7 / 65
2-4
しおりを挟む
より一層密着した腕から心臓のドキドキが伝わりそうで、咄嗟に体を離そうとするのに、それに気付いてるのかいないのか、彼は私に体を寄せて次はなにを頼もうかとメニューを開く。
「ウイスキーティーか、これにしようかな。君はどうする」
「私はまたサングリアで」
「サングリア好きなんだね」
「いえ、実はそんなにお酒に詳しくないんで。だいたいいつも缶ビールと缶チューハイですし」
「そういう飾らないところ、素敵だと思うよ」
俺もいつもは缶ビールだしとニコッと笑う顔に、またドキドキさせられて、握られた手がどんどん汗ばんで恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
「すみません、注文良いですか」
彼は追加のオーダーを済ませると、生ハムにチーズを包んでからピックで刺し直したものを、あーんと言いながら私の口に放り込む。
「お酒だけだと、またしゃっくり出ちゃうかも知れないからね」
「もう、揶揄うのやめてください」
「おかしいな。純粋に心配してるんだけど」
またイタズラっぽく揶揄うように笑う顔からは、やっぱり子供っぽいのに大人の余裕が覗く、アンバランスなのに妙な色っぽさを感じてドキドキしてしまう。
こんな風にされたら、嫌でも男性として意識してしまう。
だって手は繋がれたままだし、時折その指先は意味深に動いて私の手の甲や指の間をなぞるように撫でる。
もしかしたら、いや、もしかしなくても、簡単に誘いに乗る女だと思われているんだろうか。
そう考えると寂しく感じる反面、こんな素敵な人と出会うことなんてないし、たとえ一晩の過ちでも、一線を超えても良い気がすると思ったところで、そんな自分の考えにハッとする。
いやいや、冷静になれ私。こんなイケオジが、私なんかをお持ち帰りするはずないだろう。
「どうかしたの」
「え、いや。なんでもないです」
まさか、貴方に持ち帰られるのか考えてました、なんて言えるはずもない。
「君は笑顔が似合うから、笑って欲しいんだけど」
「笑顔ですか」
「ビール飲んで笑った顔、めちゃくちゃ可愛かったし」
耳元に囁かれて、いよいよ心臓が爆発するんじゃないかと思って、握られた手に力が入ってしまう。
「あれ、もしかして誘ってる?」
「いや、そんなつもりは」
「そうなのか、残念」
その言葉にどんな意味があるのか、本心を聞いてみたいけど、こんなにカッコいいんだから女性に困っているようには見えないし、どうして私なんかに声を掛けたんだろう。
そう思ってちらりと横顔を盗み見ると、すぐに目が合って彼の顔が無遠慮に近付いてきた。
「やっぱり、その顔は俺を誘惑してるみたい」
「そんな」
「そう? だってめちゃくちゃ色っぽいよ、今の君」
さっきまでグラスを握ってた冷えた指先で頬を撫でられて、体の芯からゾクッと震えが全身を巡る。
この人は遊び慣れてる。
そう分かっていても、錆切った女心を溶かされて、困惑したまま彼の肩にもたれるように頭を置く。
「あんまり揶揄わないでください。本気にしますよ」
「本気にしてよ」
彼の冷えた指先が私の髪を掬って、赤く染まった耳をそっと撫でるように髪をかける。
ああ、情けないけど、こんな素敵な人が私を口説いてるんだと思うと、勘違いでも良いから女性として扱われたい気持ちが育ってしまう。
「私が本気になったら、困るんじゃないんですか」
「そんなことないよ」
「今晩だけの、話ですよね」
「随分とはっきり言うね」
「だってモテるでしょ」
「そうでもないよ」
「嘘ばっかり」
睨むように見つめると、すぐそばにあった唇が私のおでこに触れる。
「場所を変えないか」
「……分かりました」
きっと一晩過ごせる手頃な相手。
それが分かってても、この先きっと私にはこんな出会いも巡ってくることはないだろう。
だから私は彼の手をギュッと握り締めた。
「ウイスキーティーか、これにしようかな。君はどうする」
「私はまたサングリアで」
「サングリア好きなんだね」
「いえ、実はそんなにお酒に詳しくないんで。だいたいいつも缶ビールと缶チューハイですし」
「そういう飾らないところ、素敵だと思うよ」
俺もいつもは缶ビールだしとニコッと笑う顔に、またドキドキさせられて、握られた手がどんどん汗ばんで恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
