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休みを合わせてくれたり、仕事終わりにご飯に行ったりすることもあるけど、基本的には会社を経営する立場の人で、尚且つトップスタイリストとしてお店でも現役で働いてる人だ。
私が何も成せない人間だって訳じゃないけど、仕事の話をしていても、たまに大きな隔たりを感じるくらい本当に凄い人なんだと思う。
「まあでも、焦って結婚することもないだろうし、一緒に居たいことが結婚とイコールじゃないからね」
「結婚って、どんな感じですか」
「結婚? リアルな話をすると、新婚の頃は確かにウキウキして楽しい時間でもあったし、新しい環境にドキドキしたけど、結局は生活だからね」
「お子さんが出来たら尚更ですよね」
「家族になっていくってことだからね」
「そうですよね」
「でも良いものよ。苦労もあるけど幸せを分かち合えるっていうのは」
そう答える友梨さんは、本当に幸せそうだと思う。
その後も恋愛の話で盛り上がってしまい、相手がどんな人なのかという質問は恥ずかしいとはぐらかして、なんとか切り抜けた。
しばらく友梨さんと雑談して盛り上がっていると、彼女のスマホに着信があって、友梨さんは兄からだと断りを入れて電話に出た。
「もしもし? 今日来るんじゃなかったの。今どこなのよ」
電話に出るなり少しケンカ腰の友梨さんと、その向こうにいる、苦笑してそうな樹貴さんを想像して人知れず小さく笑ってしまう。
「はあ? 産気づいたってどういうことよ」
ところが雲行きは怪しくなり、友梨さんは心底不快そうに顔を顰めてる。
「そっちの事情は知らないわよ」
樹貴さんが何か言っているようだけど、友梨さんは理解出来ないと言わんばかりに、縁を切れと声を荒げた。
「とにかく、あんな女のところに行くなら、私お兄ちゃんと縁切るからね」
会話の内容にビクッとする。
友梨さんはあんな女と言った。しかもその女性は妊婦なのか、産気づいたと言っていた気がする。
スピーカー越しに樹貴さんの声が聞こえた気がしたけど、怒った様子の友梨さんはそのまま電話を切ってしまった。
「ごめんなさいね、香澄ちゃん。みっともないとこ見せちゃって」
「いえいえ」
どんな話なのか内容が気になるけど、友梨さんと樹貴さんが兄妹ゆえのケンカのようだし、変に探りを入れて聞き出すことも出来ない。
「お兄ちゃん今日は来られないみたい」
「そうなんですね。お仕事もお忙しいでしょうし、そもそも滅多にお見えにならないってことでしたから。それにご挨拶は先日出来ましたし」
「ごめんね、本当に」
頭を抱えて溜め息を吐く友梨さんに、やっぱりそれ以上のことを聞くことは出来ない。
樹貴さんがどんな事情で来られなくなったのか、正直言えば気になるけど、本人以外の口から聞かされるのは良いことだと思えない。
言わなければいけないことなら、きっと樹貴さん自身が話してくれるはずだ。
そう思うのに、ちょっと前の美咲と石井くんのケンカを思い出して、樹貴さんが私には言う必要がないと思ってるかも知れない気がして、心がギュッと苦しくなった。
「香澄ちゃん、顔色悪いけど疲れが出たのかな」
「そうかも知れません」
「そうだよね、引っ越しの準備もあっただろうし、気が回らなくてごめんね」
「いいえ。とんでもないです」
「じゃあ、そろそろ子どもたち起こしてお暇するわね」
「本当に今日は助かりました。私の休みは平日が多いですけど、いつでもいらしてくださいね」
「うんうん。菜穂子も誘ってまたお茶しよう」
「本当に、お家を提供してくださって、家賃のことも、ありがとうございます」
「良いのよ。急いで部屋なんか探さなくて良いからね。うちにしても、誰かが住んでくれる方が助かるんだから」
「はい。ありがとうございます」
