ただしくフロアを後にする響騎さんを見送った。
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