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23-②
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久々に顔を合わせた倉本さんは、業務に関してのヒヤリングだと思っているらしく、挨拶を交わすだけでやり取りまではしなかった。
「お疲れ様です。どうぞ、座ってください」
秘書室の近くにあるミーティングルームで青木室長と向かい合うと、室長は緊張してますかと微笑んだ。
「まずはご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「さて。槇村さんが気になってるであろう、貴方の今後の業務についてですが……」
青木室長は一旦そこで言葉を区切ると、困ったような顔をして、コホンと咳払いをした。
「今回の件はかなりのイレギュラーなケースですから、槇村さんには浦野さんの担当を続けて欲しいと考えています」
「え?」
「まあ、驚かれるのも無理はないと思います。ですが今回の人事は、事前のヒヤリングで貴方への確認が漏れたこちらの落ち度もあります」
本来なら婚約者の私が、事前に響騎さんの着任を知らないはずがない。
つまり響騎さんが日本に来ることを知っていたにも拘らず、婚約者だと名乗り出なかったことへもお咎めなしということなのだろうか。
(本当は別れてたし、名前が変わっていたことすら知らなかったから仕方ないんだけど)
言い訳のようにそんなことを思いながら眉を寄せると、青木室長は違う意味にとらえたのか、私の目を見て不服ですかと質問してきた。
「槇村さんは研究改良室での評判も良いですし、以前のポジションに戻りたい気持ちが強いでしょうね」
「全くその気持ちがない訳ではないです。あの、どうして異動が取り消されないんでしょうか」
「簡潔に言うと、浦野さんの担当を確保するのは容易ではないからです」
青木室長の答えに、前園さんの言葉を思い出す。
個人的な理由で男性秘書を望んでいた響騎さんに対応するため、二段階の条件を経て私が担当に選ばれたのだから、これ以上はワガママと取られるという意味だろうか。
でもこれでは、仕事上で線引きは必要だろうと考えた私たちの行動が、意味をなさなかったことになってしまう。
「人材が確保出来たら、私は担当を外れることになりますか」
「そうですね。全くないとは言い切れません。ですがそれこそ人事権の私物化になり兼ねません」
やっぱり響騎さんに、これ以上の譲歩は出来ないということだ。
「そう……ですね」
「秘書の仕事は、そんなにやり甲斐がありませんか」
言い淀むような返事しか出来ない私に、青木室長が困ったような顔をする。
「いえ、そんなことはありません」
「でしたら是非、この機会にチャレンジしてみてください」
「チャレンジ、ですか」
「はい。公私を分けるのに気も遣うと思いますが、だからこそ仕事のクオリティもより高いものを求められるでしょう」
「はい」
「なにも前例がない訳ではないんです。仕事を通じて仲を深めるのか、そうでないかの差でしかありません」
「分かりました」
「もちろん事情を把握しているのは、ごく限られた一部のみです。ですからあまり緊張せずに業務に励んでください」
「ありがとうございます」
「期待してますからね」
「はい」
面談を終えてミーティングルームを出ると、心配した様子の倉本さんにどうしたのかと声を掛けられたけど、答えを濁して誤魔化した。
響騎さんと改めて付き合うことになったけど、まさか研究改良室に戻れないなんて。こういう結果になるなら、わざわざ婚約を公言する必要はなかったのかも知れない。
(秘書の仕事を続けるのか……)
大きな不満がある訳じゃないけど、なんとなくまたエンジニアに戻れる気がしていたので、拍子抜けした部分もある。
「おかえり、槇村さん」
「すみません。今戻りました」
出迎えてくれた前園さんは、午後の予定が変更になったからと、青木室長との話を気にしながらも仕事の話に話題を変える。
「早速で悪いけど、とりあえずその資料を確認してもらえるかしら」
「はい」
とりあえず今は頭を切り替えて、目の前の仕事に集中することにした。
「お疲れ様です。どうぞ、座ってください」
秘書室の近くにあるミーティングルームで青木室長と向かい合うと、室長は緊張してますかと微笑んだ。
「まずはご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「さて。槇村さんが気になってるであろう、貴方の今後の業務についてですが……」
青木室長は一旦そこで言葉を区切ると、困ったような顔をして、コホンと咳払いをした。
「今回の件はかなりのイレギュラーなケースですから、槇村さんには浦野さんの担当を続けて欲しいと考えています」
「え?」
「まあ、驚かれるのも無理はないと思います。ですが今回の人事は、事前のヒヤリングで貴方への確認が漏れたこちらの落ち度もあります」
本来なら婚約者の私が、事前に響騎さんの着任を知らないはずがない。
つまり響騎さんが日本に来ることを知っていたにも拘らず、婚約者だと名乗り出なかったことへもお咎めなしということなのだろうか。
(本当は別れてたし、名前が変わっていたことすら知らなかったから仕方ないんだけど)
言い訳のようにそんなことを思いながら眉を寄せると、青木室長は違う意味にとらえたのか、私の目を見て不服ですかと質問してきた。
「槇村さんは研究改良室での評判も良いですし、以前のポジションに戻りたい気持ちが強いでしょうね」
「全くその気持ちがない訳ではないです。あの、どうして異動が取り消されないんでしょうか」
「簡潔に言うと、浦野さんの担当を確保するのは容易ではないからです」
青木室長の答えに、前園さんの言葉を思い出す。
個人的な理由で男性秘書を望んでいた響騎さんに対応するため、二段階の条件を経て私が担当に選ばれたのだから、これ以上はワガママと取られるという意味だろうか。
でもこれでは、仕事上で線引きは必要だろうと考えた私たちの行動が、意味をなさなかったことになってしまう。
「人材が確保出来たら、私は担当を外れることになりますか」
「そうですね。全くないとは言い切れません。ですがそれこそ人事権の私物化になり兼ねません」
やっぱり響騎さんに、これ以上の譲歩は出来ないということだ。
「そう……ですね」
「秘書の仕事は、そんなにやり甲斐がありませんか」
言い淀むような返事しか出来ない私に、青木室長が困ったような顔をする。
「いえ、そんなことはありません」
「でしたら是非、この機会にチャレンジしてみてください」
「チャレンジ、ですか」
「はい。公私を分けるのに気も遣うと思いますが、だからこそ仕事のクオリティもより高いものを求められるでしょう」
「はい」
「なにも前例がない訳ではないんです。仕事を通じて仲を深めるのか、そうでないかの差でしかありません」
「分かりました」
「もちろん事情を把握しているのは、ごく限られた一部のみです。ですからあまり緊張せずに業務に励んでください」
「ありがとうございます」
「期待してますからね」
「はい」
面談を終えてミーティングルームを出ると、心配した様子の倉本さんにどうしたのかと声を掛けられたけど、答えを濁して誤魔化した。
響騎さんと改めて付き合うことになったけど、まさか研究改良室に戻れないなんて。こういう結果になるなら、わざわざ婚約を公言する必要はなかったのかも知れない。
(秘書の仕事を続けるのか……)
大きな不満がある訳じゃないけど、なんとなくまたエンジニアに戻れる気がしていたので、拍子抜けした部分もある。
「おかえり、槇村さん」
「すみません。今戻りました」
出迎えてくれた前園さんは、午後の予定が変更になったからと、青木室長との話を気にしながらも仕事の話に話題を変える。
「早速で悪いけど、とりあえずその資料を確認してもらえるかしら」
「はい」
とりあえず今は頭を切り替えて、目の前の仕事に集中することにした。
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