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浦野さんが到着したのは、二十一時を過ぎた頃。
スマホに着信があると、手短にマンションの裏手に車を停めているとだけ告げて電話は切れた。
「今日は遅くまで、本当にありがとうございました」
「気にしないで。今度は夫とも話をしてやってね。それに楓も、またスタンプ押したがると思うから」
「ああ、招待状ですね」
「なくなさないでね」
既に眠っているであろう楓ちゃんを気にして、小さな声で挨拶を済ませて家を出ると、エントランスまで見送ってくれた前園さんと別れ、浦野さんが待つマンションの裏手に向かう。
住宅街の街灯が照らす路地の片隅に、ウラノの中でも海外で人気の高い高級車にもたれかかる浦野さんを見つけ、私は慌てて駆け寄った。
「お疲れ様です」
「随分と楽しかったみたいだな」
「はい。色々とお話が出来ました」
「そうか、それは良かった」
浦野さんはにっこり笑うと、助手席を開けて私の手を取る。
「あの……」
「暑いだろ、良いから早く乗って」
「はい」
研究改良室でデータとしては認識してたものの、初めて座るパーフォレイテッドウィンザーレザーのシート。そして視界の先には、ワイド感を演出する水平基調のインパネ。
ついワクワクしてしまって車中をくまなく眺めていると、運転席に乗り込んだ浦野さんが可笑しそうに肩を揺らすから、ようやくそこで我に返った。
「まあ華なら、そういうとこ気になるだろうな」
「すみません。扱っていたのは駆動部分がメインでしたし、内装をしっかりと見るのは久しぶりなので」
「好きなだけ見たら良い。それとも華が運転するか?」
「いいえ! 万が一があってはいけないので、遠慮しておきます」
身じろぎするとレザーの匂いが強くなり、もしかしなくてもこの車は、見た通り新車なのかもしれないと気付いた。
「どうかしたのか」
「あの……もしかしてこの車、納車されたばかりなんじゃないんですか」
「そうだよ、帰国に合わせて手配したからな。どこか気になるか」
「気になるっていうか、私が乗って良いんでしょうか」
「華しか乗せないよ」
不意に頭に手を置かれてビクッと体を揺らすと、浦野さんは苦笑しながらハンドルに手を戻した。
「じゃあ出すぞ。シートベルトして」
「はい」
雰囲気に流されてシートベルトを締めてしまったけど、この車はどこに向かっているんだろう。
会議室で、私の勘違いについて説明する時間が欲しいと言われたけれど、それを今更聞いて私はどうするつもりだろう。
『昔だ今だなんて言ってられないくらい、その頭の中、俺のことしか考えられないようにしてやるよ』
浦野さんが不敵に笑った顔を思い出して、顔から火が出たように昂揚してしまう。それを必死で誤魔化すために、窓の外を眺め、彼に顔を見られないようにそっぽ向いた。
「匂いが気になるなら窓開けたら良いぞ」
「いえ、大丈夫です」
スマホに着信があると、手短にマンションの裏手に車を停めているとだけ告げて電話は切れた。
「今日は遅くまで、本当にありがとうございました」
「気にしないで。今度は夫とも話をしてやってね。それに楓も、またスタンプ押したがると思うから」
「ああ、招待状ですね」
「なくなさないでね」
既に眠っているであろう楓ちゃんを気にして、小さな声で挨拶を済ませて家を出ると、エントランスまで見送ってくれた前園さんと別れ、浦野さんが待つマンションの裏手に向かう。
住宅街の街灯が照らす路地の片隅に、ウラノの中でも海外で人気の高い高級車にもたれかかる浦野さんを見つけ、私は慌てて駆け寄った。
「お疲れ様です」
「随分と楽しかったみたいだな」
「はい。色々とお話が出来ました」
「そうか、それは良かった」
浦野さんはにっこり笑うと、助手席を開けて私の手を取る。
「あの……」
「暑いだろ、良いから早く乗って」
「はい」
研究改良室でデータとしては認識してたものの、初めて座るパーフォレイテッドウィンザーレザーのシート。そして視界の先には、ワイド感を演出する水平基調のインパネ。
ついワクワクしてしまって車中をくまなく眺めていると、運転席に乗り込んだ浦野さんが可笑しそうに肩を揺らすから、ようやくそこで我に返った。
「まあ華なら、そういうとこ気になるだろうな」
「すみません。扱っていたのは駆動部分がメインでしたし、内装をしっかりと見るのは久しぶりなので」
「好きなだけ見たら良い。それとも華が運転するか?」
「いいえ! 万が一があってはいけないので、遠慮しておきます」
身じろぎするとレザーの匂いが強くなり、もしかしなくてもこの車は、見た通り新車なのかもしれないと気付いた。
「どうかしたのか」
「あの……もしかしてこの車、納車されたばかりなんじゃないんですか」
「そうだよ、帰国に合わせて手配したからな。どこか気になるか」
「気になるっていうか、私が乗って良いんでしょうか」
「華しか乗せないよ」
不意に頭に手を置かれてビクッと体を揺らすと、浦野さんは苦笑しながらハンドルに手を戻した。
「じゃあ出すぞ。シートベルトして」
「はい」
雰囲気に流されてシートベルトを締めてしまったけど、この車はどこに向かっているんだろう。
会議室で、私の勘違いについて説明する時間が欲しいと言われたけれど、それを今更聞いて私はどうするつもりだろう。
『昔だ今だなんて言ってられないくらい、その頭の中、俺のことしか考えられないようにしてやるよ』
浦野さんが不敵に笑った顔を思い出して、顔から火が出たように昂揚してしまう。それを必死で誤魔化すために、窓の外を眺め、彼に顔を見られないようにそっぽ向いた。
「匂いが気になるなら窓開けたら良いぞ」
「いえ、大丈夫です」
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