上 下
7 / 67

(7)このイケメン、キケンかも

しおりを挟む
「ごちそうさまでした」
「あり物だったけど、お腹の足しになりましたか」
「それどころか美味しくて、あっという間に食べちゃった。料理上手だね」
「それなら良かったです」
 極上の笑顔で微笑まれて、どうしていいか分からなくて曖昧に笑って返すと、彼が食べ終えた皿を片付けるために立ち上がる。
「あ、片付けは俺がするよ」
「いいですよ。大した量じゃないんで」
「ダメだよ。自分で食べた分だからやるよ」
「じゃあ、お願いします。その間タバコ吸ってもいいですか」
「いーよ」
 一瞬嫌がられるかと思ったけど、眉ひとつ動かさずに笑顔を向けられてホッとした自分に違うでしょと思う。
 ここは私の家だし、彼はゴミ捨て場から拾った人。私が気を遣う必要なんてどこにもないんだと心の中で苦笑した。
 そう広くないキッチンに並んで立つと、私は換気扇の下でタバコに火をつけた。
「へえ、KOOL吸うんだ」
 思いの外手早く洗い物をする彼の手元を見つめていると、洗い物は得意なんだよと目線より上から不意打ちの笑顔を向けられてしまう。
「これで良ければ吸いますか」
「え、いいの」
「別に構いませんよ」
「ありがと」
 そう言って嬉しそうに笑いながら、キッチンペーパーで水気まで拭き取って、食器を棚に戻す姿が印象的だった。私は自然乾燥派で、その手順を踏む癖がないからだ。
 ガスコンロの上に無造作に置いてるタバコとライターを手に取ると、彼はボックスから取り出した一本を口に咥えて火をつける。
「タバコ吸うんですね」
「全然。実は10年ぶりくらい」
「え?」
「これ吸ってたからさ、懐かしくて。お姉さん美味そうに吸うし」
 美味そうにタバコを吸うなんて言われたことがない。どういう意味か分からないまま、私は黙って煙を吐き出す。
「10年ぶりのタバコはどうですか」
「んまい」
「そうですか。やめるに越したことないですけどね」
「お姉さんはいつから吸ってるの」
 彼氏と別れて禁煙もやめたことを思い出して、ついなんとも言えない顔をしてしまう。
「2年半頑張りましたけど、ダメでしたね」
「そんな顔するほど好きだったの」
「へ?」
「恋人のためにタバコやめてたんじゃないの」
 覗き込むように目を合わされてドキッとする。
 それに何より、顔色ひとつでそんなことまでバレてしまうものなのかと驚かされる。
 何も言えなくて曖昧に笑うと、キスされるのかと思うほど近付いた唇が弧を描いて妖艶に引き上げられる。
「今キスしたらどんな味がするだろうね」
「…………」
 やめてだとか、揶揄わないでと一言でも返したら、彼の唇が触れてしまいそうで声が出せない。
 この人から感じるキケンな香りはきっと気のせいじゃない。冷静に考えれば分かる、ゴミ捨て場に捨てられるような人なんだから。
「ごめん、びっくりさせたみたいだね」
 そしてまた悪びれた様子もなく謝ると、彼は姿勢を戻してタバコをふかし、少しだけ短くなったそれを灰皿に押し付けた。
 自分は吸い終わったクセに食器棚にもたれて、リビングに戻らずに私がタバコを吸い終わるのを待ってる感じがどうも緊張する。
「ソファーに座ってた方があったかいですよ」
「お姉さんは優しいね」
「いや、風邪とか引かれたら看病の手間が増えるんで」
「へえ」
 暗にリビングに行って欲しいと伝えても、分かってないのか聞く気がないのか、彼はその場を動く気配がない。
「ぶぇえっ、くしゅん」
 そんなタイミングで、私が汚点とする他人に聞かれたくない最低のくしゃみが出てしまった。
「随分カワイイね、くしゃみ」
「いや可愛くないんで忘れてくだ……へえぇっ、くしゅん」
「はは、本当カワイイ。それよりやっぱり冷えたんじゃないの、お風呂入っておいでよ」
「さすがにそこまで不用心になれないです」
 タバコを吸い終えて灰皿を片付けると、その様子を見ながら彼が思い至ったように呟く。
「ああ俺か。そっか」
 それから何か考え込むように黙り込んだ彼を置いてリビングに戻ると、ようやく何か思いついたのか、閃いたような顔をしてまた声を掛けられる。
「雑誌とか縛る紐ないかな。それかガムテープ」
「荷造りでもするんですか」
「そうね、ある意味そうかもね」
 クスッと笑う彼だけど、ゴミ捨て場に捨てられた全裸男のクセに何を言っているんだろう。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

処理中です...