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21.④
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「秋菜、俺と結婚してくれないかな」
「凌さん」
「俺の幸せが秋菜にとっての幸せになるよう努力する。だからこれからはずっと一緒に人生を歩んでいきたい」
「私なんかで良いのかな、だって私たちケンカだってほとんどしてないよ?」
「しないに越したことないけど、そんなにケンカしたいならこれからすれば良い。秋菜が望むなら出来る限り応えたいと思ってるよ」
「本当に後悔しない?」
「思い付きでプロポーズしてる訳じゃないからね」
凌さんは苦笑すると、少し不安げな顔をして、やっぱり気が早すぎたかなと鼻を掻く。
「凌さん」
「ん?」
「私も後悔したくないから、凌さんの気が変わらないうちにお受けします」
「それってOKってこと?」
「はい。よろしくお願いします」
私が答えると、凌さんは破顔して参ったなと顔を片手で覆う。よく見ると耳が真っ赤だ。
そんな凌さんを揶揄って、私も恥ずかしいのを誤魔化すと、左手の薬指に指輪をはめてもらう。そして余韻に浸る私に、もう一つ箱があるだろうと凌さんが紙袋を指差した。
「リングとお揃いのピアスにしたんだけど」
「わあ! 凄い可愛い」
「気に入った?」
「うん。凄く素敵。ありがとう」
自然と笑みが溢れて凌さんを見つめると、マカロンはこっちと照れ隠しのように、彼は新しい紙袋をバッグから取り出した。
「なんか和風のフレーバーらしくてさ。珍しいやつみたいだから、気に入ると良いんだけど」
「本当? 食べるの楽しみ」
少しだけ重たくなった左手、その指輪の重さの意味を噛み締めながら、食べるのが疎かになっていた天ぷらに箸を伸ばす。
「本当……美味しいね、これ」
サクッとした歯触りなのに、身はふっくらしたワカサギの天ぷらを味わって食べる。
「なんで泣くの」
「いや、こんな幸せで良いのかなって」
「これからもっと幸せになるよ? 覚悟しなよね」
「ふふ、なにそれ」
凌さんが差し出したハンカチを受け取って涙を拭うと、彼に最初に会った日のことを思い出して、知らない間に自然と口角が上がる。
「嬉しそうだね」
「凌さんは、泣く私にハンカチを渡すのが上手いと思って」
「なんだそれ」
「初めて会った日から、凌さんはずっと一緒に居たいって思える人だった」
「その割に連絡先教えたのに連絡くれなかったよね」
「それは本当にごめんってば」
たわいない、けれど私たち二人にとってかけがえのない思い出話をしながら食事を楽しむと、最後に可愛らしいフルーツの盛り合わせが運ばれてきた。
「ああ。そういえば、今日秋菜と会うって話したらさ、母さんが今度改めて家に連れて来いって」
「え、お母様が?」
「うん。美鳥ちゃんからも色々と話を聞いてるみたいでさ、会いたがってたよ」
「そっか。じゃあちゃんとご挨拶に行かないとね」
「そんな緊張しなくて良いよ」
凌さんは可笑しそうに肩を揺らすと、もう顔は合わせてるじゃないかと柿を頬張る。
「そうは言うけどさ」
「大丈夫だって。それこそ侑が帰ってきてから、美鳥ちゃんも一緒とかでも良いし」
「失礼じゃない?」
「ないない。大丈夫だよ。それより秋菜のご両親にも、ちゃんとご挨拶した方が良いよね」
「ああね。それはまあ、追々で」
「いやいや、早い方が良いでしょ」
「分かった。確認しとく」
「うん。頼んだよ」
気軽なバレンタインディナーのはずが、プロポーズされるだなんて思いもしてなかっただけに、なんだかまだ気持ちがふわふわしている。
結婚式を挙げるにしても、美鳥と侑さんたちのように、お父様の喪が明けてからになるだろう。
