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12-②

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 チュッ、チュッと音が鳴る度に、ドキドキする心臓の動きが速くなっていく。
「華、力抜いて」
 色っぽい目付きで見つめられると、その眼差しで溶かされたみたいに全身の力が抜けていく。
 響騎さんと交わすキスは、あの頃の色んな思い出が蘇ってくる。
 きっと私が勘違いしなければ、もっと早くにこうして想いを確かめ合えていたんだと思う。そう思うと胸が苦しくなって涙が溢れた。
「どうした」
 ハッとした顔をして響騎さんが体を離す。
 そして私を抱き起こして、子どもをあやすように背中をよしよしと撫でてくれる。
「悪い。華を前にすると歯止めが効かなくて。やっぱり急ぎ過ぎたな」
「違うんです。ごめんなさい」
「無理しなくて良い。大丈夫だ華」
「本当に違うんです、響騎さん」
 抱き締めてくれる胸を押して顔を上げると、困惑した響騎さんと目が合って、困らせるつもりはないのにまた涙が溢れてくる。
「華……」
「私なんかで良いのか分からなくて」
「まだそんなこと気にしてたのか」
「だって、私」
「そんなに泣くほど、俺のこと好きなんだろ」
「それは……そうですけど」
「好き過ぎて泣くとか、本当に華は可愛いな」
「私は真面目に」
「分かってる。悪いと思ってるなら、俺から二度と離れるな。皺くちゃの婆ちゃんになっても、お互い骨になってあの世に行っても、ずっとずっとそばに居ろ」
「響騎さん」
「俺たちが失った年月は大きい。だからこそ、この先は一秒たりとも無駄にしたくないんだ。分かるだろ」
「はい」
「俺は華が居ないとダメなんだ。教室で初めて見た時から華に夢中なんだよ」
 放課後の教室、体育祭の実行委員会で初めて会った日の先輩の姿が蘇る。
『ちゃんと出席するヤツ初めて見たわ』
 取っ付きにくそうなシルバーアッシュの短い髪をツンツンに立てて、白いTシャツの袖を肩まで捲り、ツナギの作業着を着崩して腰元で結んでた。
 面倒見が良い親分肌で、だけど独特の空気は簡単には人を寄せ付けない、一匹狼みたいな面もある不思議な人。それなのに私だけにはとことん甘い。
 ミントタブレットの小さなパッケージを投げて、ちゃんと顔を出したご褒美だって、子どもみたいに笑う顔にどうしたって目を奪われた。
「私だって、あの日からずっと貴方が好きでした」
「でしたって、終わったことみたいに言うなよ」
 響騎さんは私の額を指で弾くと、今も大好きだろと揶揄いながら、啄むようにキスをして涙を拭ってくれる。
「なあ華」
「はい」
「今日は抱き合って寝るだけにしよう」
「え」
「なんだよ、残念そうだな」
「違いますっ」
「違うのか。俺は残念なのに」
「や、あの」
「分かってるよ。でも今日は疲れてるだろうし、無理はさせられない。さっきも言ったけど、華を抱いたら次こそは途中で止めてやれない自信がある」
「そ、そうですか」
「だから今日はゆっくり眠れ」
 響騎さんはそう言うと、こともなげに私を横抱きにして階段を上り三階に移動する。
 キングサイズだろうか、広々としたベッドに私を寝かせ、落ち着かせるように髪を撫でた。
「響騎さん?」
「先に寝てろ。俺はもう少し飲んでくるから、おやすみ」
「……はい。おやすみなさい」
 答えた唇に響騎さんの唇が重なると、治まっていたドキドキがぶり返して顔が一気に熱くなる。
「その顔は卑怯だぞ、華」
 響騎さんは苦笑して私の頬を軽くつねると、私に布団を掛け直してベッドから離れていった。
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