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「ダメだ。可愛すぎて早く食べたい」
「またそういうことを」
「本当に、浴衣凄い似合ってるけど、今すぐ脱がせたい」
樹貴さんはまた身を屈めて耳元に囁くと、念を押すみたいに耳朶を甘噛みして、私一人だけが顔を真っ赤にさせて、手のひらで顔を煽ぐハメになってしまった。
なんとか人混みを抜け出して美咲の元に戻ると、花火が始まるまでの間、買って来たご飯をつまみながら、どれが美味しいとかたわいない話をして過ごす。
「徳明も来られたら良かったのに」
「それが本音だよね」
「本当は元カノのことは疑ったりしてないの。でも言えない理由があったとしてもさ、夫婦なんだから、秘密を持たれるのは嫌なんだよね」
「そうだね。隠し事は嫌だよね」
樹貴さんとは、まだお互いのことをよく知らない。
友梨さんのお兄さんだから、どこか無条件に信頼してしまっているけど、私よりもずっと歳上だし、色んな経験や過去があるはず。
私がそれを聞き出せないのは、全てが終わったことだとしても、嫉妬しないとは言い切れないからだと思う。
「香澄の彼氏さん、大人だし良い人だけどモテそうじゃない? 不安にならないの」
「なるよ」
「不安の種はさ、早めに取り除いといた方が良いよ」
「うん。分かってる」
美咲と手を握り合うと、それまでスマホを見ていた樹貴さんがそろそろ始まるよと私の真横に座り直した。
六千発の花火は圧巻で、夜空を彩る花火を見上げながら、樹貴さんと一緒にこの景色を見ることが出来て幸せを噛み締める。
一晩限りだと諦めていたのに、偶然が重なって再会することが出来て、正式にお付き合いすることになった。
きっと樹貴さんからしたら、私はまだまだ幼くて頼りなく映ってるんだろうけど、来年もその先も、彼のそばでこんな風に過ごせたら幸せだと思う。
「花火ってこんなに綺麗なんだね」
「そう言えば、来たことないって言ってましたね」
「うん。良い思い出が出来た」
「二度と来ないみたいに言わないでくださいよ」
「あれ、来年も一緒に居てくれるのかな」
「先のことは分からないけど、私はそうしたいと思ってますよ」
この言葉だけはきちんと伝わるように耳元に顔を寄せて囁くと、仕返しに樹貴さんの耳朶を甘噛みしてから顔を離す。
樹貴さんは少し驚いた顔をしながら、すぐに笑顔になると、私の腰を抱き寄せて、二人で一緒に花火を見上げた。
「いやあ、めちゃくちゃ綺麗だったね」
興奮気味の美咲と一緒に、スマホで撮影した写真を見返しながら、人波が落ち着くまで広げたシートの上で過ごす。
「少しは気分転換になったかな」
「はい! それはもちろん」
樹貴さんが横から美咲に声を掛けると、美咲は満面の笑みを浮かべてブンブンと首を縦に振る。
これで少しでも冷静になって、石井くんとしっかり話し合う切っ掛けを掴んでくれれば良いとは思うけど、こればっかりは夫婦の問題だし、梅原くんの話もどこまで本当か分からない。
いずれにせよ、美咲にとって幸せな結果に繋がることを祈るしかないし、石井くんが美咲に対して少しでも誠意を見せてくれるようにと思う。
「そろそろ人波も落ち着いて来たね」
「そうですね」
樹貴さんの声に反応して辺りを見渡すと、花火が終わった直後よりは、随分と動きやすい程度に人が引いていっている。
「それじゃあ、そろそろ車に戻ろうか」
ゴミをまとめて袋に詰めると、レジャーシートを畳んでお祭りの余韻に浸りながら、駐車場までの道のりをゆっくりと引き返していく。
途中で美咲がソワソワし始めたので、多分石井くんから連絡があったのだろう。
だから私は、素直になった方が良いよと短く呟いて、美咲の背中をポンと叩いた。
