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(35)遠いとか遠くないとか
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「もうすぐクリスマスだよ」
「そうね。ツリーでも買う?」
ソファーの上で毛布に包まって、一稀さんの膝の間に座って後ろから抱きしめられてる。こんな体勢にもだいぶ慣れた。
大きなテレビ画面には好きな海外ドラマが流し出されてて、どのキャラクターが好きだとか、この俳優が好きだとか何気ない話をしながら、話題はクリスマスに移った。
「なーたんがイヤじゃなければ、クリスマスディナーに誘いたいんだけど」
「私も忘年会したかったんだよね」
「いや、忘年会はデートじゃないでしょ」
「それもそうか」
「なーたん面白すぎ」
一稀さんの態度があんまり変わらないから、付き合い始めたというのに、飼ってるヒモの気遣いって感覚が今でも抜けないところがあるのは事実。
だけど私はそんな一稀さんのおかげで、下手に気を遣うことなく自然体で過ごすことが出来て、誰かと一緒にひとつ屋根の下で生活することにも、ストレスを感じてない。
(でも楽っていうのとは、また違うんだよね)
元彼に言われた言葉を思い出して苦笑する。
そんな風に過去を振り返ると、やっぱり自分を取り繕ったり、気を遣って過ごしてたんだなとしみじみ思う。
「急に黙ってどうしたの、なーたん」
「いや、別に何もない。それよりクリスマスディナーって、この時期に思いつきで手配できるの」
「まあ、なんとかなるから心配しないで」
「知り合いにお店してる人が居たりするとか」
「じゃあそういうことにしとく」
「なにそれ」
意味ありげに笑うだけの一稀さんを振り返ると、待ってたかのようにキスされて、当たり前のように忍び込んできた不埒な舌を噛んでキスから逃げる。
「んっ」
「だぁめ、ドラマ観たいって言った」
「あー。テレビに負けた」
「私こうやって一稀さんに抱っこされながら過ごす時間好きなんだけどな」
「やだ、この子可愛すぎる」
「チョロいな」
たわいないやり取りで笑い合うと、また画面に意識を戻してドラマの話をしながらビールを飲んでお菓子をつまむ。
「仕事はどうなの。なーたんあんまり愚痴とかこぼさないよね」
「まあ苦労のない仕事はないし、それにやりたい仕事出来てるからね。一稀さんこそお仕事どうしてるの」
「なーたんが仕事行ってる時とか、それなりにね」
「一稀さんて、いつまで日本に居るの?イギリスに帰らないといけないよね」
前から少し気になってたけど、言い出すタイミングがなかった話をようやく一稀さんに切り出す。
「そうだね。でもなーたんと離れなきゃいけないから、あんまり帰りたくないんだよね」
「そんなワガママ通らないでしょ」
「まあね。なーたん仕事休めるなら一緒に来てみる?」
「イギリスに?私パスポートすら持ってないよ」
「そこからか」
一稀さんは楽しげに笑うと、私の髪を優しく撫でてから頭にキスをして、改めてギュッと抱き締める腕に力を込めた。
「どうしたの」
「このまま攫って帰りたい」
「はは、誘拐するの」
「四六時中そばにいて、とろとろに甘やかしたいの」
「私ロクでもない人間になっちゃう」
「そうかな。俺なーたん大好きだし愛してるから」
「愛ってまた大きく出たね」
ビールを飲みながら苦笑すると、一稀さんはちょっと寂しそうに私の顔を覗き込んでくる。
「なーたんはそうでもないの」
「一稀さんのことは大好きだよ。でも愛してるかって考えると、まだ出会って1ヶ月も経ってないし、私のことも知ってもらえてないし、盲目的に恋する歳でもないからさ」
「それってなんか俺が単純で、バカみたいに聞こえるんだけど」
「一稀さんはずっと心を閉ざしてきたから、新鮮に感じるだけじゃないかな。だからその想いが冷めるんじゃないかって、どこか冷静で不安なの。イギリスに住んでることもそうだし」
ビールを置いて一稀さんにもたれると、それも好きだからこその不安だと小さく呟く。
一稀さんには一稀さんの生活があるし、私だって今の仕事に不満はないし、今の生活は割と気に入ってる。
「俺に日本に住めってこと?」
「違う違う。そういうのじゃないって」
慌てて否定すると、一稀さんに抱き直されて膝の上に乗せられる。そうすることで見つめ合って話せる体勢になった。
「なーたんには申し訳ないけど、俺は日本に住むつもりはないんだよね。そもそもやっとイギリス国籍取ったばっかだし、家族も居ないから日本に帰化するとかもない」
「まさか。分かってるよ」
「分かるよ。これから先も一緒に居たいって言ったの俺だし、親御さんにもそのつもりで挨拶するし。だからこそその辺どう考えてんのって、なーたんが不安になる気持ちはすごく分かる」
「一稀さん……」
「それを話し合うにも時間は掛かるよね。なーたんだって、好きな仕事楽しめてるし、俺も向こうでの生活が確立されちゃってるし、気に入ってるからね」
「付き合うって言っても、物理的な距離がね」
「俺は比較的自由が利くけど、確かにすぐに駆け付けるのは難しい時もあるからね」
