その溺愛も仕事のうちでしょ?〜拾ったワケありお兄さんをヒモとして飼うことにしました〜

濘-NEI-

文字の大きさ
上 下
23 / 67

(23)俺という男の失敗

しおりを挟む
 元々親の訃報を受けて来日した俺は、煩雑な手続きを考慮して、滞在期間を決めずに押さえてたホテルに久々に帰る。
 フロントに声を掛ける前にコンシェルジュがやって来て、不在の間に幾つか急ぎの連絡があったと報告してからルームキーを差し出した。
 高層階の客室は、無駄にだだっ広いエグゼクティブスイートで、この手の部屋に一人で居るのが普通だったはずなのに、1LDKの狭いリビングに置かれたコタツを思い出した。
「参ったな」
 バーカウンターに置かれたウイスキーをグラスに注ぐと、その場で一気に呷り、喉を焼くような痺れる感覚で冷静さを取り戻す。
「クソッ」
 感情に任せて乱暴にロックグラスを置くと、大理石の台座からキンと響く音がした。
 梅原奏多はおかしな女だと思う。
 今日は仕事が忙しかったらしく、終わりを見計らって送ったメッセージには反応がなかった。
 30分、1時間。たかが2週間過ごしただけの関係なのに、気が付くとスマホを手に取って、メッセージアプリを開いて既読になってないかチェックしてしまう自分に苦笑した。
 相手は社会人だし仕事なら残業もあるだろう。俺はあくまでも恋人のフリを頼まれた赤の他人で、彼女に飼われたヒモだ。執拗に干渉してまとわりつける立場じゃない。
 スマホを見つめるのはやめて風呂を洗い、料理の支度に取り掛かると、誰も居ないリビングでテレビだけが騒がしく音を立てている。
 そうして気を紛らわせるように手を動かしていると、すっかり料理の準備も整ったタイミングでインターホンが鳴った。
 やっと彼女が帰ったんだろうと喜び勇んで扉を開けると、相手は無愛想な顔をした配達員で、俺は慣れない梅原という文字で伝票にサインをすると扉を閉めて苦笑した。
 早速テーブルを片付けてコタツを設置しながら時計を見つめ、残業だろうと分かってはいても、万が一事故なんかに巻き込まれたんじゃないかと不安になってくる。
 セッティングしたコタツのスイッチを入れると、新品独特の匂いがして、部屋に馴染んでない物のようで、余計な物を買ってしまったと気落ちした。
(なーたん、喜んでくれるかな)
 気が付くとそんな風に思って彼女の笑顔を思い浮かべる。俺を見るキラキラした目が堪らなく可愛くて、成り行きでもヒモ男を飼ってるなんて思えないほど澄んだ瞳。
 少し弾んだハスキーな声で、好意的に一稀さんと呼ばれる度に、その口が別の男の名前を呼ぶのを想像して不愉快になる。
 ふと見上げた時計はもうとっくに22時になろうとしてる。こんな時間になってるのに一切連絡がないのが心配で、居ても立っても居られなくなった。
 スマホを握り締めて、1分1秒も待てない状態でいくつもメッセージを送る。
【残業かな】
【大丈夫?】
【まだ終わらないの】
【メッセージ見て】
【心配】
【連絡して】
 まるで過保護なパパのように、既読のつかないメッセージにイラついて、今度はコールが切れる度に電話を掛け直して何度も何度もリダイアルした。
 コールが鳴るなら電源は落ちてない。掛け続ければきっと電話に出るはずだから、そう思って何十回も同じことを繰り返してる自分に気付いて、急に自分が滑稽に思えた。
 俺をただの俺として必要としてくれる。
 勝手にそう思い込んでたけど、彼女は俺を必要としてるんじゃなくて、たまたま使えそうだから恋人のフリを頼んできただけだ。
(俺は彼女の本物の恋人なんかじゃない)
 事実に目を向けると、心の奥がギュッと詰まって痛くなる。
 全裸でゴミ捨て場に放置された俺に、行くところがないならと、理由をつけて受け入れてくれるような優しい子だ。そう言うように仕向けたのも俺だから分かる。
 俺がこんな風に執着を見せたら、仕方がないと受け入れてくれるかも知れない。俺はそれを分かってて、彼女の懐に潜り込むように無神経に距離を詰めてる。途端に虚しくなった。
「何してんだろうな」
 スマホを放り投げると、ソファーにもたれて天井を仰ぐ。
 諦めた途端、ようやく震えたスマホを手に取ると、泣きそうな彼女の声に心の底から安堵した。
(ああ、俺この子が好きなのか)
 そう思ったら彼女の名前を呼んでた。いつもみたいなふざけた感じじゃなくて、ただ純粋に俺だけのものになって欲しくて。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~

泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳 売れないタレントのエリカのもとに 破格のギャラの依頼が…… ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて ついた先は、巷で話題のニュースポット サニーヒルズビレッジ! そこでエリカを待ちうけていたのは 極上イケメン御曹司の副社長。 彼からの依頼はなんと『偽装恋人』! そして、これから2カ月あまり サニーヒルズレジデンスの彼の家で ルームシェアをしてほしいというものだった! 一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい とうとう苦しい胸の内を告げることに…… *** ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる 御曹司と売れないタレントの恋 はたして、その結末は⁉︎

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...