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(33)あの夜の真相
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シャワーを浴び直して布団に寝転がると、今日は絶対一緒に寝ると言って聞かない一稀さんに腕枕されて、見慣れた天井をぼんやり見つめる。
一稀さんは淡々とした調子で、どうして来日したのかを教えてくれた。
絶縁状態にあったお父さんのお葬式のための帰国だったなんて、後悔が一切ないとは言えないと言う一稀さんの言葉に、私は胸が締め付けられるような思いがした。
「悔しいね。それは本当に悔しかったね」
「今更後悔したんじゃ間に合わないよね」
自嘲する一稀さんの髪を撫でてキスすると、情けない男でごめんと謝る唇をまたキスで塞ぐ。
「しない後悔の方が大きいからね」
「でも、結局俺の人生そんなことの繰り返しだよ。全然学ばないの」
「それで自暴自棄になって、自分を痛めつけるように飲み歩いてたの?」
「なーたんにはあんまり聞かせたくないんだけど」
「ああ、その場限りで女性と過ごして紛らわせてた?」
「まあ、そういうことだね」
一稀さんの表情や言い回しのニュアンスで、日毎女の人と過ごして気を紛らわせていたことはなんとなく分かった。だけど嫌悪感よりも何よりも心が苦しくなった。
私も両親が高齢だから、そう遠くない別れを想像するのは容易い。
一稀さんの場合は仲が拗れてたからこそ、受け止めきれない思いが強かったことも少しは理解できる。
自分を磨耗させて、一稀さんは何処に行き着くつもりだったんだろう。あのゴミ捨て場でそのまま死んでも良いとか思ってたんだろうか。
黙り込んだ私を見て、女遊びの話なんか聞きたくなかったよねとバツが悪そうに頬を掻く一稀さんに、過ぎたことはどうしようもないからと、陳腐な言葉を吐いて抱き締め返す。
「私にも派手ではないけど色々と過去はあるし、破局したとはいえ結婚まで考えた相手が居た訳だし。お互い様ってことで良くないかな」
「でもその、俺そういう誠実さは皆無だよ?気分良くはないでしょ」
話を聞いた限り、もしかすると今まで、一稀さんの本質や心に触れるほどの人は居なかったんだと思う。
なにより一稀さん自身も頑なに心を閉ざしてきたみたいだし、それを責める気にはなれない。
正直、一稀さんが私の何をそこまで気に入ったのかの方が不思議で仕方ないけど、でこぼこだからこそ噛み合う物があるのかも知れないし、出会ったタイミングもあるだろう。
「気分が悪くても、もう変えられない事実だよ。私も30だし、ヒステリックに怒ったりしないよ。逆にそれがなかったら、ゴミ捨て場で一稀さんを拾えてなかったと思うしね」
「まあそうね、俺はヒモからのスタートだからね」
「あはは、ガチのクズっぽい」
「ちょっと、なーたん。笑って言うの酷くない?」
困惑した顔で私を見つめる一稀さんの頬をつねる。
「だって、実際ヤバい人だと分かってても、惹かれたものはどうしようもないし」
「変なところで肝が据わってるよね」
困ったように笑うと、一稀さんは私の頬を撫でて啄むようなキスをする。
「しかも本職が投資家って、生き方がもうギャンブルだよね」
「まあね。でもなーたん養えるくらいは稼いでるし、貯金もあるから安心して」
「へえ、そういうものなの?そう言えば、うちのお父さんが定年後に資産運用してる。株ってそんなに面白いの」
「どうかな。経済の勉強としてやってみるならいいかも知れないけど、簡単に食べていける世界ではないからね」
「なんかプロみたいな口ぶりだね」
「一応ね、それで食べてるからプロなんだと思うよ」
他人事みたいにそう答えると、他に聞きたいことはあるかと私の髪を撫でて顔を寄せる。
「そうだなあ。どんな音楽が好きなのか、とか。知らないことまだまだいっぱいあるんじゃない?ほら、好物とか」
「確かにね。なーたんは割と顔に出るから分かりやすいけど」
「嘘、そんなに顔に出てるかな」
「たまに俺のこととろんとした顔して見てるじゃん。めっちゃ好かれてる感じ」
