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6-③
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「そうですけど。私のことなんか見てないで、召し上がったらどうですか」
ココナッツアイスをスプーンで掬うと、甘くて濃厚な香りが口の中に広がる。
その味を楽しむ私を幸せそうな顔で見つめる浦野さんの視線とぶつかって、やめて欲しいと思うのに、あの頃に戻ったみたいで複雑な気持ちになってしまう自分が情けない。
何を期待してるんだろうと思う反面、結局私は目の前に居るこの人のことを、嫌いになんてなれないことを自覚させられる。
「俺のも食べるか」
「せっかくなので、ちゃんと召し上がってください」
「そうか。それもそうだな」
出会って間もない頃、コンビニで買ってきた溶けかけのアイスを、はんぶんこして実習室でこっそり食べたことを思い出す。
ドロっと溶けたアイスは、もう掬ったり出来る状態じゃなくて、カップアイスを飲むようにして食べた記憶が蘇ってくる。
「よく一緒にアイス食べたよな」
不意に目を見つめられて、同じことを思い出しているのかと思うと、苦しくて涙が出そうになった。
パイナップルのゼリーやミントが爽やかに香るヨーグルトのムース、プレートに盛られたデザートはどれも美味しくて、写真を撮っておけば良かったと少しだけ後悔する。
浦野さんにどういう意図があって、私をここに連れてきたのかは分からない。だけどこれから先一緒に仕事をしていく上で、過去を清算するつもりなんだろうと思うとやはり胸が痛んだ。
だって私たちはとっくに別れてるし、今更あんなにも辛かった話を蒸し返すつもりもない。
「さて。俺はもう少し話がしたいんだが」
「今後のことですね」
「そうだな」
仕事のことだろうと気持ちを切り替えて浦野さんを見ると、彼は少し意外そうに眉を動かしてからスタッフに声を掛け、席を立つ準備をし始めた。
これから上司と部下として、過去のことは引き摺らずに関係を築いていかなければいけない。
そう思って気を引き締めると、私を気遣うように手を伸ばす浦野さんに優しく微笑まれ、引き締めたはずの気持ちがすぐに緩んでしまう。
「お酒は平気か」
「そんなに、強くはないと思います」
「そうか。とりあえずバーの方に移動しよう」
さりげなくエスコートされて、レストランの一角にあるバーへと移動すると、今度は夜景が一望できる窓側の席に案内されて席についた。
「何か飲みたいものはあるか」
「ジントニックとかでも大丈夫でしょうか」
「もちろん。では彼女にジントニックと、私はバーボンをロックで」
スタッフにさりげなく声を掛ける浦野さんの所作はスムーズで、やっぱり私が知ってる人とは別人のような気がしてしまう。
目の前に居るこの人は、無骨で人を寄せ付けない、だけどみんなから憧れられ、慕われる唯一無二の存在だったあの人じゃなくて、洗練された大人の男性にしか見えない。
「どうした」
「え?」
「そんなに見られちゃ、要らない期待をする」
「申し訳ありません、そんなつもりはありませんでした」
イタズラっぽく笑う浦野さんがいつかの影に重なって、どうしようもなくもどかしい。
(どうして、そんな風に笑えるんですか)
ドリンクが運ばれきて静かに乾杯すると、突然手を握られて、思わず咄嗟に睨むように浦野さんの顔を見つめた。
「最初に手を握った時も、そんな顔してたな」
「そうでしたでしょうか。それより私と浦野さんは上司と部下です。こういうのは困ります」
「なあ、華」
咄嗟に拒絶を口にした私に、浦野さんは切ない顔をして私の名前を呼ぶ。あの頃みたいに。
「何度も申し訳ないのですが、私のことは槇村と呼んでください」
「華は、華だろ」
「それは大昔に終わったことです」
「そう思ってるのは華だけだろ。俺は別れたつもりはない」
「はい?」
言われている意味が分からなかった。
ココナッツアイスをスプーンで掬うと、甘くて濃厚な香りが口の中に広がる。
その味を楽しむ私を幸せそうな顔で見つめる浦野さんの視線とぶつかって、やめて欲しいと思うのに、あの頃に戻ったみたいで複雑な気持ちになってしまう自分が情けない。
何を期待してるんだろうと思う反面、結局私は目の前に居るこの人のことを、嫌いになんてなれないことを自覚させられる。
「俺のも食べるか」
「せっかくなので、ちゃんと召し上がってください」
「そうか。それもそうだな」
出会って間もない頃、コンビニで買ってきた溶けかけのアイスを、はんぶんこして実習室でこっそり食べたことを思い出す。
ドロっと溶けたアイスは、もう掬ったり出来る状態じゃなくて、カップアイスを飲むようにして食べた記憶が蘇ってくる。
「よく一緒にアイス食べたよな」
不意に目を見つめられて、同じことを思い出しているのかと思うと、苦しくて涙が出そうになった。
パイナップルのゼリーやミントが爽やかに香るヨーグルトのムース、プレートに盛られたデザートはどれも美味しくて、写真を撮っておけば良かったと少しだけ後悔する。
浦野さんにどういう意図があって、私をここに連れてきたのかは分からない。だけどこれから先一緒に仕事をしていく上で、過去を清算するつもりなんだろうと思うとやはり胸が痛んだ。
だって私たちはとっくに別れてるし、今更あんなにも辛かった話を蒸し返すつもりもない。
「さて。俺はもう少し話がしたいんだが」
「今後のことですね」
「そうだな」
仕事のことだろうと気持ちを切り替えて浦野さんを見ると、彼は少し意外そうに眉を動かしてからスタッフに声を掛け、席を立つ準備をし始めた。
これから上司と部下として、過去のことは引き摺らずに関係を築いていかなければいけない。
そう思って気を引き締めると、私を気遣うように手を伸ばす浦野さんに優しく微笑まれ、引き締めたはずの気持ちがすぐに緩んでしまう。
「お酒は平気か」
「そんなに、強くはないと思います」
「そうか。とりあえずバーの方に移動しよう」
さりげなくエスコートされて、レストランの一角にあるバーへと移動すると、今度は夜景が一望できる窓側の席に案内されて席についた。
「何か飲みたいものはあるか」
「ジントニックとかでも大丈夫でしょうか」
「もちろん。では彼女にジントニックと、私はバーボンをロックで」
スタッフにさりげなく声を掛ける浦野さんの所作はスムーズで、やっぱり私が知ってる人とは別人のような気がしてしまう。
目の前に居るこの人は、無骨で人を寄せ付けない、だけどみんなから憧れられ、慕われる唯一無二の存在だったあの人じゃなくて、洗練された大人の男性にしか見えない。
「どうした」
「え?」
「そんなに見られちゃ、要らない期待をする」
「申し訳ありません、そんなつもりはありませんでした」
イタズラっぽく笑う浦野さんがいつかの影に重なって、どうしようもなくもどかしい。
(どうして、そんな風に笑えるんですか)
ドリンクが運ばれきて静かに乾杯すると、突然手を握られて、思わず咄嗟に睨むように浦野さんの顔を見つめた。
「最初に手を握った時も、そんな顔してたな」
「そうでしたでしょうか。それより私と浦野さんは上司と部下です。こういうのは困ります」
「なあ、華」
咄嗟に拒絶を口にした私に、浦野さんは切ない顔をして私の名前を呼ぶ。あの頃みたいに。
「何度も申し訳ないのですが、私のことは槇村と呼んでください」
「華は、華だろ」
「それは大昔に終わったことです」
「そう思ってるのは華だけだろ。俺は別れたつもりはない」
「はい?」
言われている意味が分からなかった。
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