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本音を言えば、性的な意味で食べられたいと思ったのは認める。
顔は好みだし、ジムに通ってるだけあって体は引き締まってるし、一回りほど歳も離れてるはずの彼には、同年代とは違う色気もある。
「なに? どうかしたの、そんなに見つめて」
「いや、私ごときで相手が務まるのかなと」
「ここまで来て? 本当に面白い子だな」
「あっ、の……あぁん」
硬くなり始めた乳首を甘噛みされて嬌声が漏れた。
私を見下ろすくっきりした二重の大きな目は、柔らかく笑えば笑うほど垂れ目が強調されて、目尻に刻まれた皺が異様に艶っぽい。
別に自暴自棄になってるワケでもないし、一晩限りの関係に慣れてるワケでもない。
だけどこんな素敵な人が私なんかに本気になるワケがないことは分かってるし、それくらいの 分別はあるつもりだ。
「考えごとする余裕があるなんて、妬けるな」
「いえ、そういうワケじゃ」
「何も考えられなくなろうよ、二人でさ」
誰に言った言葉の使い回しなのか、胸の奥はチリッと痛んだけど、今は快楽に溺れるのが正解だろう。
キスが深くなる度に、いつもなら絶対にしないほど積極的に舌を搦めて、ぐちゅくちゅと唾液を掻き混ぜるみたいに彼を求める。
一晩。そう、この一晩限りの関係なのだから。
◆◆◆
ルームシェアは便利なモノだけど、時として残酷な現実を突き付ける。
「ごめん」
「なに突然、どしたの。あ、またなんか割ったの」
「違う違う、そうじゃないの」
「じゃあ何」
「私この家から出てく」
「は? なんで」
「出来たの、赤ちゃん」
最高の笑顔と左手の薬指に光るダイヤモンドリング。それはまさに青天の霹靂だった。
茹だるような暑さが続く八月。
私、 伊原 香澄は冷房がガンガン効いた八畳の洋室で、セミダブルのベッドに一人寝転んで、抱き枕を押し潰す勢いで抱き締めてる。
「そりゃさ、彼氏の方が大事だろうけどさ、それにしたって急すぎるよ。美咲の裏切り者」
唐突な退去申告は今朝のこと。
ルームシェア相手である 鈴木 美咲とは、中学の頃からの大親友で、大学進学を機に実家を出て、同じ屋根の下に住んで九年目。
そこらへんのカップルなんかより、長い間共同生活をして、ルールも守って楽しくやってきたはずだ。
それなのに。
美咲に一年ぶりに彼氏が出来たのはつい最近、三ヶ月前のゴールデンウィークに、同窓会で再会した高校の同級生と意気投合したまでは良い、きっとどこにでもある話かも知れない。
だけど、たったの三ヶ月。
それなのに、美咲はそのたった三ヶ月で、彼氏と授かり婚が決まってしまった。
片や私といえば、もう三年以上も彼氏は居ない。
「おめでたいことに文句言いたくないけどさ」
美咲が彼氏、いや、旦那さんとここに住むのかと思いきや、二人はファミリー向けの新居を探して引っ越すことになり、どのみち私には、この部屋に住み続ける選択肢はない。
都内のそこそこ便利な立地、オートロック付きの2LDKの築十年のマンションは、社会人五年目の私が一人で借り続けられるほど家賃も安くない。
それに私には、ルームシェアするほど気心の知れた相手なんて、美咲の他には友人や知人の中にもいやしないんだから。
「はあぁ。電化製品は置いていってくれたから、確かに生活には困らないだろうけど、敷金礼金と毎月の家賃、本当にどうしよう」
預金通帳の残高もそう多くない。
とにかく急なことだったので、新居が見つかるまでは、美咲と旦那さんが家賃をカバーしてくれる約束になってるけど、新婚で何かと入用な二人に長々と迷惑を掛けるワケにもいかない。
かと言って、八年以上も気ままに過ごしてきて、今更実家に戻って生活するのはどう考えても無理がある。