「揶揄わないでよ、もう」
そのあとしばらくは、お互いについて色んな話をしながら夜更かしした。
一稀さんは淡々とした調子で、どうして来日したのかを教えてくれた。
絶縁状態にあったお父さんのお葬式のための帰国だったなんて、後悔が一切ないとは言えないと言う一稀さんの言葉に、私は胸が締め付けられるような思いがした。
「悔しいね。それは本当に悔しかったね」
「今更後悔したんじゃ間に合わないよね」
自嘲する一稀さんの髪を撫でてキスすると、情けない男でごめんと謝る唇をまたキスで塞ぐ。
「しない後悔の方が大きいからね」
「でも、結局俺の人生そんなことの繰り返しだよ。全然学ばないの」
「それで自暴自棄になって、自分を痛めつけるように飲み歩いてたの?」
「なーたんにはあんまり聞かせたくないんだけど」
「ああ、その場限りで女性と過ごして紛らわせてた?」
「まあ、そういうことだね」
一稀さんの表情や言い回しのニュアンスで、日毎女の人と過ごして気を紛らわせていたことはなんとなく分かった。だけど嫌悪感よりも何よりも心が苦しくなった。
私も両親が高齢だから、そう遠くない別れを想像するのは容易い。
一稀さんの場合は仲が拗れてたからこそ、受け止めきれない思いが強かったことも少しは理解できる。
自分を磨耗させて、一稀さんは何処に行き着くつもりだったんだろう。あのゴミ捨て場でそのまま死んでも良いとか思ってたんだろうか。
黙り込んだ私を見て、女遊びの話なんか聞きたくなかったよねとバツが悪そうに頬を掻く一稀さんに、過ぎたことはどうしようもないからと、陳腐な言葉を吐いて抱き締め返す。
「私にも派手ではないけど色々と過去はあるし、破局したとはいえ結婚まで考えた相手が居た訳だし。お互い様ってことで良くないかな」
「でもその、俺そういう誠実さは皆無だよ?気分良くはないでしょ」
話を聞いた限り、もしかすると今まで、一稀さんの本質や心に触れるほどの人は居なかったんだと思う。
なにより一稀さん自身も頑なに心を閉ざしてきたみたいだし、それを責める気にはなれない。
正直、一稀さんが私の何をそこまで気に入ったのかの方が不思議で仕方ないけど、でこぼこだからこそ噛み合う物があるのかも知れないし、出会ったタイミングもあるだろう。
「気分が悪くても、もう変えられない事実だよ。私も30だし、ヒステリックに怒ったりしないよ。逆にそれがなかったら、ゴミ捨て場で一稀さんを拾えてなかったと思うしね」
「まあそうね、俺はヒモからのスタートだからね」
「あはは、ガチのクズっぽい」
「ちょっと、なーたん。笑って言うの酷くない?」
困惑した顔で私を見つめる一稀さんの頬をつねる。
「だって、実際ヤバい人だと分かってても、惹かれたものはどうしようもないし」
「変なところで肝が据わってるよね」
困ったように笑うと、一稀さんは私の頬を撫でて啄むようなキスをする。
「しかも本職が投資家って、生き方がもうギャンブルだよね」
「まあね。でもなーたん養えるくらいは稼いでるし、貯金もあるから安心して」
「へえ、そういうものなの?そう言えば、うちのお父さんが定年後に資産運用してる。株ってそんなに面白いの」
「どうかな。経済の勉強としてやってみるならいいかも知れないけど、簡単に食べていける世界ではないからね」
「なんかプロみたいな口ぶりだね」
「一応ね、それで食べてるからプロなんだと思うよ」
他人事みたいにそう答えると、他に聞きたいことはあるかと私の髪を撫でて顔を寄せる。
「そうだなあ。どんな音楽が好きなのか、とか。知らないことまだまだいっぱいあるんじゃない?ほら、好物とか」
「確かにね。なーたんは割と顔に出るから分かりやすいけど」
「嘘、そんなに顔に出てるかな」
「たまに俺のこととろんとした顔して見てるじゃん。めっちゃ好かれてる感じ」
「揶揄わないでよ、もう」
そのあとしばらくは、お互いについて色んな話をしながら夜更かしした。
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