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「入って大丈夫ですか」
ドアをノックすると、大丈夫だよと返事がある。
「樹貴さんごめんなさい。聞こえてたと思うけど、あの状態で家に帰すのは気が引けるから、美咲を今夜泊めてもいいですか」
「もちろん。俺こそ今日は帰ろうか? それともそばに居た方が良いかな。君だって不安だろ、板挟みになりそうだし」
「そう言ってもらえると。お言葉に甘えても良いですか。せっかく来てくれたのに、こんなことになってごめんなさい」
「大丈夫だって。それよりお友だち、妊婦さんなんでしょ。他人の俺が居ても大丈夫なのかな」
「本質は明るくて良い子なんで大丈夫です。やっぱりナーバスになってるみたいで、話もややこしいですし」
「そうみたいだね」
「じゃあ、美咲に泊まるように言って来ますね」
部屋を出ようとした手を掴まれて、ベッドの方に引き寄せられる。
「樹貴さん?」
「いや、大事な友だちなんだろうけど、無理しないでね」
「ありがとうございます」
「そうだ」
「どうかしましたか」
「いや、なんなら気晴らしにドライブに連れて行ってあげるのはどうかな。部屋にこもってると、考えも凝り固まるだろうし」
「良いんですか」
「俺は全然構わないよ」
そう言って抱き締められると、そのままキスされて遠慮しないでねと優しく笑う笑顔に救われる思いがした。
「じゃあ、あっちに戻りますね」
「うん」
樹貴さんはやっぱり大人だと思う。
浮気だ二股だ、妊娠だと騒ぐ友だちが乗り込んで来たら、普通は嫌な顔をしたって不思議じゃないのに、美咲のことまで気遣ってくれて車を出すって言ってくれた。
ありがたいと思う反面、自分自身が子どものように感じて情けなくもなる。
リビングに戻ると、盛大な音を立てて鼻をかむ美咲の姿に、やっぱり私たちはまだ子どもだなと肩を落とし、大人の余裕が欲しくなる。
「彼も泊まるけど、それで問題ないなら全然構わないってさ」
「ありがとう」
「それでね、気分転換にドライブに行かないかって言ってるけど、どうする」
「え、私も?」
「当たり前でしょ、美咲のために言ってくれてるの」
「そんなの悪いよ」
「気は遣わないで。イライラし過ぎるのも溜め込むのも、赤ちゃんのためにならないだろうし、私も彼を美咲にちゃんと紹介したいから」
「香澄ぃ」
「分かったから、いちいち泣かないで」
ティッシュを抜き取って投げ付けるように手渡すと、バスルームからタオルを取って来て、緩く絞って目を冷やすようにそれを手渡す。
「どこか行きたいところはある?」
「どこでも良い。ここに居ても、どうしても徳明のこと考えちゃうし」
「そうだろうね」
くだらないやり取りをしつつ、そう言えばお盆前だから道が混んでるかも知れないとか、ドライブするならどこが良いだろうかと美咲と雑談し始めた。
スマホを手に取ってイベント情報をチェックすると、神奈川で花火大会があるらしく、それを見に行きたいと二人で勝手に盛り上がる。
「でもそんな混むところ危ないんじゃないの」
「えぇえ、でも花火見たい」
「ワガママだな」
「あ、でも香澄と彼氏の邪魔になるね、私」
「邪魔とかそういうのはないよ。ちょっと彼に聞いてみようか。見に行くなら早めに行くに越したことないし」
「ごめんね香澄」
「良いって。気晴らしは大事だよ」
ちゃんと目を冷やすように美咲に声を掛けると、私はリビングを離れて樹貴さんが居る私の部屋に向かう。
「入りますよ」
「どうぞ」
自分の部屋なのに遠慮してるのかと笑う樹貴さんの隣に座ると、スマホの画面を見せて花火大会はどうかとドライブの行き先を提案する。
ドアをノックすると、大丈夫だよと返事がある。
「樹貴さんごめんなさい。聞こえてたと思うけど、あの状態で家に帰すのは気が引けるから、美咲を今夜泊めてもいいですか」
「もちろん。俺こそ今日は帰ろうか? それともそばに居た方が良いかな。君だって不安だろ、板挟みになりそうだし」
「そう言ってもらえると。お言葉に甘えても良いですか。せっかく来てくれたのに、こんなことになってごめんなさい」
「大丈夫だって。それよりお友だち、妊婦さんなんでしょ。他人の俺が居ても大丈夫なのかな」
「本質は明るくて良い子なんで大丈夫です。やっぱりナーバスになってるみたいで、話もややこしいですし」
「そうみたいだね」
「じゃあ、美咲に泊まるように言って来ますね」
部屋を出ようとした手を掴まれて、ベッドの方に引き寄せられる。
「樹貴さん?」
「いや、大事な友だちなんだろうけど、無理しないでね」
「ありがとうございます」
「そうだ」
「どうかしましたか」
「いや、なんなら気晴らしにドライブに連れて行ってあげるのはどうかな。部屋にこもってると、考えも凝り固まるだろうし」
「良いんですか」
「俺は全然構わないよ」
そう言って抱き締められると、そのままキスされて遠慮しないでねと優しく笑う笑顔に救われる思いがした。
「じゃあ、あっちに戻りますね」
「うん」
樹貴さんはやっぱり大人だと思う。
浮気だ二股だ、妊娠だと騒ぐ友だちが乗り込んで来たら、普通は嫌な顔をしたって不思議じゃないのに、美咲のことまで気遣ってくれて車を出すって言ってくれた。
ありがたいと思う反面、自分自身が子どものように感じて情けなくもなる。
リビングに戻ると、盛大な音を立てて鼻をかむ美咲の姿に、やっぱり私たちはまだ子どもだなと肩を落とし、大人の余裕が欲しくなる。
「彼も泊まるけど、それで問題ないなら全然構わないってさ」
「ありがとう」
「それでね、気分転換にドライブに行かないかって言ってるけど、どうする」
「え、私も?」
「当たり前でしょ、美咲のために言ってくれてるの」
「そんなの悪いよ」
「気は遣わないで。イライラし過ぎるのも溜め込むのも、赤ちゃんのためにならないだろうし、私も彼を美咲にちゃんと紹介したいから」
「香澄ぃ」
「分かったから、いちいち泣かないで」
ティッシュを抜き取って投げ付けるように手渡すと、バスルームからタオルを取って来て、緩く絞って目を冷やすようにそれを手渡す。
「どこか行きたいところはある?」
「どこでも良い。ここに居ても、どうしても徳明のこと考えちゃうし」
「そうだろうね」
くだらないやり取りをしつつ、そう言えばお盆前だから道が混んでるかも知れないとか、ドライブするならどこが良いだろうかと美咲と雑談し始めた。
スマホを手に取ってイベント情報をチェックすると、神奈川で花火大会があるらしく、それを見に行きたいと二人で勝手に盛り上がる。
「でもそんな混むところ危ないんじゃないの」
「えぇえ、でも花火見たい」
「ワガママだな」
「あ、でも香澄と彼氏の邪魔になるね、私」
「邪魔とかそういうのはないよ。ちょっと彼に聞いてみようか。見に行くなら早めに行くに越したことないし」
「ごめんね香澄」
「良いって。気晴らしは大事だよ」
ちゃんと目を冷やすように美咲に声を掛けると、私はリビングを離れて樹貴さんが居る私の部屋に向かう。
「入りますよ」
「どうぞ」
自分の部屋なのに遠慮してるのかと笑う樹貴さんの隣に座ると、スマホの画面を見せて花火大会はどうかとドライブの行き先を提案する。
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