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誰に言うでもなくごちそうさまと呟いて手を合わせると、キッチンに移動して洗い物をしながら考えてみる。
期間も分からずに美咲と旦那さんに家賃負担させることを考えると、菜穂ちゃんの知り合いなら変な人ではないだろうし、しばらくの間と割り切って居候させてもらうのはありかもしれない。
ただ自分の中の常識が、それはあまりに非常識だと騒ぐ声がうるさくて敵わない。
「選択できる立場じゃないけど、居候か」
洗った食器を拭き上げて棚に戻すと、リビングのテーブルの上でスマホが震えていることに気が付いた。
「菜穂ちゃんかな」
震え続けるスマホを手に取ると、画面には知らない番号が表示されている。
「はい、もしもし?」
『もしもし、香澄ちゃん? 私よ、 友梨。分かるかな。菜穂子の結婚式の時にスピーチした、ほら、一緒に帝都ホテルでアフタヌーンティー行ったの、覚えてないかしら』
「え、菜穂ちゃんの知り合いって、友梨さんだったんですか」
私も何度か会ったことがある友梨さんは、人当たりが良くて、確かにこの手の話を二つ返事でOKしてくれそうな印象がある人だ。
桃乃ちゃんがグズったと言ってはいたけど、私も知ってる相手なら、菜穂ちゃんも事前に相手が友梨さんだって言っておいて欲しかった。
『あれ、菜穂子からまだ連絡来てない? イヤねあの子ったら。ほら、ウチの空き部屋使うって話』
「ちょっとお待ちいただけますか」
スピーカーに切り替えてスマホを操作すると、菜穂ちゃんからメッセージが届いていて、友梨さんの連絡先と、私の連絡先を伝えたことが書かれている。
「ごめんなさい。菜穂ちゃんからのメッセージ、今見ました」
『そう。あの子ちゃんと連絡してたのね、良かったわ』
「ご連絡いただいて申し訳ありません」
『良いのよ。それより急な引っ越しで、部屋が見付からなくて困ってるって聞いて。うちなんかで良かったら、部屋も余ってるし、とりあえず越して来なさいよ』
「いや、でもご迷惑ですし」
『良いの良いの。うちの親も気ままでね、マンションの方が気が楽だって、祖父母が残した家は誰も住んでなくて、香澄ちゃんが住んでくれたら助かるのよ』
「そういうご事情なんですね」
『ヤダ。菜穂子は本当に何も伝えてないのね』
「はは、菜穂ちゃんなんで」
『ふふ、そうよね。とにかく、次の休みはいつかしら。私も都合を合わせるから、一度家に来て考えてみたらどうかしら』
「本当にお言葉に甘えて良いんでしょうか」
『良いのよ。誰も住まない家は傷むって言うし、一応管理して人は雇ってるけど、香澄ちゃんが住んでくれたら本当に助かるのよ』
「でしたら、お言葉に甘えて一度見に行かせてもらいます」
『うんうん、そうして。人助けだと思って気楽に考えてくれて構わないから。ああ、ごめん。ちび二人がケンカ始めちゃった。賑やかでごめんなさいね』
スピーカーの向こうから、賑やかなやり取りが聞こえると、静かにしなさいとお母さんの声で叱る友梨さんの声が続く。
「お子さんたちを待たせちゃいけないので、あとはメッセージでご連絡させていただきますね」
『そうしてくれる? 助かる。ありがとう』
「いえ、こちらこそ」
『じゃあ、家を見に来れそうな日を教えてね』
「はい。じゃあ失礼します」
スピーカーの向こうが一層賑やかになった様子に、つい頬を緩めながら電話を切ると、菜穂ちゃんからのメッセージに返信を送る。
まさか私も知ってる人だったなんて、そりゃ確かにいくら菜穂ちゃんでも、全く面識のない人の家を借りろなんて言わないだろうけど、それにしてもサプライズが過ぎると思う。
だから苦情みたいなメッセージになってしまったけど、友梨さんが相手なら安心だし、甘えて一度家を見学させてもらうことになったとメッセージを送った。
