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(11)ヒモを飼うことになりました

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 ボーナスで奮発した51インチの大きなテレビで、週末になると決まって観ることにしてるのは、サブスクで観られるシリーズ物の海外ドラマ。
 テーブルには缶ビールとチーズ、チンしたばかりでホカホカのポップコーンが並んでる。
「へえ、これ凄く面白そうだね」
「それよりこれ、なんとかなりませんか」
 ソファーの上で後ろ抱きにされて本条さんの腕に包まれた異常事態に、私は困惑したまま後ろを振り返る。
「恋人ならこうやって、抱っこしながら見ても良いんじゃない?」
「こんなにくっつく必要ありますか」
 恋愛経験はそれなりにあるけど、声と外見にコンプレックスがある私に、この格好はハードモード過ぎる。後ろから抱っこだなんて。
 本条さんは背が高くて逞しくて、その腕の中にすっぽりだなんて、これじゃ普通の女の子じゃないか。こんな体験は今までしたことがなくて恥ずかしい。
「だってあったかいじゃない」
「なら窓閉めましょう。匂いも薄くなって来ましたし」
「違うよ、心があったかくなるでしょ」
 ギュッと抱き寄せられて首筋に顔を埋められると、髪の毛越しにキスされた気がして動揺する。
「と、とりあえずやっぱ寒いから窓を」
「俺が閉めてくるから、は座ってて」
 立ち上がって窓を閉める本条さんに、ビールを飲みながら呆れ果てて声を掛ける。
「なーたんって。それに落ち着いたんですか」
「奏多が良かったかな」
 戻ってくるとすぐにハイと言って腕を広げて、その中に私を閉じ込める。馬鹿正直にそんな風に抱き締められて悪い気分じゃないから居心地が悪い。
「呼び方は本条さんの好きにしてください」
「じゃあなーたんも本条さんって呼ぶの禁止だよ」
 重なった腕を絡め、手の甲に被せるように大きな掌で握り込むと、不埒な指が私の指の間を緩やかに撫でる。
「はい?」
「恋人なのに、他人みたいに本条さんって呼ぶのはおかしいでしょ」
「本条さんは私より歳上だし、そう呼んでもおかしくないと思いますけど」
「だぁめ。一稀が無理なら、一稀くんとか、いっくんとかどう?」
「すみません、無理なんで一稀さんで」
「いいよ。じゃあもっと呼んで」
「そんなことよりドラマ観ないんですか」
「あら、ガードが固い」
 一稀さんが楽しそうに肩を揺らす振動が、ほんわり温かい背中越しに直接伝わってくる。
 急にとんでもなく恥ずかしくなって、真っ赤になってるだろう顔を見られたくなくて咳払いすると、逃げられない腕の中でリモコンを操作してドラマの第一話を再生する。
「あれ、なーたんこれずっと観てるんじゃないの」
「だって、私が観たとこまでの説明するのは面倒ですから」
「なに嬉しい。俺のために一話から見直してくれんの」
「いやこれ結構複雑な人間ドラマで。登場人物が多いから私もおさらいしたいだけなんで」
「またまた。優しいなあ」
 そう言ってギュッと抱き寄せられると、こめかみにチュッとキスされる。
「禁則事項です!」
「あーね、はいはい。ほら始まったよ、観よ観よ」
「先が思いやられます」
 愚痴をこぼしながらも、私の心臓はキュンと跳ねている。
 これはあくまでも、私が提案したことを一稀さんが受け入れた結果であって、本物の繋がりじゃない。私たちは飼い主とヒモなのだ。
 お互いに分別ある大人なんだから、契約の上に成り立つ関係性は上手に保たないといけない。
 さっきからドキドキうるさい心臓をギュッと押さえると、冷静に深呼吸してドラマに意識を向けてテレビ画面を見つめる。
 ビールを飲んで体が冷えたのか、一稀さんは私の顔を覗き込むように首を傾げる。
「なーたん、ブランケットとかないの」
「あ、寒いですか」
「違うけど、まったりしながら二人で包まって観たくない?」
「分かんないですね。それも恋人っぽく振る舞うのに必要ですか」
「ふふ。じゃあ必要ってことにするね」
 やられた。
 抱かれた腕を解いて寝室に入ると、クローゼットから毛布を取り出してソファーに戻る。
「ブランケットみたいなオシャレな物はなくて」
「いいね。めちゃくちゃあったかいよ、これなら」
 破顔した一稀さんの顔は私だけに見せる笑顔みたいで、あまりにも無防備で可愛くて、私は咄嗟に目頭を押さえて毛布を投げつけた。
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