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とりあえず樹貴さんには私の部屋で過ごしてもらうことにして、泣きじゃくる美咲を家に迎え入れると、冷えた麦茶をグラスに注いでダイニングテーブルに向かい合って座る。
「ちょっとは落ち着いた?」
「ごめん香澄。突然押し掛けて来て」
「それは気にしなくて良いよ」
「でも玄関に男物の靴があった」
「そういうのは見てんのね」
私の部屋に樹貴さんが居ることを断ってから、別の場所で話すなら出掛けても良いと切り出すと、美咲は大丈夫だと答える。
「突然押し掛けて来てごめん。今日休みだったら良いなと思って、とりあえず来てみたの。でも香澄にしか相談出来なくて」
口を開いたかと思えばまた泣き始めた美咲にティッシュを箱ごと渡すと、落ち着くのを待ってどうしたのかと理由を尋ねてみることにした。
「私にしか相談出来ないって、出産のことで何かトラブル? それとも石井くんとケンカでもしたの」
ゆっくりで良いよと付け足して、まだ啜り泣きする美咲の顔を覗き込む。
「赤ちゃんは元気だよ、心配させてごめん」
「ならやっぱり石井くんと揉めたの」
「 徳明が隠れて元カノと会ってて、しかもその元カノが妊娠してるって話を聞いちゃって」
「は? それって石井くんの子どもってこと?」
「分かんない。徳明に説明しろって言ったんだけど、お前が気にすることじゃないってその一点張りで。もう、訳が分かんなくて」
「なにそれ。説明もないってこと」
「こんな状態で、結婚なんて無理だよ」
美咲はそう言うとまた号泣し始めた。
ことの発端は美咲の夫である石井くんが会社の飲み会に参加したことで、元カノはどうやら会社の同僚らしく、別れてからも友だちだとか気楽な関係で付き合いが続いていたそうだ。
男女の友情については、他人が自分の倫理観で強く肯定も否定も出来ないのが難しいところで、別れて他人になったからこそ深まる絆もあるのかも知れない。
擁護するつもりはないけど、別れた二人が、まして同じ職場なら、気まずい関係よりも友情に昇華した方が、お互いに気が楽だったパターンなんだろうか。
とりあえず話を本題に戻すと、会社の飲み会を切っ掛けに、石井くんは元カノから相談事と称して二人きりで会うことが増えたのだと言う。
美咲がそれを知っているのは、石井くんの友だちで、美咲とも仲が良い梅原くんが心配して打ち明けてくれたからだそうだ。
私からしたら、本質が不明瞭なのに不安を煽ることをするんじゃないよと怒りが込み上げるけど、梅原くんからしてみれば、元カノと内緒で会ってる石井くんを見過ごせなかったのだろう。
元カノが妊娠してる可能性があるなら尚更、美咲にそれを黙ってる石井くんのことが理解出来なかったのかも知れない。
「だからね、徳明にウメから聞いたって言ったんだけど、そんなんじゃないからって。理由も言う必要ないとしか言わなくて」
「そうだったんだ」
私と美咲は高校が違うし、石井くんとは最近になってから関わったから、彼の本質をそれほど知ってる訳じゃないけど、浮気や二股を器用にこなせるタイプだとは思えない。
だけどそれを今の美咲に言ったところで、他に行き場がない彼女が納得して頷くとも思えない。
「それで、石井くんは他には何か言ってなかったの」
「そんなに信用出来ないのかとか、めちゃくちゃ逆ギレされて。もうあんな奴と一緒に住むとか無理」
「ああ、大ゲンカしちゃったんだね」
「香澄はどう思う」
「どうって」
「浮気されるような私が悪いのかな」
「いやいや。まず本当に浮気なのかどうかも分からないんだし、もう少しちゃんと話は出来ないのかな」
「だって、徳明すぐキレるんだもん」
「石井くんって、そんな人なの」
「後ろめたいから怒るんだよ。絶対浮気してる」
興奮した美咲がダイニングテーブルを叩きつけて、大きな音が部屋に響く。
そりゃ確かに石井くんの反応は怪しさ満点だけど、いくら授かり婚とはいえ、既に籍も入れた嫁が居るのに、平然と他所で子作りするような人だろうか。
