その溺愛も仕事のうちでしょ?〜拾ったワケありお兄さんをヒモとして飼うことにしました〜

濘-NEI-

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(29)ちゃんと話し合う

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 一稀さんが出て行った日、どうしてあんな態度を取ったのか、一稀さんがどうして出て行ったのか、一稀さんが用意してくれたご飯を食べながら二人で膝を突き合わせる。
 私は恋人のフリの関係でいることがツラくて、だけど自分から言い出した手前、重く感じられるのが嫌で、そんな風に思っていることを言い出せなかったんだと打ち明けた。
 一稀さんは一稀さんで、毎日過ごすうちに深まっていく好意を感じてたのに、今日こそはと区切りを付けようとした矢先、私からの一方的な拒絶に驚いて途方に暮れてしまったらしい。
「そんなことで悩まなくて良かったのに」
「そんなことじゃないよ。ヒモだからとかさ、仕事はきちんとするとか、誰かさんがそういう言い方するからさ」
「だって誰かさんてば、デレっとしたと思ったらすぐツンツンして意地悪言うんだもん」
「あんなやり方じゃ、そういう意味で好きでいてくれてるなんて分かんないよ」
「そっか。じゃあ俺が悪いか」
 一稀さんは怒った様子もなくさらりとそう言うと、ご飯粒ついてるって笑いながら指先で私の唇を厭らしく撫でる。
「あ、の。ちょっとそれは」
「ふふ、なーたん可愛すぎ」
「もうさー、そういうのがさー」
「はいはい、恥ずかしいんだね。顔真っ赤だよ」
「うるさいな」
 口を尖らせて一稀さんを睨むけど、可愛いねって油断も隙もなくキスされて非難の声すら奪われる。
「続きはご飯の後でね」
 意味深に笑う一稀さんは色っぽくて、私は不意を突かれて咽せて咳き込んだ。
 そうして賑やかに食事を終えると、洗い物を済ませてから交代でお風呂に入って、冷凍庫に置き去りにされてたあの日のアイスを頬張った。
 まだまだ夜更かししたそうな一稀さんに、断りを入れてから先に寝室に移動すると、クローゼットから客用布団を引っ張り出してシーツを取り付ける。
「なーたんもう寝ちゃうの」
「なーたんは明日も仕事なんですよ」
「俺が仕事してないみたいに」
「そう言えば、一稀さん仕事はどうしてるの」
 バタバタしてすぐに帰ってこれなかったのは、仕事を片付けてきたからだと一稀さんから聞いてるけど、私の家に入り浸ってパソコンなんかも使ってる様子はない。
「そうだった。ごめんね、肝心なこと伝えてなかったね」
 一稀さんはそう言うと寝室にやって来て、クローゼットに仕舞い込んだトランクケースを引っ張り出して何かを探し始める。
 ノートパソコンやタブレット、見覚えのないスマホを取るついでに、革のカードケースから名刺を一枚取り出して私に差し出した。
「これが俺のお仕事です」
 淡い黄緑の光沢がある名刺には会社名みたいな物がなく、〈Investor Kaz-Honjo〉とだけ書かれている。
「イン、ベスター?」
「そう。投資家なの」
「あ、そういう意味なの?インベスターって」
「そうだよ」
「カズって書いてあるけど、一稀さん本当はカズさんなの」
「学生の頃からの愛称だよ。一稀ってカズキとも読めるし、向こうの人は一稀って発音しづらいらしくてね。俺はイギリス国籍の日本人なの」
 パスポートを見せられて、さらりと言いのけられて頭がフリーズしそうになる。
「また情報が渋滞してる」
「また?」
「身分証どころか財布もスマホもなくて、その上定職もなくて住所も不定。最初に聞いた情報も渋滞してた」
「あはは。俺は俺だよ」
「投資家でイギリス国籍のカズさんね」
「カズの話も良いけど、俺自身のフィジカルな部分には興味ないワケ?この身体とか」
 一稀さんは黒い半透明の連なるパッケージを掲げると、唐突に反対の手で私の首筋から顎を指でなぞる。
 あまりにもセクシーな表情と、与えられる甘い刺激、目の前にぶら下がってるコンドームの束に、身体がゾワリと震えて反射的に声が出た。
「ブフォ」
「なんだ今の」
 吹き出すのを堪えながら、一稀さんは敷いたばかりの布団に私を押し倒して、ひどく厭らしい緩やかな舌舐めずりをした。
(く、喰われる)
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