「またそういうことを」
「本当に、浴衣凄い似合ってるけど、今すぐ脱がせたい」
樹貴さんはまた身を屈めて耳元に囁くと、念を押すみたいに耳朶を甘噛みして、私一人だけが顔を真っ赤にさせて、手のひらで顔を煽ぐハメになってしまった。
なんとか人混みを抜け出して美咲の元に戻ると、花火が始まるまでの間、買って来たご飯をつまみながら、どれが美味しいとかたわいない話をして過ごす。
「徳明も来られたら良かったのに」
「それが本音だよね」
「本当は元カノのことは疑ったりしてないの。でも言えない理由があったとしてもさ、夫婦なんだから、秘密を持たれるのは嫌なんだよね」
「そうだね。隠し事は嫌だよね」
樹貴さんとは、まだお互いのことをよく知らない。
友梨さんのお兄さんだから、どこか無条件に信頼してしまっているけど、私よりもずっと歳上だし、色んな経験や過去があるはず。
私がそれを聞き出せないのは、全てが終わったことだとしても、嫉妬しないとは言い切れないからだと思う。
「香澄の彼氏さん、大人だし良い人だけどモテそうじゃない? 不安にならないの」
「なるよ」
「不安の種はさ、早めに取り除いといた方が良いよ」
「うん。分かってる」
美咲と手を握り合うと、それまでスマホを見ていた樹貴さんがそろそろ始まるよと私の真横に座り直した。
六千発の花火は圧巻で、夜空を彩る花火を見上げながら、樹貴さんと一緒にこの景色を見ることが出来て幸せを噛み締める。
一晩限りだと諦めていたのに、偶然が重なって再会することが出来て、正式にお付き合いすることになった。
きっと樹貴さんからしたら、私はまだまだ幼くて頼りなく映ってるんだろうけど、来年もその先も、彼のそばでこんな風に過ごせたら幸せだと思う。
「花火ってこんなに綺麗なんだね」
「そう言えば、来たことないって言ってましたね」
「うん。良い思い出が出来た」
「二度と来ないみたいに言わないでくださいよ」
「あれ、来年も一緒に居てくれるのかな」
「先のことは分からないけど、私はそうしたいと思ってますよ」
この言葉だけはきちんと伝わるように耳元に顔を寄せて囁くと、仕返しに樹貴さんの耳朶を甘噛みしてから顔を離す。
樹貴さんは少し驚いた顔をしながら、すぐに笑顔になると、私の腰を抱き寄せて、二人で一緒に花火を見上げた。
「いやあ、めちゃくちゃ綺麗だったね」
興奮気味の美咲と一緒に、スマホで撮影した写真を見返しながら、人波が落ち着くまで広げたシートの上で過ごす。
「少しは気分転換になったかな」
「はい! それはもちろん」
樹貴さんが横から美咲に声を掛けると、美咲は満面の笑みを浮かべてブンブンと首を縦に振る。
これで少しでも冷静になって、石井くんとしっかり話し合う切っ掛けを掴んでくれれば良いとは思うけど、こればっかりは夫婦の問題だし、梅原くんの話もどこまで本当か分からない。
いずれにせよ、美咲にとって幸せな結果に繋がることを祈るしかないし、石井くんが美咲に対して少しでも誠意を見せてくれるようにと思う。
「そろそろ人波も落ち着いて来たね」
「そうですね」
樹貴さんの声に反応して辺りを見渡すと、花火が終わった直後よりは、随分と動きやすい程度に人が引いていっている。
「それじゃあ、そろそろ車に戻ろうか」
ゴミをまとめて袋に詰めると、レジャーシートを畳んでお祭りの余韻に浸りながら、駐車場までの道のりをゆっくりと引き返していく。
途中で美咲がソワソワし始めたので、多分石井くんから連絡があったのだろう。
だから私は、素直になった方が良いよと短く呟いて、美咲の背中をポンと叩いた。
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