初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉

濘-NEI-

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 より一層密着した腕から心臓のドキドキが伝わりそうで、咄嗟に体を離そうとするのに、それに気付いてるのかいないのか、彼は私に体を寄せて次はなにを頼もうかとメニューを開く。
「ウイスキーティーか、これにしようかな。君はどうする」
「私はまたサングリアで」
「サングリア好きなんだね」
「いえ、実はそんなにお酒に詳しくないんで。だいたいいつも缶ビールと缶チューハイですし」
「そういう飾らないところ、素敵だと思うよ」
 俺もいつもは缶ビールだしとニコッと笑う顔に、またドキドキさせられて、握られた手がどんどん汗ばんで恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
「すみません、注文良いですか」
 彼は追加のオーダーを済ませると、生ハムにチーズを包んでからピックで刺し直したものを、あーんと言いながら私の口に放り込む。
「お酒だけだと、またしゃっくり出ちゃうかも知れないからね」
「もう、揶揄うのやめてください」
「おかしいな。純粋に心配してるんだけど」
 またイタズラっぽく揶揄うように笑う顔からは、やっぱり子供っぽいのに大人の余裕が覗く、アンバランスなのに妙な色っぽさを感じてドキドキしてしまう。
 こんな風にされたら、嫌でも男性として意識してしまう。
 だって手は繋がれたままだし、時折その指先は意味深に動いて私の手の甲や指の間をなぞるように撫でる。
 もしかしたら、いや、もしかしなくても、簡単に誘いに乗る女だと思われているんだろうか。
 そう考えると寂しく感じる反面、こんな素敵な人と出会うことなんてないし、たとえ一晩の過ちでも、一線を超えても良い気がすると思ったところで、そんな自分の考えにハッとする。
 いやいや、冷静になれ私。こんなイケオジが、私なんかをお持ち帰りするはずないだろう。
「どうかしたの」
「え、いや。なんでもないです」
 まさか、貴方に持ち帰られるのか考えてました、なんて言えるはずもない。
「君は笑顔が似合うから、笑って欲しいんだけど」
「笑顔ですか」
「ビール飲んで笑った顔、めちゃくちゃ可愛かったし」
 耳元に囁かれて、いよいよ心臓が爆発するんじゃないかと思って、握られた手に力が入ってしまう。
「あれ、もしかして誘ってる?」
「いや、そんなつもりは」
「そうなのか、残念」
 その言葉にどんな意味があるのか、本心を聞いてみたいけど、こんなにカッコいいんだから女性に困っているようには見えないし、どうして私なんかに声を掛けたんだろう。
 そう思ってちらりと横顔を盗み見ると、すぐに目が合って彼の顔が無遠慮に近付いてきた。
「やっぱり、その顔は俺を誘惑してるみたい」
「そんな」
「そう? だってめちゃくちゃ色っぽいよ、今の君」
 さっきまでグラスを握ってた冷えた指先で頬を撫でられて、体の芯からゾクッと震えが全身を巡る。
 この人は遊び慣れてる。
 そう分かっていても、錆切った女心を溶かされて、困惑したまま彼の肩にもたれるように頭を置く。
「あんまり揶揄わないでください。本気にしますよ」
「本気にしてよ」
 彼の冷えた指先が私の髪を掬って、赤く染まった耳をそっと撫でるように髪をかける。
 ああ、情けないけど、こんな素敵な人が私を口説いてるんだと思うと、勘違いでも良いから女性として扱われたい気持ちが育ってしまう。
「私が本気になったら、困るんじゃないんですか」
「そんなことないよ」
「今晩だけの、話ですよね」
「随分とはっきり言うね」
「だってモテるでしょ」
「そうでもないよ」
「嘘ばっかり」
 睨むように見つめると、すぐそばにあった唇が私のおでこに触れる。
「場所を変えないか」
「……分かりました」
 きっと一晩過ごせる手頃な相手。
 それが分かってても、この先きっと私にはこんな出会いも巡ってくることはないだろう。
 だから私は彼の手をギュッと握り締めた。
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