だけど少しでもこの話がお母様の心を暖かく出来ると良いなと思うばかりだった。
「凌さん」
「俺の幸せが秋菜にとっての幸せになるよう努力する。だからこれからはずっと一緒に人生を歩んでいきたい」
「私なんかで良いのかな、だって私たちケンカだってほとんどしてないよ?」
「しないに越したことないけど、そんなにケンカしたいならこれからすれば良い。秋菜が望むなら出来る限り応えたいと思ってるよ」
「本当に後悔しない?」
「思い付きでプロポーズしてる訳じゃないからね」
凌さんは苦笑すると、少し不安げな顔をして、やっぱり気が早すぎたかなと鼻を掻く。
「凌さん」
「ん?」
「私も後悔したくないから、凌さんの気が変わらないうちにお受けします」
「それってOKってこと?」
「はい。よろしくお願いします」
私が答えると、凌さんは破顔して参ったなと顔を片手で覆う。よく見ると耳が真っ赤だ。
そんな凌さんを揶揄って、私も恥ずかしいのを誤魔化すと、左手の薬指に指輪をはめてもらう。そして余韻に浸る私に、もう一つ箱があるだろうと凌さんが紙袋を指差した。
「リングとお揃いのピアスにしたんだけど」
「わあ! 凄い可愛い」
「気に入った?」
「うん。凄く素敵。ありがとう」
自然と笑みが溢れて凌さんを見つめると、マカロンはこっちと照れ隠しのように、彼は新しい紙袋をバッグから取り出した。
「なんか和風のフレーバーらしくてさ。珍しいやつみたいだから、気に入ると良いんだけど」
「本当? 食べるの楽しみ」
少しだけ重たくなった左手、その指輪の重さの意味を噛み締めながら、食べるのが疎かになっていた天ぷらに箸を伸ばす。
「本当……美味しいね、これ」
サクッとした歯触りなのに、身はふっくらしたワカサギの天ぷらを味わって食べる。
「なんで泣くの」
「いや、こんな幸せで良いのかなって」
「これからもっと幸せになるよ? 覚悟しなよね」
「ふふ、なにそれ」
凌さんが差し出したハンカチを受け取って涙を拭うと、彼に最初に会った日のことを思い出して、知らない間に自然と口角が上がる。
「嬉しそうだね」
「凌さんは、泣く私にハンカチを渡すのが上手いと思って」
「なんだそれ」
「初めて会った日から、凌さんはずっと一緒に居たいって思える人だった」
「その割に連絡先教えたのに連絡くれなかったよね」
「それは本当にごめんってば」
たわいない、けれど私たち二人にとってかけがえのない思い出話をしながら食事を楽しむと、最後に可愛らしいフルーツの盛り合わせが運ばれてきた。
「ああ。そういえば、今日秋菜と会うって話したらさ、母さんが今度改めて家に連れて来いって」
「え、お母様が?」
「うん。美鳥ちゃんからも色々と話を聞いてるみたいでさ、会いたがってたよ」
「そっか。じゃあちゃんとご挨拶に行かないとね」
「そんな緊張しなくて良いよ」
凌さんは可笑しそうに肩を揺らすと、もう顔は合わせてるじゃないかと柿を頬張る。
「そうは言うけどさ」
「大丈夫だって。それこそ侑が帰ってきてから、美鳥ちゃんも一緒とかでも良いし」
「失礼じゃない?」
「ないない。大丈夫だよ。それより秋菜のご両親にも、ちゃんとご挨拶した方が良いよね」
「ああね。それはまあ、追々で」
「いやいや、早い方が良いでしょ」
「分かった。確認しとく」
「うん。頼んだよ」
気軽なバレンタインディナーのはずが、プロポーズされるだなんて思いもしてなかっただけに、なんだかまだ気持ちがふわふわしている。
結婚式を挙げるにしても、美鳥と侑さんたちのように、お父様の喪が明けてからになるだろう。
だけど少しでもこの話がお母様の心を暖かく出来ると良いなと思うばかりだった。
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