困ったように笑う一稀さんのキスは優しくて、私はこの先彼とどうしたいのか、もっと真剣に考えてみるべきなんだと思った。
「そうね。ツリーでも買う?」
ソファーの上で毛布に包まって、一稀さんの膝の間に座って後ろから抱きしめられてる。こんな体勢にもだいぶ慣れた。
大きなテレビ画面には好きな海外ドラマが流し出されてて、どのキャラクターが好きだとか、この俳優が好きだとか何気ない話をしながら、話題はクリスマスに移った。
「なーたんがイヤじゃなければ、クリスマスディナーに誘いたいんだけど」
「私も忘年会したかったんだよね」
「いや、忘年会はデートじゃないでしょ」
「それもそうか」
「なーたん面白すぎ」
一稀さんの態度があんまり変わらないから、付き合い始めたというのに、飼ってるヒモの気遣いって感覚が今でも抜けないところがあるのは事実。
だけど私はそんな一稀さんのおかげで、下手に気を遣うことなく自然体で過ごすことが出来て、誰かと一緒にひとつ屋根の下で生活することにも、ストレスを感じてない。
(でも楽っていうのとは、また違うんだよね)
元彼に言われた言葉を思い出して苦笑する。
そんな風に過去を振り返ると、やっぱり自分を取り繕ったり、気を遣って過ごしてたんだなとしみじみ思う。
「急に黙ってどうしたの、なーたん」
「いや、別に何もない。それよりクリスマスディナーって、この時期に思いつきで手配できるの」
「まあ、なんとかなるから心配しないで」
「知り合いにお店してる人が居たりするとか」
「じゃあそういうことにしとく」
「なにそれ」
意味ありげに笑うだけの一稀さんを振り返ると、待ってたかのようにキスされて、当たり前のように忍び込んできた不埒な舌を噛んでキスから逃げる。
「んっ」
「だぁめ、ドラマ観たいって言った」
「あー。テレビに負けた」
「私こうやって一稀さんに抱っこされながら過ごす時間好きなんだけどな」
「やだ、この子可愛すぎる」
「チョロいな」
たわいないやり取りで笑い合うと、また画面に意識を戻してドラマの話をしながらビールを飲んでお菓子をつまむ。
「仕事はどうなの。なーたんあんまり愚痴とかこぼさないよね」
「まあ苦労のない仕事はないし、それにやりたい仕事出来てるからね。一稀さんこそお仕事どうしてるの」
「なーたんが仕事行ってる時とか、それなりにね」
「一稀さんて、いつまで日本に居るの?イギリスに帰らないといけないよね」
前から少し気になってたけど、言い出すタイミングがなかった話をようやく一稀さんに切り出す。
「そうだね。でもなーたんと離れなきゃいけないから、あんまり帰りたくないんだよね」
「そんなワガママ通らないでしょ」
「まあね。なーたん仕事休めるなら一緒に来てみる?」
「イギリスに?私パスポートすら持ってないよ」
「そこからか」
一稀さんは楽しげに笑うと、私の髪を優しく撫でてから頭にキスをして、改めてギュッと抱き締める腕に力を込めた。
「どうしたの」
「このまま攫って帰りたい」
「はは、誘拐するの」
「四六時中そばにいて、とろとろに甘やかしたいの」
「私ロクでもない人間になっちゃう」
「そうかな。俺なーたん大好きだし愛してるから」
「愛ってまた大きく出たね」
ビールを飲みながら苦笑すると、一稀さんはちょっと寂しそうに私の顔を覗き込んでくる。
「なーたんはそうでもないの」
「一稀さんのことは大好きだよ。でも愛してるかって考えると、まだ出会って1ヶ月も経ってないし、私のことも知ってもらえてないし、盲目的に恋する歳でもないからさ」
「それってなんか俺が単純で、バカみたいに聞こえるんだけど」
「一稀さんはずっと心を閉ざしてきたから、新鮮に感じるだけじゃないかな。だからその想いが冷めるんじゃないかって、どこか冷静で不安なの。イギリスに住んでることもそうだし」
ビールを置いて一稀さんにもたれると、それも好きだからこその不安だと小さく呟く。
一稀さんには一稀さんの生活があるし、私だって今の仕事に不満はないし、今の生活は割と気に入ってる。
「俺に日本に住めってこと?」
「違う違う。そういうのじゃないって」
慌てて否定すると、一稀さんに抱き直されて膝の上に乗せられる。そうすることで見つめ合って話せる体勢になった。
「なーたんには申し訳ないけど、俺は日本に住むつもりはないんだよね。そもそもやっとイギリス国籍取ったばっかだし、家族も居ないから日本に帰化するとかもない」
「まさか。分かってるよ」
「分かるよ。これから先も一緒に居たいって言ったの俺だし、親御さんにもそのつもりで挨拶するし。だからこそその辺どう考えてんのって、なーたんが不安になる気持ちはすごく分かる」
「一稀さん……」
「それを話し合うにも時間は掛かるよね。なーたんだって、好きな仕事楽しめてるし、俺も向こうでの生活が確立されちゃってるし、気に入ってるからね」
「付き合うって言っても、物理的な距離がね」
「俺は比較的自由が利くけど、確かにすぐに駆け付けるのは難しい時もあるからね」
困ったように笑う一稀さんのキスは優しくて、私はこの先彼とどうしたいのか、もっと真剣に考えてみるべきなんだと思った。
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