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(12)これも一つの順応同化
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新たな登場人物が出てくる度に、ネタバレにならないように解説しながらドラマを観ていると、気が付けば窓の外から明るい光が差し込んで来ている。
「ふあぁ」
「眠いんじゃないの」
この数時間で何度も注意されてすっかりタメ口に慣れた私は、後ろを振り返って大きなあくびで目元を擦る一稀さんの姿を見つめる。
「ん。続き気になるけど流石に眠い」
「ベッド使って良いから寝ておいでよ」
「なに言ってんの。なーたんも寝るんでしょ」
甘えたように抱きつかれて、首筋にくすぐったくなるほど鼻先を擦り付けられると、なんでもないことのようにベッドまで連れて行かれる。
「右と左どっちとかある?」
「これシングルベッドだよ。私寝相悪いから一緒に寝るのとか無理」
寝相もそうだが、私はどうやらイビキをかくらしくて、なんだかそれも恥ずかしくなった。
「大丈夫。動けないくらいギュッてハグして寝るから」
眠気でとろんとした眼差しを向けられると、慣れて来たはずなのに、またバクバクと心臓がやかましくなる。
「本当にそんなに四六時中くっついてないとダメなの。私だいぶ一稀さんに慣れたよ」
「俺がなーたん抱いてないと寝れないの」
「そんなのは知らないよ」
訳の分からない駄々をこねられて、さっさと寝るようになんとか説得しようとする。だけど一稀さんはもう船を漕ぐように体を揺らしてる。
「ダメ。もう立ってんの限界」
「あ、ちょっ」
ベッドに倒れ込んだ一稀さんに腕を取られて、私まで抱き寄せられてベッドにダイブする。
「布団被らないと風邪引くって。リビングの電気も消さないといけないし」
「ん。抱っこ」
いつの間に髪をほどいたのか、ヘアゴムをつけた手首がこちらに向かって伸ばされる。
「自由人だな。戻ってくるからちゃんと布団被って」
見た目とのギャップが恐ろしい甘え切った様子に、なんとか言い訳して腕を引き剥がすと、掛け布団を掛けてその場を離れる。
(怒涛のようにアクシデントが押し寄せる週末だな)
大きく息を吐いてから、テーブルに放置された空き缶とお菓子のパッケージを掻き集め、キッチンのゴミ箱に分別して捨てていく。
当然だけど一稀さんと一緒のベッドで眠るつもりはない。クローゼットの中に客用布団があるので、後でこっそり出してそこで寝よう。
色んなことが起こって、私の神経はとんでもなく冴えている。
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出してコップに注ぐと、換気扇を回してタバコに火をつける。
「ふぅ」
溜め息のように白い煙を吐き出して、改めてこれからのことを考えると、途端に気分が重たくなった。
拾ったからには面倒を見るという流れから、恋人のフリをお願いしたものの、一稀さんが言うようにそこに金銭が発生したらヒモなんだろうけど、お礼は必要なことだと思う。
短いながらも一緒に過ごしてみて、一稀さんはカッコいいし優しくて気遣いもある。
正直なにを考えてるのか分からないことの方が多くて腹の底が読めない感じはするけど、それを凌駕する包容力のようなものがあるから困る。
「はぁ」
また溜め息が漏れる。
自分でも不思議だった。どうして一稀さんに恋人のフリをして欲しいなんて頼んだんだろう。
確かに顔だけはめちゃくちゃカッコいい。チラッと見ただけだけど、体だって程よい筋肉がついて男らしい骨張った腰のラインにドキッとした。
だけど中身はどうなんだろう。恋人のフリをしてくれたら謝礼を払うと言ったのは私。それを面白がってヒモだなんだと楽しんでるのは一稀さん。
自分で言い出したことだけど、さっさと追い出さなかったことへの後悔が生まれ始める。だってなんだか一稀さんのペースに呑み込まれてる気がするから。
「なーたん、寝ないの」
「うわぁっ」
足音に気付かなくて、突然現れて眠そうに目を擦る一稀さんにびっくりして大きな声が出た。
「またタバコ?」
言うなりタバコを取り上げられて、一稀さんはそれを吸うと唇が触れそうなところまで近付いてボソリと呟く。
「吸いたいなら俺を通して吸って」
焦らすように緩やかに煙を吐き出すと、また少し離れてタバコを吸う。
無性に腹が立って一稀さんの頭を掴むと、強引にキスをして彼が言う通りに思い切り息を吸ってやった。
突然のことに目を見開いてされるがままの一稀さんの唇を噛むと、白い煙を吐いてタバコを奪い返す。
呼吸が乱された一稀さんは酷く咳き込むと、苦しそうに眉間に皺を寄せたまま腰に手を当てて、乱暴だなと呟いた。
「吸わなきゃやってらんないから放っといて」
取り戻したタバコを唇に挟んで思い切り吸い込むと、タバコの先がチリっと焼けて灰が落ちる。
「なーたん、自分のことイジメて楽しいの」
「はい?」
