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(36)リムジンと美女と庶民な私
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今年のクリスマスイブは土曜日で、年末に向けてバタバタする予定を片付けるために休日出勤した私は、なんとか一稀さんとの約束の時間までに帰宅すると、静まり返った部屋に少し動揺した。
「一稀さん、どこ行ったんだろ。コンビニかな」
寝室に荷物を置きに入ると、ベッドの上に薔薇の花束とメッセージカードが置かれてて、サプライズの演出に嬉しさで心が跳ねる。
「んー良い香り。花束なんて初めて貰った」
ベッドに腰掛けて薔薇の香りを嗅ぐと、添えられたメッセージカードを手に取って、書かれた内容に目を通す。
【奏多へ
16時半に迎えを寄越します。
今夜の支度は全て俺に任せてほしい。
緊張するかも知れないけど、指示に従ってください。
君に会えるのを楽しみに待ってます。
君に恋する一稀より愛を込めて】
想像よりも少し神経質そうで丁寧な文字を見て、一稀さんの新たな一面に笑顔が溢れる。そして何度か読み返すうちに、気恥ずかしさで思わず顔がニヤけてきた。
クリスマスディナーとは聞かされてたけど、ドレスコードとか確認しても、なにも心配しなくて良いと言ってたのは、こんなサプライズを用意してくれてたからだったのか。
慌てて時間を確認すると、もうすぐ16時半。
今夜の支度は一稀さんに任せるようにとか、迎えを寄越すと書いてあるので、着の身着のままで良いのか不安になってくる。
着替えることを想定してなかったので、ボウタイのブラウスにカーディガンをあわせてコートを羽織っただけだし、下はウールのワイドパンツだけど大丈夫だろうか。
ソワソワし始めたところでインターホンが鳴って、慌てて対応すると、見たこともない女性が玄関の前に立っていた。
「初めまして、Ms.梅原。お会いできて光栄だわ。本日はMr.本条からの依頼で貴女のエスコートを賜りました、岩永・ウィルソン・恵子です。よろしくね」
サングラスを外して握手を求める彼女は、妖艶な微笑みで紅い口元を上品に引き上げる。
「よろしく、お願いします」
あまりにも綺麗な彼女に緊張して躊躇いがちに手を取ると、整えられた彼女のネイルに自分の女子力の低さを痛感させられる。
「では行きましょうか、お嬢さん」
「あ、はい」
家を出てマンションの下に降りると、生まれて初めて見る白の長い高級車に度肝を抜かれて言葉が出ない。
「あ、の、岩永さん。もしかして、これに乗るんですか」
「あら、リモは初めて?乗り心地の悪いものではないわよ。それからどうぞ私のことは恵子と呼んでくださるかしら」
揶揄ったり卑下た様子もなく、慶子さんは優しく微笑みながらドアを開けて、乗り込みやすいようにエスコートしてくれる。
「し、失礼します」
「足元に気を付けてね」
乗り込んだ車内も白で統一されていて、サイドにちょっとしたバーコーナーがあって、お決まりなのかシャンパンも用意されている。
「凄っ」
思わず声が出て、恥ずかしくなって口元を覆うと、恵子さんはまたしてもバカにするでもなく、贅沢な空間ですよねと微笑んでくれる。
「Mr.本条が、貴女のためにご用意なさった空間です。移動の時間は少ないですがお寛ぎくださいね。では、まずはお衣装合わせに参りましょう。出してください」
振り返って運転席に声を掛けた恵子さんは、手慣れた様子でシャンパンを開ける。その間にゆっくりと車は走り出した。
(ブシャーって、ならないんだ……)
シャンパンなんて開ければ噴き出すイメージしかなかったけど、こんな静かに開けられるものなのかと、くだらないことを考えてると、どうぞと再び恵子さんが微笑んだ。
「Ms.梅原はお酒がお好きと伺っていますので、アルマン・ド・ブリニャックのロゼをご用意いたしました」
「え!これアルマンドなんですか」
庶民の私が大奮発して呑むイメージの銘柄にグラスを持つ手が緊張して、縋るように恵子さんを見ると、可愛らしいピンク色のボトルにスペードが描かれたボトルを見せてくれる。
「可愛らしいボトルですよね。Mr.本条から申しつかっておりますので、どうぞご遠慮なくお楽しみください」
「あの、恵子さん」
「如何なさいました」
「その、失礼に当たるなら申し訳ないんですけど、折角のシャンパンを一人でいただくのは味気ないので、ご一緒に如何ですか」
私の分をサーブするだけで、膝に手を置いて私を見つめている恵子さんに、ビクビクしながら声を掛けると、彼女は少し驚いたような顔をしてから紅い口元を上品に引き上げる。
「ではお言葉に甘えてちょうだいしますね」
「是非、乾杯しましょう」
まさか手酌で注がせるわけにいかないので、グラスを置いて恵子さんのシャンパンを注ぐと、私なんかよりよっぽど手慣れた様子の彼女にグラスを渡す。
堂に入ってるとはこのことだろう。私なんかワタワタしてしまって恥ずかしいくらいなのに、恵子さんがシャンパングラスを持つ姿は様になっている。
「では、Mr.本条を射止めた愛らしいお姫様に」
色々とツッコミたい気持ちを抑えて、私は恵子さんに倣ってグラスを掲げた。
「一稀さん、どこ行ったんだろ。コンビニかな」
寝室に荷物を置きに入ると、ベッドの上に薔薇の花束とメッセージカードが置かれてて、サプライズの演出に嬉しさで心が跳ねる。
「んー良い香り。花束なんて初めて貰った」
ベッドに腰掛けて薔薇の香りを嗅ぐと、添えられたメッセージカードを手に取って、書かれた内容に目を通す。
【奏多へ
16時半に迎えを寄越します。
今夜の支度は全て俺に任せてほしい。
緊張するかも知れないけど、指示に従ってください。
君に会えるのを楽しみに待ってます。
君に恋する一稀より愛を込めて】
想像よりも少し神経質そうで丁寧な文字を見て、一稀さんの新たな一面に笑顔が溢れる。そして何度か読み返すうちに、気恥ずかしさで思わず顔がニヤけてきた。
クリスマスディナーとは聞かされてたけど、ドレスコードとか確認しても、なにも心配しなくて良いと言ってたのは、こんなサプライズを用意してくれてたからだったのか。
慌てて時間を確認すると、もうすぐ16時半。
今夜の支度は一稀さんに任せるようにとか、迎えを寄越すと書いてあるので、着の身着のままで良いのか不安になってくる。
着替えることを想定してなかったので、ボウタイのブラウスにカーディガンをあわせてコートを羽織っただけだし、下はウールのワイドパンツだけど大丈夫だろうか。
ソワソワし始めたところでインターホンが鳴って、慌てて対応すると、見たこともない女性が玄関の前に立っていた。
「初めまして、Ms.梅原。お会いできて光栄だわ。本日はMr.本条からの依頼で貴女のエスコートを賜りました、岩永・ウィルソン・恵子です。よろしくね」
サングラスを外して握手を求める彼女は、妖艶な微笑みで紅い口元を上品に引き上げる。
「よろしく、お願いします」
あまりにも綺麗な彼女に緊張して躊躇いがちに手を取ると、整えられた彼女のネイルに自分の女子力の低さを痛感させられる。
「では行きましょうか、お嬢さん」
「あ、はい」
家を出てマンションの下に降りると、生まれて初めて見る白の長い高級車に度肝を抜かれて言葉が出ない。
「あ、の、岩永さん。もしかして、これに乗るんですか」
「あら、リモは初めて?乗り心地の悪いものではないわよ。それからどうぞ私のことは恵子と呼んでくださるかしら」
揶揄ったり卑下た様子もなく、慶子さんは優しく微笑みながらドアを開けて、乗り込みやすいようにエスコートしてくれる。
「し、失礼します」
「足元に気を付けてね」
乗り込んだ車内も白で統一されていて、サイドにちょっとしたバーコーナーがあって、お決まりなのかシャンパンも用意されている。
「凄っ」
思わず声が出て、恥ずかしくなって口元を覆うと、恵子さんはまたしてもバカにするでもなく、贅沢な空間ですよねと微笑んでくれる。
「Mr.本条が、貴女のためにご用意なさった空間です。移動の時間は少ないですがお寛ぎくださいね。では、まずはお衣装合わせに参りましょう。出してください」
振り返って運転席に声を掛けた恵子さんは、手慣れた様子でシャンパンを開ける。その間にゆっくりと車は走り出した。
(ブシャーって、ならないんだ……)
シャンパンなんて開ければ噴き出すイメージしかなかったけど、こんな静かに開けられるものなのかと、くだらないことを考えてると、どうぞと再び恵子さんが微笑んだ。
「Ms.梅原はお酒がお好きと伺っていますので、アルマン・ド・ブリニャックのロゼをご用意いたしました」
「え!これアルマンドなんですか」
庶民の私が大奮発して呑むイメージの銘柄にグラスを持つ手が緊張して、縋るように恵子さんを見ると、可愛らしいピンク色のボトルにスペードが描かれたボトルを見せてくれる。
「可愛らしいボトルですよね。Mr.本条から申しつかっておりますので、どうぞご遠慮なくお楽しみください」
「あの、恵子さん」
「如何なさいました」
「その、失礼に当たるなら申し訳ないんですけど、折角のシャンパンを一人でいただくのは味気ないので、ご一緒に如何ですか」
私の分をサーブするだけで、膝に手を置いて私を見つめている恵子さんに、ビクビクしながら声を掛けると、彼女は少し驚いたような顔をしてから紅い口元を上品に引き上げる。
「ではお言葉に甘えてちょうだいしますね」
「是非、乾杯しましょう」
まさか手酌で注がせるわけにいかないので、グラスを置いて恵子さんのシャンパンを注ぐと、私なんかよりよっぽど手慣れた様子の彼女にグラスを渡す。
堂に入ってるとはこのことだろう。私なんかワタワタしてしまって恥ずかしいくらいなのに、恵子さんがシャンパングラスを持つ姿は様になっている。
「では、Mr.本条を射止めた愛らしいお姫様に」
色々とツッコミたい気持ちを抑えて、私は恵子さんに倣ってグラスを掲げた。
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