14 / 67
(14)ヒモが作った朝ご飯
しおりを挟む
結局あの後買い出しに出る暇もなく、翌日の日曜は部屋を片付けたり、ネットスーパーで手配した食材で作り置きのおかずを仕込むと、あっという間に休みが終わってしまった。
「なーぁ?なーたん、そろそろ起きて」
「ん、ごめ……あと5分」
「そんなこと言っていいの、イタズラするよ」
言いながら大きな掌が布団に潜り込んで、腰から迫り上がるように背中を撫でる。
「起きる!起きます」
不埒な手を振り払うと、朝の貴重な5分を寝逃したことが恨めしくて一稀さんを睨んだ。
「起こしてくれなくても自分で起きるし」
「なーたん。朝起きたら、まずおはようでしょ」
「……おはようございます。でも起こしてなんて頼んでないでしょ」
「なーたんのお世話しないと。それが俺のヒモとしての内助の功の見せどころだもん」
「ヒモは穀潰しくらいでちょうどいいんじゃないの」
「ダメだよ。俺ちゃんと愛され恋人で居たいもん」
ハイと両腕を広げてハグしろという視線が痛いので、起き上がるとそこに飛び込んで、力なくハグをしてから背中を叩いてハグからの解放を要求する。
「愛されも何もないでしょ。契約だし恋人のフリなんだから。そんなの一稀さんの自己満足の押し付けだよ」
「任された仕事はちゃんとしたいんだよ」
「なるほど、オトナの責任か。私顔洗ってくる」
するりと一稀さんの腕の中から逃れると、キッチンからいい香りがしてようやくしっかり目が覚めた。
さっき聞いたばかりの、一稀さんの何気ない言葉が頭の中に蘇る。
『任された仕事はちゃんとしたい』
やっぱりこれは契約で、それを申し出たのは私。そのお礼に謝礼を払うと言ったから、一稀さんは仕事として私の相手をしてくれてる。
(なんでこんなモヤモヤすんのかな)
答えは分かってる気がしたけど、そんなにも惚れっぽかったかなって、情けなさで苦笑する。
「よし。切り替えて支度しなきゃ」
顔を洗ってリビングに戻ると、手毬寿司みたいな可愛いおにぎりとバジルとチーズが入った卵焼き、具沢山のお味噌汁が配膳されてる。
「なーたん朝そんなに食べないかもだけど、このサイズならいけそうじゃない?」
「うん凄い!なにこれ、めちゃくちゃ可愛くて食べるのもったいない。凄いね一稀さん、こんなの出来ちゃうの」
「はぁあ」
お礼を言っただけなのに、一稀さんは頭を抱えて大きな溜め息を吐いている。
「え……っと。いただいていいのかな」
「いいよ、ほら早く食べないと、支度間に合わなくなるよ」
呆れてたのかと思ったけど、一稀さんは柔らかく笑うと、私の肩をポンと叩いてキッチンに戻っていく。
「いただきます」
私が美味しく朝ご飯を食べてる間に、一稀さんはベッドと布団のシーツを外して洗濯機を回すと、干せる布団を外に干して床にはフロアモップまで掛けてくれる。
「なーたん仕事何時に終わるんだっけ」
「あれ、定時は18時って伝えなかったっけ。うちは家に電話があるし、残業になりそうなら電話するって言ったよね」
「それより俺なんかに合鍵渡して良かったの」
そのまま出ていっちゃうかもよと一稀さんがふざけて笑うので、ご飯を頬張りながらそれも良いんじゃないかと返す。
「勝手に拾って家に上げたのは私だし、ここに居着く必要もないんだから。一稀さんがしたいようにすれば良いんじゃないかな。鍵はすぐ変えられるし」
「ケーヤク守らないって思われてるんだ」
「いいや。信用してるから合鍵渡すんだよ」
「…………」
ごちそうさまと手を合わせると、何か言いたげな一稀さんの隣を通り過ぎて食器を片付け、洗っておくという言葉に甘えて、寝室のロールスクリーンを下げて着替えを済ませる。
髪の毛とメイクを整えて時間を確認すると、朝食まで食べたのにいつもよりも随分余裕があった。
「一稀さん凄いよ」
「どうしたの急に」
「朝からこんなに余裕があるの初めて!ありがと」
洗い物をする一稀さんに駆け寄って、背後から思いっきりハグすると、その逞しく引き締まった背中にグリグリと頭を擦り付ける。
私はこの香りで心が落ち着くのを覚えてしまった。
(良くない流れだな)
苦笑して、それでも甘えるように一稀さんに寄り添うのをやめられない。
「なーたんのために出来ること、俺が全部してあげるから安心して」
「助かる。本当にありがと」
遅れるよと苦笑する一稀さんに笑顔を向けると、私はいつもより早く家を出た。
「なーぁ?なーたん、そろそろ起きて」
「ん、ごめ……あと5分」