期間も分からずに美咲と旦那さんに家賃負担させることを考えると、菜穂ちゃんの知り合いなら変な人ではないだろうし、しばらくの間と割り切って居候させてもらうのはありかもしれない。
ただ自分の中の常識が、それはあまりに非常識だと騒ぐ声がうるさくて敵わない。
「選択できる立場じゃないけど、居候か」
洗った食器を拭き上げて棚に戻すと、リビングのテーブルの上でスマホが震えていることに気が付いた。
「菜穂ちゃんかな」
震え続けるスマホを手に取ると、画面には知らない番号が表示されている。
「はい、もしもし?」
『もしもし、香澄ちゃん? 私よ、 友梨。分かるかな。菜穂子の結婚式の時にスピーチした、ほら、一緒に帝都ホテルでアフタヌーンティー行ったの、覚えてないかしら』
「え、菜穂ちゃんの知り合いって、友梨さんだったんですか」
私も何度か会ったことがある友梨さんは、人当たりが良くて、確かにこの手の話を二つ返事でOKしてくれそうな印象がある人だ。
桃乃ちゃんがグズったと言ってはいたけど、私も知ってる相手なら、菜穂ちゃんも事前に相手が友梨さんだって言っておいて欲しかった。
『あれ、菜穂子からまだ連絡来てない? イヤねあの子ったら。ほら、ウチの空き部屋使うって話』
「ちょっとお待ちいただけますか」
スピーカーに切り替えてスマホを操作すると、菜穂ちゃんからメッセージが届いていて、友梨さんの連絡先と、私の連絡先を伝えたことが書かれている。
「ごめんなさい。菜穂ちゃんからのメッセージ、今見ました」
『そう。あの子ちゃんと連絡してたのね、良かったわ』
「ご連絡いただいて申し訳ありません」
『良いのよ。それより急な引っ越しで、部屋が見付からなくて困ってるって聞いて。うちなんかで良かったら、部屋も余ってるし、とりあえず越して来なさいよ』
「いや、でもご迷惑ですし」
『良いの良いの。うちの親も気ままでね、マンションの方が気が楽だって、祖父母が残した家は誰も住んでなくて、香澄ちゃんが住んでくれたら助かるのよ』
「そういうご事情なんですね」
『ヤダ。菜穂子は本当に何も伝えてないのね』
「はは、菜穂ちゃんなんで」
『ふふ、そうよね。とにかく、次の休みはいつかしら。私も都合を合わせるから、一度家に来て考えてみたらどうかしら』
「本当にお言葉に甘えて良いんでしょうか」
『良いのよ。誰も住まない家は傷むって言うし、一応管理して人は雇ってるけど、香澄ちゃんが住んでくれたら本当に助かるのよ』
「でしたら、お言葉に甘えて一度見に行かせてもらいます」
『うんうん、そうして。人助けだと思って気楽に考えてくれて構わないから。ああ、ごめん。ちび二人がケンカ始めちゃった。賑やかでごめんなさいね』
スピーカーの向こうから、賑やかなやり取りが聞こえると、静かにしなさいとお母さんの声で叱る友梨さんの声が続く。
「お子さんたちを待たせちゃいけないので、あとはメッセージでご連絡させていただきますね」
『そうしてくれる? 助かる。ありがとう』
「いえ、こちらこそ」
『じゃあ、家を見に来れそうな日を教えてね』
「はい。じゃあ失礼します」
スピーカーの向こうが一層賑やかになった様子に、つい頬を緩めながら電話を切ると、菜穂ちゃんからのメッセージに返信を送る。
まさか私も知ってる人だったなんて、そりゃ確かにいくら菜穂ちゃんでも、全く面識のない人の家を借りろなんて言わないだろうけど、それにしてもサプライズが過ぎると思う。
だから苦情みたいなメッセージになってしまったけど、友梨さんが相手なら安心だし、甘えて一度家を見学させてもらうことになったとメッセージを送った。
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