結婚話をキャンセルされたので、ポイ捨てされた美貌の社長とワンナイトすることになりました

濘-NEI-

文字の大きさ
上 下
78 / 84

21.④

しおりを挟む
「秋菜、俺と結婚してくれないかな」
「凌さん」
「俺の幸せが秋菜にとっての幸せになるよう努力する。だからこれからはずっと一緒に人生を歩んでいきたい」
「私なんかで良いのかな、だって私たちケンカだってほとんどしてないよ?」
「しないに越したことないけど、そんなにケンカしたいならこれからすれば良い。秋菜が望むなら出来る限り応えたいと思ってるよ」
「本当に後悔しない?」
「思い付きでプロポーズしてる訳じゃないからね」
 凌さんは苦笑すると、少し不安げな顔をして、やっぱり気が早すぎたかなと鼻を掻く。
「凌さん」
「ん?」
「私も後悔したくないから、凌さんの気が変わらないうちにお受けします」
「それってOKってこと?」
「はい。よろしくお願いします」
 私が答えると、凌さんは破顔して参ったなと顔を片手で覆う。よく見ると耳が真っ赤だ。
 そんな凌さんを揶揄って、私も恥ずかしいのを誤魔化すと、左手の薬指に指輪をはめてもらう。そして余韻に浸る私に、もう一つ箱があるだろうと凌さんが紙袋を指差した。
「リングとお揃いのピアスにしたんだけど」
「わあ! 凄い可愛い」
「気に入った?」
「うん。凄く素敵。ありがとう」
 自然と笑みが溢れて凌さんを見つめると、マカロンはこっちと照れ隠しのように、彼は新しい紙袋をバッグから取り出した。
「なんか和風のフレーバーらしくてさ。珍しいやつみたいだから、気に入ると良いんだけど」
「本当? 食べるの楽しみ」
 少しだけ重たくなった左手、その指輪の重さの意味を噛み締めながら、食べるのが疎かになっていた天ぷらに箸を伸ばす。
「本当……美味しいね、これ」
 サクッとした歯触りなのに、身はふっくらしたワカサギの天ぷらを味わって食べる。
「なんで泣くの」
「いや、こんな幸せで良いのかなって」
「これからもっと幸せになるよ? 覚悟しなよね」
「ふふ、なにそれ」
 凌さんが差し出したハンカチを受け取って涙を拭うと、彼に最初に会った日のことを思い出して、知らない間に自然と口角が上がる。
「嬉しそうだね」
「凌さんは、泣く私にハンカチを渡すのが上手いと思って」
「なんだそれ」
「初めて会った日から、凌さんはずっと一緒に居たいって思える人だった」
「その割に連絡先教えたのに連絡くれなかったよね」
「それは本当にごめんってば」
 たわいない、けれど私たち二人にとってかけがえのない思い出話をしながら食事を楽しむと、最後に可愛らしいフルーツの盛り合わせが運ばれてきた。
「ああ。そういえば、今日秋菜と会うって話したらさ、母さんが今度改めて家に連れて来いって」
「え、お母様が?」
「うん。美鳥ちゃんからも色々と話を聞いてるみたいでさ、会いたがってたよ」
「そっか。じゃあちゃんとご挨拶に行かないとね」
「そんな緊張しなくて良いよ」
 凌さんは可笑しそうに肩を揺らすと、もう顔は合わせてるじゃないかと柿を頬張る。
「そうは言うけどさ」
「大丈夫だって。それこそ侑が帰ってきてから、美鳥ちゃんも一緒とかでも良いし」
「失礼じゃない?」
「ないない。大丈夫だよ。それより秋菜のご両親にも、ちゃんとご挨拶した方が良いよね」
「ああね。それはまあ、追々で」
「いやいや、早い方が良いでしょ」
「分かった。確認しとく」
「うん。頼んだよ」
 気軽なバレンタインディナーのはずが、プロポーズされるだなんて思いもしてなかっただけに、なんだかまだ気持ちがふわふわしている。
 結婚式を挙げるにしても、美鳥と侑さんたちのように、お父様の喪が明けてからになるだろう。
 だけど少しでもこの話がお母様の心を暖かく出来ると良いなと思うばかりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

クリスマスに咲くバラ

篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

坂合奏
恋愛
「I love much more than you think(君が思っているよりは、愛しているよ)」  祖母の策略によって、冷徹上司であるイギリス人のジャン・ブラウンと婚約することになってしまった、二十八歳の清水萌衣。  こんな男と結婚してしまったら、この先人生お先真っ暗だと思いきや、意外にもジャンは恋人に甘々の男で……。  あまりの熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです。   ※物語の都合で軽い性描写が2~3ページほどあります。

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...