そうして私は友梨さんたちを見送ると、独りぼっちでこれから住む広い家に取り残された。
私が何も成せない人間だって訳じゃないけど、仕事の話をしていても、たまに大きな隔たりを感じるくらい本当に凄い人なんだと思う。
「まあでも、焦って結婚することもないだろうし、一緒に居たいことが結婚とイコールじゃないからね」
「結婚って、どんな感じですか」
「結婚? リアルな話をすると、新婚の頃は確かにウキウキして楽しい時間でもあったし、新しい環境にドキドキしたけど、結局は生活だからね」
「お子さんが出来たら尚更ですよね」
「家族になっていくってことだからね」
「そうですよね」
「でも良いものよ。苦労もあるけど幸せを分かち合えるっていうのは」
そう答える友梨さんは、本当に幸せそうだと思う。
その後も恋愛の話で盛り上がってしまい、相手がどんな人なのかという質問は恥ずかしいとはぐらかして、なんとか切り抜けた。
しばらく友梨さんと雑談して盛り上がっていると、彼女のスマホに着信があって、友梨さんは兄からだと断りを入れて電話に出た。
「もしもし? 今日来るんじゃなかったの。今どこなのよ」
電話に出るなり少しケンカ腰の友梨さんと、その向こうにいる、苦笑してそうな樹貴さんを想像して人知れず小さく笑ってしまう。
「はあ? 産気づいたってどういうことよ」
ところが雲行きは怪しくなり、友梨さんは心底不快そうに顔を顰めてる。
「そっちの事情は知らないわよ」
樹貴さんが何か言っているようだけど、友梨さんは理解出来ないと言わんばかりに、縁を切れと声を荒げた。
「とにかく、あんな女のところに行くなら、私お兄ちゃんと縁切るからね」
会話の内容にビクッとする。
友梨さんはあんな女と言った。しかもその女性は妊婦なのか、産気づいたと言っていた気がする。
スピーカー越しに樹貴さんの声が聞こえた気がしたけど、怒った様子の友梨さんはそのまま電話を切ってしまった。
「ごめんなさいね、香澄ちゃん。みっともないとこ見せちゃって」
「いえいえ」
どんな話なのか内容が気になるけど、友梨さんと樹貴さんが兄妹ゆえのケンカのようだし、変に探りを入れて聞き出すことも出来ない。
「お兄ちゃん今日は来られないみたい」
「そうなんですね。お仕事もお忙しいでしょうし、そもそも滅多にお見えにならないってことでしたから。それにご挨拶は先日出来ましたし」
「ごめんね、本当に」
頭を抱えて溜め息を吐く友梨さんに、やっぱりそれ以上のことを聞くことは出来ない。
樹貴さんがどんな事情で来られなくなったのか、正直言えば気になるけど、本人以外の口から聞かされるのは良いことだと思えない。
言わなければいけないことなら、きっと樹貴さん自身が話してくれるはずだ。
そう思うのに、ちょっと前の美咲と石井くんのケンカを思い出して、樹貴さんが私には言う必要がないと思ってるかも知れない気がして、心がギュッと苦しくなった。
「香澄ちゃん、顔色悪いけど疲れが出たのかな」
「そうかも知れません」
「そうだよね、引っ越しの準備もあっただろうし、気が回らなくてごめんね」
「いいえ。とんでもないです」
「じゃあ、そろそろ子どもたち起こしてお暇するわね」
「本当に今日は助かりました。私の休みは平日が多いですけど、いつでもいらしてくださいね」
「うんうん。菜穂子も誘ってまたお茶しよう」
「本当に、お家を提供してくださって、家賃のことも、ありがとうございます」
「良いのよ。急いで部屋なんか探さなくて良いからね。うちにしても、誰かが住んでくれる方が助かるんだから」
「はい。ありがとうございます」
そうして私は友梨さんたちを見送ると、独りぼっちでこれから住む広い家に取り残された。
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