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 彼が言った通り、頼んだメニューをシェアしながら、食事を共にするのは新鮮だった。
 知っているとはいっても顔しか知らなかった彼は、美容師をしているらしく、今日はたまたま新しいお店の視察のためにこの町に来たらしい。
 そして案の定私よりもかなり歳上で、正確には教えてくれないけれど、四十を超えてるかも知れないと思うのは、目尻に出来るシワの感じから勝手に予測。
 だけどそれがまた色気があってセクシーだななんて、くだらないことを考えながら、目線が絡んでしまったのを誤魔化すようにビールを飲む。
「結構お酒強いんだね」
「そうですか? まだ生ビール四杯しか飲んでないですよ」
「四杯飲んで、まだって言う辺りが、もう強いでしょ」
「それを言うなら、お兄さんも結構飲んでますよね」
 名前を知らないので、オジサンとも言えずお兄さんと言って濁すと、彼は可笑しそうに笑ってから箸が止まらないと答える。
「ここの料理が美味しいからね。ビールが進む」
「ね、どれも美味しいので、オススメですよ」
 取り箸やスプーンを使って小皿に取り分けながら、頼んだメニューをつまみにビールを飲んで、たわいない世間話に花を咲かせる。
 私自身、実はこんなことは初めてで、相手がイケオジなのも手伝って、ちょっと気分がハイになってしまっているかも知れない。
「女の子ってさ。こう、私サラダしか食べません。みたいな子がいるでしょ? せっかくデートしてもそういうの見るとゲンナリするんだよね」
「それは、好きな人の前でガツガツ食べるのが恥ずかしいからじゃないですか」
「君はどうなの」
「私ですか」
「めちゃくちゃ美味しそうに食べるから。彼氏と一緒でもよく食べるのかな」
「私は仕事柄体力を使うので、サラダじゃ保たないタイプですね」
「仕事は何をしてるのか、聞いても良いかな」
「貴方が通ってるパーソナルジムの、系列のインストラクターです」
「どうりで、見覚えがあるワケだ」
「本当ですか? そうは感じませんでしたけど。それにヘルプで一、二回お見掛けしただけですし」
「ごめんごめん。俺も客商売だから、色んな人と顔を合わせるし。でも嘘じゃないんだよ。君とはどこかで会ったことがある気がしてた」
「随分と口が上手いんですね」
 春巻きにたっぷりカラシをつけてお酢をかけ、気を遣って口裏を合わせなくて良いんですよとビールを飲む。
「違うよ。本当に君みたいな健康的なタイプは好みだし、でもジムで話したことはないだろ。まさかそれも記憶違いだったりする?」
 サラッと好みなんて言われたのは気のせいだろうか。こんな町の中華屋さんで、まさか私は口説かれているのだろうか、
「そうですね、直接お話ししたことはありません」
「だよね。へえ、あのジムのインストラクターなんだね。だから体を動かす分、しっかり食べるワケだ」
「ええまあ。今日はちょっと食べ過ぎだし、飲み過ぎですけどね」
「あ、それって俺のせい?」
「いやいや、違いますよ。それに独りで食べるのは味気ないですし、楽しいですよ」
「そっか。思い切って誘ってよかった」
 色気たっぷりの笑顔を向けられて、どう答えて良いか分からずに、曖昧に笑って牡蠣を口に放り込む。
 それにしても、さっきから気のせいかも知れないけど、何だか彼は距離感が近いというか、気さくなんだけどフェロモンがダダ漏れしてる気がする。
 どう言えば良いか、男性的な雰囲気が遠回しに伝わってくる瞬間がある気がしてしまう。
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