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出していただいたお茶を飲む音すら部屋に響くようで、いたたまれない微妙な沈黙を破ったのは、友梨さんのお兄さんだった。
「ちょっとそこのお姉さん」
「は、はい」
「俺は怒ってるんだからね」
「え、あの、ごめんなさい」
「謝るのは話が終わってからね。とにかく友梨が帰ったら、ちょっと話があるから」
「えっと、それは……」
続きを聞き出そうとしても、彼はそれ以上口を聞く気がないのか、言葉通り不機嫌な顔をしながら腕を組んでソファーにもたれかかってしまった。
怒ってるとはどういう意味だろうか。
一晩限りの相手が、まさか妹の知り合いとして実家に転がり込むことをよく思ってないということだろうか。
確かに偶然とはいえ、ストーカーじみた再会方法になってしまったけれど、こんなのは不可抗力だし私に防ぎようはなかった話だ。
相変わらず気まずい空気が流れる中、しばらくするとようやく友梨さんがリビングに戻ってきて、二階の空き部屋をいくつか案内するために、お兄さんから離れる切っ掛けが出来た。
「じゃあ、二階に行こうか」
「はい。よろしく、お願いします」
背後からただならぬ気配の視線を感じたけど、何食わぬ顔で友梨さんの後を追ってリビングを脱出することに成功して、ホッと胸を撫で下ろす。
「ごめんね。突然あんなのが現れてびっくりしたでしょ」
あんなのとは、友梨さんのお兄さんのことだろう。
あの晩、彼は美容師だと言っていたが、友梨さんの話ではヘアサロンからネイル、まつエクやエステなどのグループ企業〈ホヤ・デル・シエロ〉を経営してると聞いて驚いた。
ヘアサロンの〈アンヘル〉といえば、都内にいくつも店舗がある有名な美容院だ。
「経営者って言っても、今でも美容師として店に立ってるから、バタバタ忙しくしてて気楽な独身なのよ」
「そうなんですか」
「そう。もう四十一になるのに、全然その気がないみたいでね」
ですよねと心の中で呟いてから、あの晩のことを赤裸々に思い出してしまい、まさかこんな形で再会してしまうとは夢にも思わなかったので、頭を抱えたくなる。
そんな心境とは裏腹に、二階にあるいくつかの部屋を見させてもらって、トントン拍子にこの家に住む話が進んでいく。
「兄には一階を使うように言っとくから。二階にもバスルームとトイレはあるし、気兼ねなくそっちを使ってね」
「あの、本当に良いんでしょうか」
部屋を案内されながら、さっきお兄さんに掛けられた言葉が気になって、つい暗い顔をして足を止める。
彼は怒っていると言っていた。
大人だから、この場は丸く収まるように嫌々ながらも、この家に私がお世話になることを了承してくれたのではないだろうか。
「あ、やっぱり兄が寝泊まりするのは気になるわよね」
「いえ、それはご実家ですし大丈夫なんですけど」
「心配しないで、あの人ああ見えて本当に忙しいから。それに元々ね、この家に一人きりで置いとくのも心配だし、私も様子を見に来るつもりでいたのよ」
「そうだったんですか」
「兄が香澄ちゃんの様子を見に来てくれるっていうなら私も安心だし」
にっこり笑う友梨さんは、本当に心配してないのだろう。
お兄さんと私では、歳が一回り以上離れているから、友梨さんはまさか想像だにしていないのだろうけど、あのお兄さんと既に男女の関係になったことがあるとは言い出せるはずもない。
一通り二階の説明を受けてから一階に移動すると、キッチンやバスルームの場所を教えてもらってリビングに引き返した。
「ちょっとそこのお姉さん」
「は、はい」
「俺は怒ってるんだからね」
「え、あの、ごめんなさい」
「謝るのは話が終わってからね。とにかく友梨が帰ったら、ちょっと話があるから」
「えっと、それは……」
続きを聞き出そうとしても、彼はそれ以上口を聞く気がないのか、言葉通り不機嫌な顔をしながら腕を組んでソファーにもたれかかってしまった。
怒ってるとはどういう意味だろうか。
一晩限りの相手が、まさか妹の知り合いとして実家に転がり込むことをよく思ってないということだろうか。
確かに偶然とはいえ、ストーカーじみた再会方法になってしまったけれど、こんなのは不可抗力だし私に防ぎようはなかった話だ。
相変わらず気まずい空気が流れる中、しばらくするとようやく友梨さんがリビングに戻ってきて、二階の空き部屋をいくつか案内するために、お兄さんから離れる切っ掛けが出来た。
「じゃあ、二階に行こうか」
「はい。よろしく、お願いします」
背後からただならぬ気配の視線を感じたけど、何食わぬ顔で友梨さんの後を追ってリビングを脱出することに成功して、ホッと胸を撫で下ろす。
「ごめんね。突然あんなのが現れてびっくりしたでしょ」
あんなのとは、友梨さんのお兄さんのことだろう。
あの晩、彼は美容師だと言っていたが、友梨さんの話ではヘアサロンからネイル、まつエクやエステなどのグループ企業〈ホヤ・デル・シエロ〉を経営してると聞いて驚いた。
ヘアサロンの〈アンヘル〉といえば、都内にいくつも店舗がある有名な美容院だ。
「経営者って言っても、今でも美容師として店に立ってるから、バタバタ忙しくしてて気楽な独身なのよ」
「そうなんですか」
「そう。もう四十一になるのに、全然その気がないみたいでね」
ですよねと心の中で呟いてから、あの晩のことを赤裸々に思い出してしまい、まさかこんな形で再会してしまうとは夢にも思わなかったので、頭を抱えたくなる。
そんな心境とは裏腹に、二階にあるいくつかの部屋を見させてもらって、トントン拍子にこの家に住む話が進んでいく。
「兄には一階を使うように言っとくから。二階にもバスルームとトイレはあるし、気兼ねなくそっちを使ってね」
「あの、本当に良いんでしょうか」
部屋を案内されながら、さっきお兄さんに掛けられた言葉が気になって、つい暗い顔をして足を止める。
彼は怒っていると言っていた。
大人だから、この場は丸く収まるように嫌々ながらも、この家に私がお世話になることを了承してくれたのではないだろうか。
「あ、やっぱり兄が寝泊まりするのは気になるわよね」
「いえ、それはご実家ですし大丈夫なんですけど」
「心配しないで、あの人ああ見えて本当に忙しいから。それに元々ね、この家に一人きりで置いとくのも心配だし、私も様子を見に来るつもりでいたのよ」
「そうだったんですか」
「兄が香澄ちゃんの様子を見に来てくれるっていうなら私も安心だし」
にっこり笑う友梨さんは、本当に心配してないのだろう。
お兄さんと私では、歳が一回り以上離れているから、友梨さんはまさか想像だにしていないのだろうけど、あのお兄さんと既に男女の関係になったことがあるとは言い出せるはずもない。
一通り二階の説明を受けてから一階に移動すると、キッチンやバスルームの場所を教えてもらってリビングに引き返した。
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