初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉

濘-NEI-

文字の大きさ
上 下
63 / 65

24-1

しおりを挟む
 双方の親に挨拶をしてから、約八ヶ月。
 出会ってから一年を迎える頃にようやく結婚式を挙げることになったのは良いけれど、樹貴さんの仕事関係のことで何度も調整が入り、私たちは何度ケンカしたか分からない。
 ようやく迎えた結婚式当日、鏡に映る自分の姿に、これは現実なんだとようやく安堵の溜め息がもれる。
 エンパイアラインのウェディングドレスは、胸元にたっぷりと上品な刺繍が施され、背中は編み上げのデザインになった一点物だ。
 身内や近しい友人だけを招いたチャペルで挙式を執り行うと、緊張する父と一緒にバージンロードを歩いて、私を待つ樹貴さんの元に向かう。
 シルバーのフロックコートに身を包んだ樹貴さんは、美容師らしく凝った髪型をしていて、いつも以上に素敵で、やっと彼の妻になるんだと思うと色んな記憶が蘇ってくる。
 二人で選んだ結婚指輪の交換をして、誓いのキスを交わし、晴れて夫婦となったことを祝ってもらう瞬間はこの上なく嬉しい時間だった。
 なのに私の気分は今とても滅入っている。
 原因は披露宴の規模が大き過ぎて、招待客の調整が本当に大変だったことだ。
 樹貴さんも申し訳ないと言ってたけど、世間がミニマルウエディングだと盛り上がる中、時代に逆行する豪華な披露宴になってしまうのは、樹貴さんの立場上仕方ないけどモヤモヤする。
 樹貴さんが仕事をしていく上で、おろそかに出来ない付き合いなのだとしても、本当に私が思い描いていた結婚披露宴とは程遠い。
 せっかくの晴れの日にイライラしたくはないけど、付き合いで顔を出す披露宴なんて本当にあるんだなと、嬉しい気持ちが半減するようで残念な気持ちになる。
「香澄ちゃん、気分が悪くなったの? どうかした」
「ごめんなさい樹貴さん。もうこの話はしないって言ったけど、やっぱり心からお祝いしてくれる人だけ呼びたかったというか」
「そうだよね。挙式が素敵だったから、余計にそんな気持ちになるよね。俺の都合で本当にごめんね」
「謝らせたい訳じゃないんです。樹貴さんにも立場があるし、理解はしてるんです」
「でも納得出来ないんだろ」
「ごめんなさい、樹貴さんのせいじゃないのに、八つ当たりしちゃって」
「……香澄ちゃん」
 勝手にモヤモヤして八つ当たりしてしまう自分が情けなくて、落ち込んで俯いていると、いつの間にか私の背後に回った樹貴さんが私をギュッと抱き締める。
「どうしたってこんな時はナーバスになる。ましてや俺のせいで、君が妥協してくれた披露宴だから」
 樹貴さんはそう言うと、少しヘアアレンジをして気分を変えようと私を鏡の前に連れて行く。
 そしてサプライズだからとスカーフで私の目元を覆うと、優しい手が髪に触れ、綺麗に纏っていたはずの髪をほどくと、整髪剤を取り除くためかスプレーをかける音がする。
「君と出会ってから一年。短いようだけど中身が濃い充実した時間だったよね。ケンカした日や仲直りした日、美味しい物を食べた日。夜更かししてお菓子も食べたね」
「そうですね、本当に色んなことがありました」
「だよね。それにデートだって、数は少ないけど色んな場所に出掛けたよね。香澄ちゃんは、どこが一番思い出に残ってるかな。俺はね」
 ヘアメイクをしながら、樹貴さんは私たちが歩んできた時間を何一つ忘れてないって、キラキラした思い出だからと楽しそうに話してくれる。
 こんな人がそばに居てくれるのに、何を不満に感じることなんてあるんだろう。
 大丈夫。私はこの人に望まれて、その隣に立つために今日ここに居る。だから堂々とした姿でこの人の隣に立たなきゃいけない。 
「今日は君が俺の、俺だけのプリンセスだよ。さあ、背筋を伸ばして鏡を見てごらん」
 樹貴さんが耳元に囁いてスカーフが取り払われると、全体的にふわふわしてたはずのヘアスタイルは、左側は樹貴さんとお揃いのすっきりした髪型にアレンジされていて驚く。
 それに前髪から右サイドまでは、ふんわりと変わった編み込みでまとめられ、ブーケと同じダリアの生花が髪留めとしてアクセントに飾られている。
「樹貴さん」
「君にどんな髪型が似合うか、俺が一番良く知ってるからね。それに俺は魔法が使えるんだよね」
 クスッと笑う樹貴さんを見て、断片的な記憶が蘇る。
 そうだ、あれは菜穂ちゃんの結婚式で。
『今日は君もプリンセスだよ、さあ、背筋を伸ばして鏡を見てごらん』
 高校生だった私は部活ばかりで洒落っ気がなくて、日に焼けた肌にショートカットの飾り気のない髪。
 菜穂ちゃんの結婚式のために、親が選んだアンバランスな服を着て、慣れない化粧にクスクスと周りに笑われているようで恥ずかしかった。
 そんな私にあの時も、魔法をかけてくれた人が居た。
『俺、魔法が使えるんだよね』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです

紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。 夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。 ★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★ ☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆ ※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。  お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。

交際マイナス一日婚⁉ 〜ほとぼりが冷めたら離婚するはずなのに、鬼上司な夫に無自覚で溺愛されていたようです〜

朝永ゆうり
恋愛
憧れの上司と一夜をともにしてしまったらしい杷留。お酒のせいで記憶が曖昧なまま目が覚めると、隣りにいたのは同じく状況を飲み込めていない様子の三条副局長だった。 互いのためにこの夜のことは水に流そうと約束した杷留と三条だったが、始業後、なぜか朝会で呼び出され―― 「結婚、おめでとう!」 どうやら二人は、互いに記憶のないまま結婚してしまっていたらしい。 ほとぼりが冷めた頃に離婚をしようと約束する二人だったが、互いのことを知るたびに少しずつ惹かれ合ってゆき―― 「杷留を他の男に触れさせるなんて、考えただけでぞっとする」 ――鬼上司の独占愛は、いつの間にか止まらない!?

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...