「そんなこと言っていいの、イタズラするよ」
言いながら大きな掌が布団に潜り込んで、腰から迫り上がるように背中を撫でる。
「起きる!起きます」
不埒な手を振り払うと、朝の貴重な5分を寝逃したことが恨めしくて一稀さんを睨んだ。
「起こしてくれなくても自分で起きるし」
「なーたん。朝起きたら、まずおはようでしょ」
「……おはようございます。でも起こしてなんて頼んでないでしょ」
「なーたんのお世話しないと。それが俺のヒモとしての内助の功の見せどころだもん」
「ヒモは穀潰しくらいでちょうどいいんじゃないの」
「ダメだよ。俺ちゃんと愛され恋人で居たいもん」
ハイと両腕を広げてハグしろという視線が痛いので、起き上がるとそこに飛び込んで、力なくハグをしてから背中を叩いてハグからの解放を要求する。
「愛されも何もないでしょ。契約だし恋人のフリなんだから。そんなの一稀さんの自己満足の押し付けだよ」
「任された仕事はちゃんとしたいんだよ」
「なるほど、オトナの責任か。私顔洗ってくる」
するりと一稀さんの腕の中から逃れると、キッチンからいい香りがしてようやくしっかり目が覚めた。
さっき聞いたばかりの、一稀さんの何気ない言葉が頭の中に蘇る。
『任された仕事はちゃんとしたい』
やっぱりこれは契約で、それを申し出たのは私。そのお礼に謝礼を払うと言ったから、一稀さんは仕事として私の相手をしてくれてる。
(なんでこんなモヤモヤすんのかな)
答えは分かってる気がしたけど、そんなにも惚れっぽかったかなって、情けなさで苦笑する。
「よし。切り替えて支度しなきゃ」
顔を洗ってリビングに戻ると、手毬寿司みたいな可愛いおにぎりとバジルとチーズが入った卵焼き、具沢山のお味噌汁が配膳されてる。
「なーたん朝そんなに食べないかもだけど、このサイズならいけそうじゃない?」
「うん凄い!なにこれ、めちゃくちゃ可愛くて食べるのもったいない。凄いね一稀さん、こんなの出来ちゃうの」
「はぁあ」
お礼を言っただけなのに、一稀さんは頭を抱えて大きな溜め息を吐いている。
「え……っと。いただいていいのかな」
「いいよ、ほら早く食べないと、支度間に合わなくなるよ」
呆れてたのかと思ったけど、一稀さんは柔らかく笑うと、私の肩をポンと叩いてキッチンに戻っていく。
「いただきます」
私が美味しく朝ご飯を食べてる間に、一稀さんはベッドと布団のシーツを外して洗濯機を回すと、干せる布団を外に干して床にはフロアモップまで掛けてくれる。
「なーたん仕事何時に終わるんだっけ」
「あれ、定時は18時って伝えなかったっけ。うちは家に電話があるし、残業になりそうなら電話するって言ったよね」
「それより俺なんかに合鍵渡して良かったの」
そのまま出ていっちゃうかもよと一稀さんがふざけて笑うので、ご飯を頬張りながらそれも良いんじゃないかと返す。
「勝手に拾って家に上げたのは私だし、ここに居着く必要もないんだから。一稀さんがしたいようにすれば良いんじゃないかな。鍵はすぐ変えられるし」
「ケーヤク守らないって思われてるんだ」
「いいや。信用してるから合鍵渡すんだよ」
「…………」
ごちそうさまと手を合わせると、何か言いたげな一稀さんの隣を通り過ぎて食器を片付け、洗っておくという言葉に甘えて、寝室のロールスクリーンを下げて着替えを済ませる。
髪の毛とメイクを整えて時間を確認すると、朝食まで食べたのにいつもよりも随分余裕があった。
「一稀さん凄いよ」
「どうしたの急に」
「朝からこんなに余裕があるの初めて!ありがと」
洗い物をする一稀さんに駆け寄って、背後から思いっきりハグすると、その逞しく引き締まった背中にグリグリと頭を擦り付ける。
私はこの香りで心が落ち着くのを覚えてしまった。
(良くない流れだな)
苦笑して、それでも甘えるように一稀さんに寄り添うのをやめられない。
「なーたんのために出来ること、俺が全部してあげるから安心して」
「助かる。本当にありがと」
遅れるよと苦笑する一稀さんに笑顔を向けると、私はいつもより早く家を出た。
1
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。


社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。


思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる