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19-②
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「はい。ありがとうございます。お邪魔しました」
「華恵ちゃんならいつでも大歓迎だからね。響騎も、せっかく帰国したんだから、ちゃんと顔出しなさいよ」
「はいはい」
そこでおばさまに別れを告げて家を出ると、ガレージのシャッターを開けて車に乗り込む。
「賑やか過ぎて疲れただろ」
「いいえ。久々にお会いできて嬉しかったです。特に悦司くんは、大人の顔になってて本当に驚きました」
「あの厳つい顔は親父に似たよな」
「そうですか? 響騎さんにも似てますよ」
「マジかよ」
不服そうな響騎さんは工場のガレージから車を出すと、シャッターを下すために一旦車を降りた。
そして夕陽に照らされる後ろ姿が、不意にあの頃と重なる。
本当にこの人はあの頃と、なに一つ変わってないのかもしれない。
今日は色んなことがあったけど、響騎さんが隣にいてくれるだけで、どれだけ心強かったか分からない。特に実家で父と対峙した時は、彼の逞しさを実感した。
昔とは違う、大人の男性としての安心感。
あの頃からそこまで考えてて、今でもその気持ちが揺るがないなんて、私にそんな価値があるんだろうか。
私なんかのために望まない道に進ませてしまった後悔が強くて、素直に喜んで良いのか分からないけど、私のために今の彼がいる事実に、心の奥がくすぐったくて不思議な気がした。
「クーラー温度下げようか」
「え?」
「顔赤いぞ」
車に戻ってきた響騎さんの手が、不意に伸びて私の頬を撫でる。
「な、なんでもないです」
咄嗟に手を掴んで遠ざけたものの、振り払うのは失礼だとか考えてるうちに、手を繋ぐ形になってしまった。
「手が寂しかったのか」
「違います」
「素直じゃないな」
運転するために離れた手が私の頭を撫でると、響騎さんはシートベルトを締め直して車を発進させた。
「それにしても、おばさまがまさか父の元婚約者だったなんて」
「まあな。奇妙な縁だけど」
「おばさまの件があったから、父は響騎さんに嫌がらせをしていたんでしょうか」
「どうだろうな。最初はただのゴロツキ同然のガキが、娘と付き合うことが受け入れられなかったんだろうけど、裏で色々調べるうちに、お袋のことに行き着いたんだろ」
「ゴロツキって」
あまりの表現の悪さに頭を抱えると、響騎さんは苦笑して、ハンドルから離した片手で私の頭をポンポンと撫でる。
「いや、俺も悪ガキだった自覚はあるから」
「確かにヤンチャだったかも知れないですけど、高校を卒業してからは真面目に洋嗣さんを手伝ってたじゃないですか。それに大学だって」
「……大学な。華に話すと負担になると思うけど、切っ掛けは狸オヤジなんだよ」
「それって」
「まあ結果的に今に繋がって、華とこうして一緒に居られるんだから、細かいことはもう良いよ」
「でも」
「何度でも言うけどな、お前のせいじゃないんだ、華」
「響騎さん」
「さあ。もう気持ちは切り替えて、指輪を見に行こう」
私の髪をクシャッと撫でると、二度と手放さないから安心しろと響騎さんは笑顔を見せた。
「華恵ちゃんならいつでも大歓迎だからね。響騎も、せっかく帰国したんだから、ちゃんと顔出しなさいよ」
「はいはい」
そこでおばさまに別れを告げて家を出ると、ガレージのシャッターを開けて車に乗り込む。
「賑やか過ぎて疲れただろ」
「いいえ。久々にお会いできて嬉しかったです。特に悦司くんは、大人の顔になってて本当に驚きました」
「あの厳つい顔は親父に似たよな」
「そうですか? 響騎さんにも似てますよ」
「マジかよ」
不服そうな響騎さんは工場のガレージから車を出すと、シャッターを下すために一旦車を降りた。
そして夕陽に照らされる後ろ姿が、不意にあの頃と重なる。
本当にこの人はあの頃と、なに一つ変わってないのかもしれない。
今日は色んなことがあったけど、響騎さんが隣にいてくれるだけで、どれだけ心強かったか分からない。特に実家で父と対峙した時は、彼の逞しさを実感した。
昔とは違う、大人の男性としての安心感。
あの頃からそこまで考えてて、今でもその気持ちが揺るがないなんて、私にそんな価値があるんだろうか。
私なんかのために望まない道に進ませてしまった後悔が強くて、素直に喜んで良いのか分からないけど、私のために今の彼がいる事実に、心の奥がくすぐったくて不思議な気がした。
「クーラー温度下げようか」
「え?」
「顔赤いぞ」
車に戻ってきた響騎さんの手が、不意に伸びて私の頬を撫でる。
「な、なんでもないです」
咄嗟に手を掴んで遠ざけたものの、振り払うのは失礼だとか考えてるうちに、手を繋ぐ形になってしまった。
「手が寂しかったのか」
「違います」
「素直じゃないな」
運転するために離れた手が私の頭を撫でると、響騎さんはシートベルトを締め直して車を発進させた。
「それにしても、おばさまがまさか父の元婚約者だったなんて」
「まあな。奇妙な縁だけど」
「おばさまの件があったから、父は響騎さんに嫌がらせをしていたんでしょうか」
「どうだろうな。最初はただのゴロツキ同然のガキが、娘と付き合うことが受け入れられなかったんだろうけど、裏で色々調べるうちに、お袋のことに行き着いたんだろ」
「ゴロツキって」
あまりの表現の悪さに頭を抱えると、響騎さんは苦笑して、ハンドルから離した片手で私の頭をポンポンと撫でる。
「いや、俺も悪ガキだった自覚はあるから」
「確かにヤンチャだったかも知れないですけど、高校を卒業してからは真面目に洋嗣さんを手伝ってたじゃないですか。それに大学だって」
「……大学な。華に話すと負担になると思うけど、切っ掛けは狸オヤジなんだよ」
「それって」
「まあ結果的に今に繋がって、華とこうして一緒に居られるんだから、細かいことはもう良いよ」
「でも」
「何度でも言うけどな、お前のせいじゃないんだ、華」
「響騎さん」
「さあ。もう気持ちは切り替えて、指輪を見に行こう」
私の髪をクシャッと撫でると、二度と手放さないから安心しろと響騎さんは笑顔を見せた。
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