「ちょっとは落ち着いた?」
「ごめん香澄。突然押し掛けて来て」
「それは気にしなくて良いよ」
「でも玄関に男物の靴があった」
「そういうのは見てんのね」
私の部屋に樹貴さんが居ることを断ってから、別の場所で話すなら出掛けても良いと切り出すと、美咲は大丈夫だと答える。
「突然押し掛けて来てごめん。今日休みだったら良いなと思って、とりあえず来てみたの。でも香澄にしか相談出来なくて」
口を開いたかと思えばまた泣き始めた美咲にティッシュを箱ごと渡すと、落ち着くのを待ってどうしたのかと理由を尋ねてみることにした。
「私にしか相談出来ないって、出産のことで何かトラブル? それとも石井くんとケンカでもしたの」
ゆっくりで良いよと付け足して、まだ啜り泣きする美咲の顔を覗き込む。
「赤ちゃんは元気だよ、心配させてごめん」
「ならやっぱり石井くんと揉めたの」
「 徳明が隠れて元カノと会ってて、しかもその元カノが妊娠してるって話を聞いちゃって」
「は? それって石井くんの子どもってこと?」
「分かんない。徳明に説明しろって言ったんだけど、お前が気にすることじゃないってその一点張りで。もう、訳が分かんなくて」
「なにそれ。説明もないってこと」
「こんな状態で、結婚なんて無理だよ」
美咲はそう言うとまた号泣し始めた。
ことの発端は美咲の夫である石井くんが会社の飲み会に参加したことで、元カノはどうやら会社の同僚らしく、別れてからも友だちだとか気楽な関係で付き合いが続いていたそうだ。
男女の友情については、他人が自分の倫理観で強く肯定も否定も出来ないのが難しいところで、別れて他人になったからこそ深まる絆もあるのかも知れない。
擁護するつもりはないけど、別れた二人が、まして同じ職場なら、気まずい関係よりも友情に昇華した方が、お互いに気が楽だったパターンなんだろうか。
とりあえず話を本題に戻すと、会社の飲み会を切っ掛けに、石井くんは元カノから相談事と称して二人きりで会うことが増えたのだと言う。
美咲がそれを知っているのは、石井くんの友だちで、美咲とも仲が良い梅原くんが心配して打ち明けてくれたからだそうだ。
私からしたら、本質が不明瞭なのに不安を煽ることをするんじゃないよと怒りが込み上げるけど、梅原くんからしてみれば、元カノと内緒で会ってる石井くんを見過ごせなかったのだろう。
元カノが妊娠してる可能性があるなら尚更、美咲にそれを黙ってる石井くんのことが理解出来なかったのかも知れない。
「だからね、徳明にウメから聞いたって言ったんだけど、そんなんじゃないからって。理由も言う必要ないとしか言わなくて」
「そうだったんだ」
私と美咲は高校が違うし、石井くんとは最近になってから関わったから、彼の本質をそれほど知ってる訳じゃないけど、浮気や二股を器用にこなせるタイプだとは思えない。
だけどそれを今の美咲に言ったところで、他に行き場がない彼女が納得して頷くとも思えない。
「それで、石井くんは他には何か言ってなかったの」
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「ああ、大ゲンカしちゃったんだね」
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「どうって」
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「いやいや。まず本当に浮気なのかどうかも分からないんだし、もう少しちゃんと話は出来ないのかな」
「だって、徳明すぐキレるんだもん」
「石井くんって、そんな人なの」
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興奮した美咲がダイニングテーブルを叩きつけて、大きな音が部屋に響く。
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