顔は好みだし、ジムに通ってるだけあって体は引き締まってるし、一回りほど歳も離れてるはずの彼には、同年代とは違う色気もある。
「なに? どうかしたの、そんなに見つめて」
「いや、私ごときで相手が務まるのかなと」
「ここまで来て? 本当に面白い子だな」
「あっ、の……あぁん」
硬くなり始めた乳首を甘噛みされて嬌声が漏れた。
私を見下ろすくっきりした二重の大きな目は、柔らかく笑えば笑うほど垂れ目が強調されて、目尻に刻まれた皺が異様に艶っぽい。
別に自暴自棄になってるワケでもないし、一晩限りの関係に慣れてるワケでもない。
だけどこんな素敵な人が私なんかに本気になるワケがないことは分かってるし、それくらいの 分別はあるつもりだ。
「考えごとする余裕があるなんて、妬けるな」
「いえ、そういうワケじゃ」
「何も考えられなくなろうよ、二人でさ」
誰に言った言葉の使い回しなのか、胸の奥はチリッと痛んだけど、今は快楽に溺れるのが正解だろう。
キスが深くなる度に、いつもなら絶対にしないほど積極的に舌を搦めて、ぐちゅくちゅと唾液を掻き混ぜるみたいに彼を求める。
一晩。そう、この一晩限りの関係なのだから。
◆◆◆
ルームシェアは便利なモノだけど、時として残酷な現実を突き付ける。
「ごめん」
「なに突然、どしたの。あ、またなんか割ったの」
「違う違う、そうじゃないの」
「じゃあ何」
「私この家から出てく」
「は? なんで」
「出来たの、赤ちゃん」
最高の笑顔と左手の薬指に光るダイヤモンドリング。それはまさに青天の霹靂だった。
茹だるような暑さが続く八月。
私、 伊原 香澄は冷房がガンガン効いた八畳の洋室で、セミダブルのベッドに一人寝転んで、抱き枕を押し潰す勢いで抱き締めてる。
「そりゃさ、彼氏の方が大事だろうけどさ、それにしたって急すぎるよ。美咲の裏切り者」
唐突な退去申告は今朝のこと。
ルームシェア相手である 鈴木 美咲とは、中学の頃からの大親友で、大学進学を機に実家を出て、同じ屋根の下に住んで九年目。
そこらへんのカップルなんかより、長い間共同生活をして、ルールも守って楽しくやってきたはずだ。
それなのに。
美咲に一年ぶりに彼氏が出来たのはつい最近、三ヶ月前のゴールデンウィークに、同窓会で再会した高校の同級生と意気投合したまでは良い、きっとどこにでもある話かも知れない。
だけど、たったの三ヶ月。
それなのに、美咲はそのたった三ヶ月で、彼氏と授かり婚が決まってしまった。
片や私といえば、もう三年以上も彼氏は居ない。
「おめでたいことに文句言いたくないけどさ」
美咲が彼氏、いや、旦那さんとここに住むのかと思いきや、二人はファミリー向けの新居を探して引っ越すことになり、どのみち私には、この部屋に住み続ける選択肢はない。
都内のそこそこ便利な立地、オートロック付きの2LDKの築十年のマンションは、社会人五年目の私が一人で借り続けられるほど家賃も安くない。
それに私には、ルームシェアするほど気心の知れた相手なんて、美咲の他には友人や知人の中にもいやしないんだから。
「はあぁ。電化製品は置いていってくれたから、確かに生活には困らないだろうけど、敷金礼金と毎月の家賃、本当にどうしよう」
預金通帳の残高もそう多くない。
とにかく急なことだったので、新居が見つかるまでは、美咲と旦那さんが家賃をカバーしてくれる約束になってるけど、新婚で何かと入用な二人に長々と迷惑を掛けるワケにもいかない。
かと言って、八年以上も気ままに過ごしてきて、今更実家に戻って生活するのはどう考えても無理がある。
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