その溺愛も仕事のうちでしょ？〜拾ったワケありお兄さんをヒモとして飼うことにしました〜

(15)俺という男について

　両親に遅く出来た子。
　それを彼女の口から聞いた瞬間、俺の心の奥でグワっと何かが煮え立った。
　俺が1ヶ月前にイギリスから日本に来たのは、絶縁状態にあった父親が亡くなった報せを受けたからだった。
　俺は俺を産んだ女の事をよく知らない。
　生まれてすぐ父親は俺だけをピックアップしてその女を捨てたらしい。さして興味もないので詳細は知らないが、おおよその見当はつく。
　旧華族というプライドだけは高い厳格すぎる家風、親戚からは年寄りが盛って生ませた愛人のガキのクセにと馬鹿にされ、自力ではどうしようもないレッテルを貼られて育って来た。
（世の中クソだ）
　素行不良で非行に走るのは楽だっただろうけど、俺は品行方正にして親元を正当な理由で離れられるように、高校進学を機に海外留学することを選んでひたすら勉強した。
　15でようやくイギリスに渡って名門と呼ばれる高校や大学で過ごす学園生活は、中々ハードながらも、苦痛でしかなかった俺の人生において、ようやく自由を感じる楽しいものだった。
　大学に入ると英語力をもっと身に付けたくて人気のカフェでバイトを始め、アジア人にしては上背もあって綺麗な顔立ちだからと、モデルの仕事がちょくちょく舞い込んだ。
　そのうちその界隈じゃちょっとした有名人になって、俳優をやってみる気はないかとスカウトが来て、有頂天になってた俺は二つ返事でそれを受け入れた。
（なんだ、楽勝じゃねえか）
　シェイクスピアだなんだと、学生をしながらアカデミーで演劇論を勉強するのは大変だったけど、物珍しさも手伝ってか、ありがたいことに俺は仕事にあぶれることがなかった。
　新しいことをどんどん吸収するのは楽しかったし、このまま俺はイギリスで自立できると、根拠のない自信がムクムクと育っていくのに時間は掛からなかった。
　雑誌の表紙にドラマにMV、それに加えて端役とは云え映画の仕事。消費期限がある内は物珍しさでチヤホヤされるアジア人、それにも気付かず驕り高ぶってイイ気になっていたと思う。
　人はああいう状態を黒歴史って呼ぶんだろう。
　大学を卒業する頃には、二度と日本に帰るつもりはないと親に啖呵を切って、事実上絶縁状態になった。
　それでも、それがくだらないことだと思えるくらい、周りにチヤホヤされる日々が続き、それが当たり前にいつまでも続くような気がしてた。
　ところが23になった辺りから、その驕りが周りの鼻に付いたのか、泣かず飛ばずの逆風が吹き始めて、ほとんどと言って良いほど俺には仕事がこなくなった。
（はあ。今更コツコツ生きるとかクソだせぇこと出来っかよ）
　時間を持て余すようになったことで、また人に使われるバイトのような働き方をするのがバカらしく思えて、なにか楽して稼げないかと、俺が新たに目を向けたのは投資だった。
　留学期間は親の援助もあって、俺がモデルや俳優として自分で稼いだ金には、ほとんどと言って良いほど手をつけていなかった。だから投資を始めるには潤沢な資金があった。
　来る日も来る日も朝から晩まで投資について勉強し、たまに呼ばれるレセプションで色んな資産家に顔繋ぎをしてもらい、頭を下げて投資のノウハウを教わる日々を繰り返した。
（今に見てろ、俺に出来ねえことなんかない）
　そうして俺は投資信託からスタートして、運が良かったのか、気が付けば2年で投資家を名乗れる程度には稼げるようになっていた。
　たかが25、26の小僧が大金を持ったことで、人生はチョロいと生活は一気に派手になり、湯水の如く金を使っても次から次へと懐は潤った。ところがそう都合よく進むはずはない。
　見通しの甘さは俺自身に跳ね返るように出来ている。
　27の時に全てを失うほどのミスをやらかしてドン底まで叩き落とされ、俺じゃなくて、俺の金に寄り付いていた人間関係も一掃されてようやく気が付いた。
　俺はこんなところで何をしてるのかと。