「すみません、注文良いですか」
彼は追加のオーダーを済ませると、生ハムにチーズを包んでからピックで刺し直したものを、あーんと言いながら私の口に放り込む。
「お酒だけだと、またしゃっくり出ちゃうかも知れないからね」
「もう、揶揄うのやめてください」
「おかしいな。純粋に心配してるんだけど」
またイタズラっぽく揶揄うように笑う顔からは、やっぱり子供っぽいのに大人の余裕が覗く、アンバランスなのに妙な色っぽさを感じてドキドキしてしまう。
こんな風にされたら、嫌でも男性として意識してしまう。
だって手は繋がれたままだし、時折その指先は意味深に動いて私の手の甲や指の間をなぞるように撫でる。
もしかしたら、いや、もしかしなくても、簡単に誘いに乗る女だと思われているんだろうか。
そう考えると寂しく感じる反面、こんな素敵な人と出会うことなんてないし、たとえ一晩の過ちでも、一線を超えても良い気がすると思ったところで、そんな自分の考えにハッとする。
いやいや、冷静になれ私。こんなイケオジが、私なんかをお持ち帰りするはずないだろう。
「どうかしたの」
「え、いや。なんでもないです」
まさか、貴方に持ち帰られるのか考えてました、なんて言えるはずもない。
「君は笑顔が似合うから、笑って欲しいんだけど」
「笑顔ですか」
「ビール飲んで笑った顔、めちゃくちゃ可愛かったし」
耳元に囁かれて、いよいよ心臓が爆発するんじゃないかと思って、握られた手に力が入ってしまう。
「あれ、もしかして誘ってる?」
「いや、そんなつもりは」
「そうなのか、残念」
その言葉にどんな意味があるのか、本心を聞いてみたいけど、こんなにカッコいいんだから女性に困っているようには見えないし、どうして私なんかに声を掛けたんだろう。
そう思ってちらりと横顔を盗み見ると、すぐに目が合って彼の顔が無遠慮に近付いてきた。
「やっぱり、その顔は俺を誘惑してるみたい」
「そんな」
「そう? だってめちゃくちゃ色っぽいよ、今の君」
さっきまでグラスを握ってた冷えた指先で頬を撫でられて、体の芯からゾクッと震えが全身を巡る。
この人は遊び慣れてる。
そう分かっていても、錆切った女心を溶かされて、困惑したまま彼の肩にもたれるように頭を置く。
「あんまり揶揄わないでください。本気にしますよ」
「本気にしてよ」
彼の冷えた指先が私の髪を掬って、赤く染まった耳をそっと撫でるように髪をかける。
ああ、情けないけど、こんな素敵な人が私を口説いてるんだと思うと、勘違いでも良いから女性として扱われたい気持ちが育ってしまう。
「私が本気になったら、困るんじゃないんですか」
「そんなことないよ」
「今晩だけの、話ですよね」
「随分とはっきり言うね」
「だってモテるでしょ」
「そうでもないよ」
「嘘ばっかり」
睨むように見つめると、すぐそばにあった唇が私のおでこに触れる。
「場所を変えないか」
「……分かりました」
きっと一晩過ごせる手頃な相手。
それが分かってても、この先きっと私にはこんな出会いも巡ってくることはないだろう。
だから私は彼の手をギュッと握り締めた。
0
お気に入りに追加
208
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛
冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】大学で人気の爽やかイケメンはヤンデレ気味のストーカーでした
あさリ23
恋愛
大学で人気の爽やかイケメンはなぜか私によく話しかけてくる。
しまいにはバイト先の常連になってるし、専属になって欲しいとお金をチラつかせて誘ってきた。
お金が欲しくて考えなしに了承したのが、最後。
私は用意されていた蜘蛛の糸にまんまと引っかかった。
【この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません】
ーーーーー
小説家になろうで投稿している短編です。あちらでブックマークが多かった作品をこちらで投稿しました。
内容は題名通りなのですが、作者的にもヒーローがやっちゃいけない一線を超えてんなぁと思っています。
ヤンデレ?サイコ?イケメンでも怖いよ。が
作者の感想です|ω・`)
また場面で名前が変わるので気を付けてください
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる