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14-②

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「論点そこじゃないんですけど」
「怒るなよ。俺は華に会うまで、誰かを好きになったり、取られたくないって思ったことないよ。だから必死だっただろ。毎日教室に押し掛けて吉井よしいちゃんがよくキレてたよな」
「ああ、そんなこともありましたね」
 響騎さんは授業中にも顔を出すことがあったし、当時担任だった吉井先生の怒った顔が浮かんで、思わずクスッと笑ってしまう。
「華も気付いてただろうけど、俺は他人に執着がなくて、人は寄ってくるけど信頼できるヤツはいなかったからな。そこにこんな可愛い子が現れて、俺は人生狂わされた訳だ」
「もう。そうやって誤魔化す」
「こういう話は照れ臭いんだよ」
 響騎さんはようやく私を抱き締める手を放すと、華だけだよと小さく呟いて起き上がる。
 そこから見える耳は少し赤い。
「恥ずかしいんですか。人のこと散々揶揄っておいて、耳真っ赤ですよ」
「うるさい。くすぐるぞ」
「やっ、ちょっ、まっ」
 油断してた脇腹を思いっきりくすぐられ、やめてと叫びながら笑い声を堪え切れずに暴れると、俺を揶揄うからだと響騎さんが勝ち誇ったように笑ってキスをする。
 こんな時にキスされても、呼吸が整わないのでやめて欲しいのに、嬉しくなってしまう。
「さて。今日は鍋とか食器とか、雑貨を見に行こうと思ってる。少し遠出しようか」
「それは別に構いませんけど、出来れば着替えに家に帰りたいです」
「服は新しいの買えばいいだろ。ついでに靴やバッグも見たら良い。好きなの買ってやるよ」
「そんな。買ってもらうなんてダメですよ」
「あのな、こういう時は素直に甘えて良いんだよ。とりあえず、近くにカフェがあるからそこにメシ食べに行こう」
 響騎さんはそう言って私を起こすと、顔を洗ってこいと言ってその場で遠慮なく服を着替え始めた。
「ちょっと、着替えるなら言ってくださいよ」
「裸なら昨夜見ただろ」
「その言い方は語弊がありますっ。シャツ着てなかった上半身だけです!」
「これからいくらでも見るんだから、慣れろ」
「なっ」
「いつまで座ってる。見たいのか見たくないのかどっちなんだよ、さっさと顔洗ってこい」
 子どもみたいに笑って響騎さんが着替え始めると、言われた通りバスルームに避難して顔を洗って歯を磨く。
 再会してまだ三日も経ってないのに、こうして一緒に過ごすことが当たり前みたいで、それが妙にくすぐったい。
 十年前なら、いつかはこの人となんて一歩先の関係を想像したりもしたけど、同じ相手だからって、再会したばかりなのに性急すぎる気がしてドキドキしてしまう。
 もう二十七。十月の誕生日が来れば二十八になるのに、恋愛に関してはあの頃のまま全てが止まったままだ。
 響騎さんには話を濁された気もするけど、彼だって大人の男性だし、昨夜みたいにもっと私に触れたいと思ってくれてるはず。
(可愛い下着、買った方が良いかな)
 パジャマのジッパーを下げ、覗き込んだ胸元にチラッと見える、ディスカウントショップで適当に買った下着を見つめ、昨夜はおあずけで良かったかもしれないと思ってしまった。
「華、そろそろ良いか」
「はい。もう大丈夫です」
 バスルームからベッドを覗くように顔を出すと、不機嫌なのかひどく真剣な顔をしてスマホを睨む響騎さんの姿が目に入った。
「……地獄耳だな」
 私に対してではなく、視線の先のスマホに向かって響騎さんが舌打ちする。
「なんの話ですか」
「いや、こっちの話」
「そうですか」
「準備出来たなら、そろそろ出るぞ」
「分かりました」
 会話しながらスマホになにか打ち込んでいる様子が気になるけれど、もしかしたら仕事のことなのかも知れない。
 その時はそんな風に気にも留めていなかった。
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