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 しばらくの間、友梨さんとお兄さん、そして私の三人でたわいない世間話をして過ごしていると、友梨さんのスマホにお母様から連絡が入って、そろそろお暇することになった。
「ごめんなさいね、バタバタしちゃって」
「いえ、私こそ。今日は本当にありがとうございました。これから宜しくお願いします」
「いいのよ」
 答えながら、友梨さんはそろそろ出ましょうかとソファーから立ち上がる。
 だけどそんな友梨さんを制すように、お兄さんが突然口を開いた。
「友梨、香澄ちゃんは俺が送っていくから」
「あれ、お兄ちゃん車で来てたの。なら私も送ってよ」
「お前ね」
 また兄妹ゲンカか勃発しそうな空気に、私は咄嗟に電車で帰りますと答えるものの、お兄さんがそれは許さないと強い視線を向けてくる。
「駅までの道をおさらいしたいですし、私は地下鉄で帰りますから」
「ダメだよ。今日も暑いし、車で送っていくから。仕方ないから友梨も乗せてってやるよ」
「やった。ありがとう。香澄ちゃんも遠慮することないわよ。送ってもらって」
「すみません、お気遣いいただいて」
 友梨さんとお兄さんに頭を下げると、先に車の冷房をつけてくるからと、お兄さんが部屋から出て行った。
「業者の都合もあるだろうから、引っ越しの時期が決まればまた連絡して。とはいえ部屋のベッドは好きに使ってもらって良いし、クローゼットもあるから家具は心配要らないわよ」
「キッチンも、本当に好きに使って大丈夫なんですか」
「もちろん」
 美咲が置いていってくれたテレビや冷蔵庫を思い浮かべて、ここでお世話になる間は要らないけど、この先一人暮らしの部屋を探すならトランクルームにでも借りるべきかと思案する。
 生活家電は買い直すとなると結構お金も掛かるし、本音を言えばどこかに保管しておくべきなんだろう。
 家に帰ってから色々調べてみようと思いながら、友梨さんについて家を出ると、お兄さんが玄関に回した車の後部座席に乗り込む。
「お兄ちゃん、悪いけどお母さん腰痛めたみたいだから、私の方先でも良いかな」
「了解」
「ごめんね香澄ちゃん。私は先にお暇するけど、ちゃんと家まで送ってもらってね。遠慮なく」
「何から何まですみません。ありがとうございます」
「いいのよ」
 それから話題は友梨さんの子どもたちのことになり、伯父であるお兄さんに懐いていて、一番上のお兄ちゃんが美容師になりたがってるらしい。
 友梨さんのお兄さんも甥っ子や姪っ子が可愛いのか、家族の話は途切れることなく、帰路のドライブは賑やかな雰囲気でひとしきり盛り上がった。
 そして友梨さんが住むマンションに到着すると、お母さんの帰宅を待っていた子どもたちと挨拶をして、お兄さんに言われるがまま助手席に移動して、今度は私の家に向かう。
 さっきまでの空気とは打って変わって、緊張感すら走る気まずい空気に、どうして良いのか分からなくて、顔を背けるように窓の外を流れていく景色を眺めて無言を貫く。
 そしてここでも、やはり沈黙を破ったのは友梨さんのお兄さんだった。
「ねえ」
「は、はい」
「俺がなんで君に怒ってるか分かってる?」
「あの、結果的にですけど、ストーカーみたいに付き纏ってるからですかね」
「違うよ」
「ごめんなさい」
 呆れた声に胸が苦しくなって俯くと、あのさと彼が切り出す。
「俺、君の名前も知らなかったんだけど」
「それは、その、すみません」
 私も知らなかったんだけど。
「起きたら君は隣に居なくなってて、俺、ホテルに置き去りにされたんだけど」
「あの、それは」
「君からしたら、こんなオッサンはポイ捨てしたい相手だったのかも知れないけどさ。オッサンでも傷付く訳ですよ」
「いや、そんなつもりは」
「でも君、俺が寝てる間にさっさと帰っちゃったよね」
 そう言われてしまうとぐうの音も出ない。
「ごめんなさい」
「俺、あの後ずっとあの中華屋さんに通ったんだよね」
「え」
「だって他に君に会う手段なかったし。そもそも俺が行ってるジムには君、居ないよね」
「ごめんなさい。所属は別の店舗なので、ヘルプでしか顔を出さないので」
「だろうね。君の特徴で探してみたけど、同じようなこと言われた」
 私を探したということは、つまりあの晩のことは、もしかしてあの晩限りじゃなくて、続きをお望みだったということだろうか。
 彼みたいに大人でカッコいい素敵な人が、私とまた会うつもりで居たということは、そういう意味かも知れない。
 そう考えてから、いやいや、それはないだろうと頭の中で大きく首を振る。
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