「俺が吸うからキスしよ。タバコの匂いさえ嗅げれば落ち着くんだよね」
むしゃくしゃする理由。
出会ったばかりのクセに、一稀さんは私より私に詳しい。
「ふあぁ」
「眠いんじゃないの」
この数時間で何度も注意されてすっかりタメ口に慣れた私は、後ろを振り返って大きなあくびで目元を擦る一稀さんの姿を見つめる。
「ん。続き気になるけど流石に眠い」
「ベッド使って良いから寝ておいでよ」
「なに言ってんの。なーたんも寝るんでしょ」
甘えたように抱きつかれて、首筋にくすぐったくなるほど鼻先を擦り付けられると、なんでもないことのようにベッドまで連れて行かれる。
「右と左どっちとかある?」
「これシングルベッドだよ。私寝相悪いから一緒に寝るのとか無理」
寝相もそうだが、私はどうやらイビキをかくらしくて、なんだかそれも恥ずかしくなった。
「大丈夫。動けないくらいギュッてハグして寝るから」
眠気でとろんとした眼差しを向けられると、慣れて来たはずなのに、またバクバクと心臓がやかましくなる。
「本当にそんなに四六時中くっついてないとダメなの。私だいぶ一稀さんに慣れたよ」
「俺がなーたん抱いてないと寝れないの」
「そんなのは知らないよ」
訳の分からない駄々をこねられて、さっさと寝るようになんとか説得しようとする。だけど一稀さんはもう船を漕ぐように体を揺らしてる。
「ダメ。もう立ってんの限界」
「あ、ちょっ」
ベッドに倒れ込んだ一稀さんに腕を取られて、私まで抱き寄せられてベッドにダイブする。
「布団被らないと風邪引くって。リビングの電気も消さないといけないし」
「ん。抱っこ」
いつの間に髪をほどいたのか、ヘアゴムをつけた手首がこちらに向かって伸ばされる。
「自由人だな。戻ってくるからちゃんと布団被って」
見た目とのギャップが恐ろしい甘え切った様子に、なんとか言い訳して腕を引き剥がすと、掛け布団を掛けてその場を離れる。
(怒涛のようにアクシデントが押し寄せる週末だな)
大きく息を吐いてから、テーブルに放置された空き缶とお菓子のパッケージを掻き集め、キッチンのゴミ箱に分別して捨てていく。
当然だけど一稀さんと一緒のベッドで眠るつもりはない。クローゼットの中に客用布団があるので、後でこっそり出してそこで寝よう。
色んなことが起こって、私の神経はとんでもなく冴えている。
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出してコップに注ぐと、換気扇を回してタバコに火をつける。
「ふぅ」
溜め息のように白い煙を吐き出して、改めてこれからのことを考えると、途端に気分が重たくなった。
拾ったからには面倒を見るという流れから、恋人のフリをお願いしたものの、一稀さんが言うようにそこに金銭が発生したらヒモなんだろうけど、お礼は必要なことだと思う。
短いながらも一緒に過ごしてみて、一稀さんはカッコいいし優しくて気遣いもある。
正直なにを考えてるのか分からないことの方が多くて腹の底が読めない感じはするけど、それを凌駕する包容力のようなものがあるから困る。
「はぁ」
また溜め息が漏れる。
自分でも不思議だった。どうして一稀さんに恋人のフリをして欲しいなんて頼んだんだろう。
確かに顔だけはめちゃくちゃカッコいい。チラッと見ただけだけど、体だって程よい筋肉がついて男らしい骨張った腰のラインにドキッとした。
だけど中身はどうなんだろう。恋人のフリをしてくれたら謝礼を払うと言ったのは私。それを面白がってヒモだなんだと楽しんでるのは一稀さん。
自分で言い出したことだけど、さっさと追い出さなかったことへの後悔が生まれ始める。だってなんだか一稀さんのペースに呑み込まれてる気がするから。
「なーたん、寝ないの」
「うわぁっ」
足音に気付かなくて、突然現れて眠そうに目を擦る一稀さんにびっくりして大きな声が出た。
「またタバコ?」
言うなりタバコを取り上げられて、一稀さんはそれを吸うと唇が触れそうなところまで近付いてボソリと呟く。
「吸いたいなら俺を通して吸って」
焦らすように緩やかに煙を吐き出すと、また少し離れてタバコを吸う。
無性に腹が立って一稀さんの頭を掴むと、強引にキスをして彼が言う通りに思い切り息を吸ってやった。
突然のことに目を見開いてされるがままの一稀さんの唇を噛むと、白い煙を吐いてタバコを奪い返す。
呼吸が乱された一稀さんは酷く咳き込むと、苦しそうに眉間に皺を寄せたまま腰に手を当てて、乱暴だなと呟いた。
「吸わなきゃやってらんないから放っといて」
取り戻したタバコを唇に挟んで思い切り吸い込むと、タバコの先がチリっと焼けて灰が落ちる。
「なーたん、自分のことイジメて楽しいの」
「はい?」
「俺が吸うからキスしよ。タバコの匂いさえ嗅げれば落ち着くんだよね」
むしゃくしゃする理由。
出会ったばかりのクセに、一稀さんは私より私に詳しい。
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