その溺愛も仕事のうちでしょ?〜拾ったワケありお兄さんをヒモとして飼うことにしました〜

濘-NEI-

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(14)ヒモが作った朝ご飯

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 結局あの後買い出しに出る暇もなく、翌日の日曜は部屋を片付けたり、ネットスーパーで手配した食材で作り置きのおかずを仕込むと、あっという間に休みが終わってしまった。 
「なーぁ?なーたん、そろそろ起きて」
「ん、ごめ……あと5分」
「そんなこと言っていいの、イタズラするよ」
 言いながら大きな掌が布団に潜り込んで、腰から迫り上がるように背中を撫でる。
「起きる!起きます」
 不埒な手を振り払うと、朝の貴重な5分を寝逃したことが恨めしくて一稀さんを睨んだ。
「起こしてくれなくても自分で起きるし」
「なーたん。朝起きたら、まずおはようでしょ」
「……おはようございます。でも起こしてなんて頼んでないでしょ」
「なーたんのお世話しないと。それが俺のヒモとしての内助の功の見せどころだもん」
「ヒモは穀潰しくらいでちょうどいいんじゃないの」
「ダメだよ。俺ちゃんと愛され恋人で居たいもん」
 ハイと両腕を広げてハグしろという視線が痛いので、起き上がるとそこに飛び込んで、力なくハグをしてから背中を叩いてハグからの解放を要求する。
「愛されも何もないでしょ。契約だし恋人のフリなんだから。そんなの一稀さんの自己満足の押し付けだよ」
「任された仕事はちゃんとしたいんだよ」
「なるほど、オトナの責任か。私顔洗ってくる」
 するりと一稀さんの腕の中から逃れると、キッチンからいい香りがしてようやくしっかり目が覚めた。
 さっき聞いたばかりの、一稀さんの何気ない言葉が頭の中に蘇る。
『任された仕事はちゃんとしたい』
 やっぱりこれは契約で、それを申し出たのは私。そのお礼に謝礼を払うと言ったから、一稀さんは仕事として私の相手をしてくれてる。
(なんでこんなモヤモヤすんのかな)
 答えは分かってる気がしたけど、そんなにも惚れっぽかったかなって、情けなさで苦笑する。
「よし。切り替えて支度しなきゃ」
 顔を洗ってリビングに戻ると、手毬寿司みたいな可愛いおにぎりとバジルとチーズが入った卵焼き、具沢山のお味噌汁が配膳されてる。
「なーたん朝そんなに食べないかもだけど、このサイズならいけそうじゃない?」
「うん凄い!なにこれ、めちゃくちゃ可愛くて食べるのもったいない。凄いね一稀さん、こんなの出来ちゃうの」
「はぁあ」
 お礼を言っただけなのに、一稀さんは頭を抱えて大きな溜め息を吐いている。
「え……っと。いただいていいのかな」
「いいよ、ほら早く食べないと、支度間に合わなくなるよ」
 呆れてたのかと思ったけど、一稀さんは柔らかく笑うと、私の肩をポンと叩いてキッチンに戻っていく。
「いただきます」
 私が美味しく朝ご飯を食べてる間に、一稀さんはベッドと布団のシーツを外して洗濯機を回すと、干せる布団を外に干して床にはフロアモップまで掛けてくれる。
「なーたん仕事何時に終わるんだっけ」
「あれ、定時は18時って伝えなかったっけ。うちは家に電話があるし、残業になりそうなら電話するって言ったよね」
「それより俺なんかに合鍵渡して良かったの」
 そのまま出ていっちゃうかもよと一稀さんがふざけて笑うので、ご飯を頬張りながらそれも良いんじゃないかと返す。
「勝手に拾って家に上げたのは私だし、ここに居着く必要もないんだから。一稀さんがしたいようにすれば良いんじゃないかな。鍵はすぐ変えられるし」
「ケーヤク守らないって思われてるんだ」
「いいや。信用してるから合鍵渡すんだよ」
「…………」
 ごちそうさまと手を合わせると、何か言いたげな一稀さんの隣を通り過ぎて食器を片付け、洗っておくという言葉に甘えて、寝室のロールスクリーンを下げて着替えを済ませる。
 髪の毛とメイクを整えて時間を確認すると、朝食まで食べたのにいつもよりも随分余裕があった。
「一稀さん凄いよ」
「どうしたの急に」
「朝からこんなに余裕があるの初めて!ありがと」
 洗い物をする一稀さんに駆け寄って、背後から思いっきりハグすると、その逞しく引き締まった背中にグリグリと頭を擦り付ける。
 私はこの香りで心が落ち着くのを覚えてしまった。
(良くない流れだな)
 苦笑して、それでも甘えるように一稀さんに寄り添うのをやめられない。
「なーたんのために出来ること、俺が全部してあげるから安心して」
「助かる。本当にありがと」
 遅れるよと苦笑する一稀さんに笑顔を向けると、私はいつもより早く家を出た。
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