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(28)伝えないと伝わらない
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「ただいま」
「なーたん、おかえり」
「うわあっ」
玄関を開けて独り言のように呟いたら、リビングのドアが開いて一稀さんが顔を出した。
「ふふ、変な顔。ただいまは?」
「ただいま。え、え?なんで」
「ねー。なんでだろうねー。これでも急いで飛んできたんだよ。待たせてごめんね」
呆然とする私の荷物を引き取ると、手を洗っておいでと一稀さんはリビングに引き返していく。
訳が分からないまま靴を脱いで言われた通り手を洗うと、なんの前触れもなく突然現れた一稀さんに動揺しつつ、それでも嬉しさで心は大きく跳ねた。
キッチンに立つ一稀さんは、それが当たり前みたいに前と変わらず料理をしていて、それを見て立ち尽くす私に可笑しそうに肩を揺らして鼻唄交じりに声を掛けた。
「着替えたら?」
「あ、うん」
ただの偶然で思い違いだろうけど、意味深なメッセージを発見してしまったので、真っ赤になる顔を隠すために、逃げるように寝室に飛び込んでロールスクリーンを下げた。
バクバクし始めた心臓を抑えて深呼吸すると、嬉しさと気恥ずかしさでパニックになる。
(びっくりした。帰ってくるなら連絡くれたら良いのに)
香ばしい匂いがしてくると、楽しそうに鼻唄を歌いながら包丁を扱う音が聞こえて、なんとかクローゼットに手を伸ばすと部屋着に着替えて髪をアップにまとめる。
久々に会った一稀さんは相変わらずカッコよくて、記憶の中の一稀さんよりずっと素敵に見える。それを意識してしまうとドキドキが止まらないので、私はもう一度深呼吸した。
「なーたん、手伝ってー」
「今行く」
思わず声が上ずって、誤魔化すように咳払いをする。
(一緒に居た時はどんな風にしてたっけ)
緊張で手足が同時に出そうになって、跳ねるように寝室から飛び出すと、気付かれてない様子にホッとしてキッチンに向かう。
腕まくりをして一稀さんの隣に並ぶと、料理中なのにキッチンはスッキリ片付いていて、私が手伝うことは何もない気がした。
「ねえ一稀さん、めっちゃ片付いてるけど何を手伝えばいいの」
どうしたらいいのか分からなくて顔を見上げると、にっこり笑う一稀さんと目が合う。
「ただいま」
抱き寄せられて腕の中に閉じ込められると、大好きな一稀さんの匂いがした。
「おかえり」
「うん。ただいま。メッセ見た?」
私の顔を覗き込むように首を屈めた一稀さんと、すぐそばで目が合って、もしかしてあの縦読みのことかとドキドキしてるうちに、チュッと触れるだけのキスをされた。
「き、禁則事項!」
顔を仰け反らせて胸を押して腕の中から逃げようとするけど、相変わらず優しく抱かれた腕は解けない。
「本当にまだそう思ってる?」
「だって、一稀さんは恋人のフリをしてくれてるだけでしょ」
「ずっと恋人のフリでいいの?」
背中に熱いほどの掌の熱が伝わって、目を見つめながら呟かれたらすぐに言葉を返せない。
「ずっと奏多に会いたくて仕方なかった。それって俺だけ?」
「…………」
「ねえ奏多、フリじゃなくて俺の彼女になってよ」
「一稀さん」
「返事してくれないの?」
鼻先でくすぐるように頬を突かれて、困ったように笑う一稀さんと至近距離で見つめ合う。
「ねえ好きって言ってよ、奏多」
唇が触れそうな角度で、返事をしたら今すぐにでも食べられてしまいそうな距離で、一稀さんが猫撫で声を出す。
「嘘じゃない?」
「嘘だと思う?」
眉を下げて寂しそうな顔をする一稀さんが、こんな面倒な嘘を吐くとは思えない。信じたい。信じていいのかな。
私は思い切って一稀さんの唇を奪うと、吐息が漏れる程度の声で大好きと呟いた。
「それは知らなかった」
一稀さんはそう呟いて嬉しそうに笑うと、仕返しだと言って啄むようにまたキスをした。
「なーたん、おかえり」
「うわあっ」
玄関を開けて独り言のように呟いたら、リビングのドアが開いて一稀さんが顔を出した。
「ふふ、変な顔。ただいまは?」
「ただいま。え、え?なんで」
「ねー。なんでだろうねー。これでも急いで飛んできたんだよ。待たせてごめんね」
呆然とする私の荷物を引き取ると、手を洗っておいでと一稀さんはリビングに引き返していく。
訳が分からないまま靴を脱いで言われた通り手を洗うと、なんの前触れもなく突然現れた一稀さんに動揺しつつ、それでも嬉しさで心は大きく跳ねた。
キッチンに立つ一稀さんは、それが当たり前みたいに前と変わらず料理をしていて、それを見て立ち尽くす私に可笑しそうに肩を揺らして鼻唄交じりに声を掛けた。
「着替えたら?」
「あ、うん」
ただの偶然で思い違いだろうけど、意味深なメッセージを発見してしまったので、真っ赤になる顔を隠すために、逃げるように寝室に飛び込んでロールスクリーンを下げた。
バクバクし始めた心臓を抑えて深呼吸すると、嬉しさと気恥ずかしさでパニックになる。
(びっくりした。帰ってくるなら連絡くれたら良いのに)
香ばしい匂いがしてくると、楽しそうに鼻唄を歌いながら包丁を扱う音が聞こえて、なんとかクローゼットに手を伸ばすと部屋着に着替えて髪をアップにまとめる。
久々に会った一稀さんは相変わらずカッコよくて、記憶の中の一稀さんよりずっと素敵に見える。それを意識してしまうとドキドキが止まらないので、私はもう一度深呼吸した。
「なーたん、手伝ってー」
「今行く」
思わず声が上ずって、誤魔化すように咳払いをする。
(一緒に居た時はどんな風にしてたっけ)
緊張で手足が同時に出そうになって、跳ねるように寝室から飛び出すと、気付かれてない様子にホッとしてキッチンに向かう。
腕まくりをして一稀さんの隣に並ぶと、料理中なのにキッチンはスッキリ片付いていて、私が手伝うことは何もない気がした。
「ねえ一稀さん、めっちゃ片付いてるけど何を手伝えばいいの」
どうしたらいいのか分からなくて顔を見上げると、にっこり笑う一稀さんと目が合う。
「ただいま」
抱き寄せられて腕の中に閉じ込められると、大好きな一稀さんの匂いがした。
「おかえり」
「うん。ただいま。メッセ見た?」
私の顔を覗き込むように首を屈めた一稀さんと、すぐそばで目が合って、もしかしてあの縦読みのことかとドキドキしてるうちに、チュッと触れるだけのキスをされた。
「き、禁則事項!」
顔を仰け反らせて胸を押して腕の中から逃げようとするけど、相変わらず優しく抱かれた腕は解けない。
「本当にまだそう思ってる?」
「だって、一稀さんは恋人のフリをしてくれてるだけでしょ」
「ずっと恋人のフリでいいの?」
背中に熱いほどの掌の熱が伝わって、目を見つめながら呟かれたらすぐに言葉を返せない。
「ずっと奏多に会いたくて仕方なかった。それって俺だけ?」
「…………」
「ねえ奏多、フリじゃなくて俺の彼女になってよ」
「一稀さん」
「返事してくれないの?」
鼻先でくすぐるように頬を突かれて、困ったように笑う一稀さんと至近距離で見つめ合う。
「ねえ好きって言ってよ、奏多」
唇が触れそうな角度で、返事をしたら今すぐにでも食べられてしまいそうな距離で、一稀さんが猫撫で声を出す。
「嘘じゃない?」
「嘘だと思う?」
眉を下げて寂しそうな顔をする一稀さんが、こんな面倒な嘘を吐くとは思えない。信じたい。信じていいのかな。
私は思い切って一稀さんの唇を奪うと、吐息が漏れる程度の声で大好きと呟いた。
「それは知らなかった」
一稀さんはそう呟いて嬉しそうに笑うと、仕返しだと言って啄むようにまたキスをした。
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