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しばらく沈黙が続いてしまい、自分の家なのにすごく居心地が悪くて、断りを入れてからスマホとスピーカーを繋いで音楽を流す。
そして彼の目を盗んで、私は小さな溜め息を吐き出した。
「そんなに俺と居るのが嫌なの」
「え?」
「溜め息吐くくらいだもんね」
「いや、そうじゃなくて。どうしたらいいのか分からないんです。だって、あの晩のこと忘れるって言ったのに」
「つまり君は、俺がまたキスなんかしたから、意味が分からないって言いたいの」
「……そうです」
「ごめん。ちょっとイジワルが過ぎたかも」
「どういうことですか」
自虐するような声のトーンに驚いて彼の顔を見ると、降りた前髪を掻き上げて、彼はバツが悪そうに頬を掻いている。
「どうせ一晩限りの遊びだと思われたのが、なんかムカついたんだよね」
「でも、名前も聞かれませんでしたし、そういうつもりだったんじゃないんですか」
「あのさ、俺そんなに遊んでるように見えたの」
「えっと……ごめんなさい」
「そりゃ確かに褒められたもんじゃないけど、自分から声掛けることなんてないし、もっと俺を意識してくれてると思ってたんだけど」
「いや、その流してきた浮き名の濁流に呑み込まれたものだとばかり」
「一晩の遊びって意味だよね」
「大人の割り切ったものだろうと」
「はあ、マジか」
頭を抱えて大きな溜め息を吐き出した彼に、なんて言葉を掛けたら良いのか分からない。
多分、私が想像していた通り、追い縋られることには慣れていても、その逆を味わうことがあまりなかった様子だし、朝起きて独りぼっちだったのが相当堪えたのだろう。
だからあの朝、私が彼の居ない部屋で目覚めていれば、こんなにも執着されることはなかったんじゃないかと、割と真剣に思ってしまう。
つまりはないものねだりで、変に意地になってるだけとしか思えない。
「お兄さんなら、私なんかじゃなくても、もっと素敵な人と出会うでしょうし。あの日のことは謝りますから」
「なに、こんなオッサンに、そうそう素敵な出会いなんかあると思うワケ」
「いや、あるでしょ」
「俺にも好みがあるって知ってる?」
「うわ、上からですね。選べる立場なのは否定しないんですか」
「なんでそんな冷たいこと言うの。君が良いって言ってるだけでしょ」
「え? そんなこと言いましたか」
「それは恥ずかしいから、ハッキリとは断言してないかも、知れない」
尻すぼみに小声になっていく彼を見つめると、そんなに見ないでよと顔を覆い隠す手が届いてない耳が赤くなってる。
いやいやいや、嘘でしょ。まさか私に対して、彼が照れてるとでも言うんだろうか。
こんな仕事も出来て大人の余裕のある、セクシーでイケオジな人が、なんの取り柄もない私なんかを好きだなんて、やっぱり何かの間違いだと思う。
「勘違いじゃないですかね」
「なにが」
「だからその、目が覚めた時にベッドがもぬけの殻だったのが悔しかっただけじゃないのかなって。お兄さん、今までに逆はしてても、そんな思いしたことなさそうですし」
「その話を掘り返す? 今」
「いや、ですから私はあの晩限りだと思ってましたし」
「じゃあ、あの晩限りだと思ってなくて、起きたら二人でゆっくりブランチしてのんびりデートしようと思ってたのに、置き去りにされた俺の気持ち、考えたら分かるよね」
「そうなんですか」
「そうだって言ってるじゃないか」
「ごめんなさい。だって凄くモテるだろうし、指輪はしてないけどもしかしたら結婚とかしてるんじゃないかとか、色々考えたりして、怖かったですし」
「俺、そんな酷い男だと思われてたの」
「違うんですか」
「少なくとも、君に対してはそんなことしようとは思わないよ。参ったな」
そして彼の目を盗んで、私は小さな溜め息を吐き出した。
「そんなに俺と居るのが嫌なの」
「え?」
「溜め息吐くくらいだもんね」
「いや、そうじゃなくて。どうしたらいいのか分からないんです。だって、あの晩のこと忘れるって言ったのに」
「つまり君は、俺がまたキスなんかしたから、意味が分からないって言いたいの」
「……そうです」
「ごめん。ちょっとイジワルが過ぎたかも」
「どういうことですか」
自虐するような声のトーンに驚いて彼の顔を見ると、降りた前髪を掻き上げて、彼はバツが悪そうに頬を掻いている。
「どうせ一晩限りの遊びだと思われたのが、なんかムカついたんだよね」
「でも、名前も聞かれませんでしたし、そういうつもりだったんじゃないんですか」
「あのさ、俺そんなに遊んでるように見えたの」
「えっと……ごめんなさい」
「そりゃ確かに褒められたもんじゃないけど、自分から声掛けることなんてないし、もっと俺を意識してくれてると思ってたんだけど」
「いや、その流してきた浮き名の濁流に呑み込まれたものだとばかり」
「一晩の遊びって意味だよね」
「大人の割り切ったものだろうと」
「はあ、マジか」
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多分、私が想像していた通り、追い縋られることには慣れていても、その逆を味わうことがあまりなかった様子だし、朝起きて独りぼっちだったのが相当堪えたのだろう。
だからあの朝、私が彼の居ない部屋で目覚めていれば、こんなにも執着されることはなかったんじゃないかと、割と真剣に思ってしまう。
つまりはないものねだりで、変に意地になってるだけとしか思えない。
「お兄さんなら、私なんかじゃなくても、もっと素敵な人と出会うでしょうし。あの日のことは謝りますから」
「なに、こんなオッサンに、そうそう素敵な出会いなんかあると思うワケ」
「いや、あるでしょ」
「俺にも好みがあるって知ってる?」
「うわ、上からですね。選べる立場なのは否定しないんですか」
「なんでそんな冷たいこと言うの。君が良いって言ってるだけでしょ」
「え? そんなこと言いましたか」
「それは恥ずかしいから、ハッキリとは断言してないかも、知れない」
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いやいやいや、嘘でしょ。まさか私に対して、彼が照れてるとでも言うんだろうか。
こんな仕事も出来て大人の余裕のある、セクシーでイケオジな人が、なんの取り柄もない私なんかを好きだなんて、やっぱり何かの間違いだと思う。
「勘違いじゃないですかね」
「なにが」
「だからその、目が覚めた時にベッドがもぬけの殻だったのが悔しかっただけじゃないのかなって。お兄さん、今までに逆はしてても、そんな思いしたことなさそうですし」
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「そうなんですか」
「そうだって言ってるじゃないか」
「ごめんなさい。だって凄くモテるだろうし、指輪はしてないけどもしかしたら結婚とかしてるんじゃないかとか、色々考えたりして、怖かったですし」
「俺、そんな酷い男だと思われてたの」
「違うんですか」
「少なくとも、君に対してはそんなことしようとは思わないよ。参ったな」
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