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21.②
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「こういうのやめてくれない? 迷惑なの分からないの」
「カリカリすんなよ。長い間構ってやってないから怒ってるんだろ。悪かったよ、俺もバタバタしててさ」
「はあ? なに言ってんの」
大輔のあまりにも馴れ馴れしい態度のせいで、周りから視線を集めてしまうことも、私たちの会話が痴話喧嘩のように見られることにも耐えられない。
「素直になれよ秋菜。お前、今でも俺のこと好きなんだろ」
「……なにをどうしたらそんな考えになるの。頭どうかしてるんじゃないの」
「お前なあ、さっきから人が下手に出てやってんのに、何様のつもりで話してんだよ」
「本当に頭おかしいんじゃないの? どうしたの」
「うるせえな、お前は黙って俺の言うこと聞いてれば良いんだよ! 良いから来い」
また腕を掴まれて無理やり引っ張られてしまう。
「痛い! やめてって。一緒に行く義理ないでしょ」
咄嗟に大きな声で反論して腕を引き剥がすと、傍観を決め込んでいた周りもだんだん騒がしくなってくる。
そして野次馬が増えてきた瞬間、今度は別のどよめきのような声があがった。
「秋菜!」
助けて欲しくて堪らなかった声が私を呼ぶ。
ダークグレーのスリーピーススーツを着こなし、人混みを掻き分けて颯爽と現れた凌さんが、周りの視線を集める。
「凌さんッ」
すぐに彼に駆け寄って、大輔から身を隠すように背後に回り、僅かに震える指先で必死に彼の背中にしがみつく。
「ごめん、遅くなった。彼は?」
「偶然会って、絡まれちゃって」
凌さんは大輔のことを覚えてはいないのか、ナンパかなにかだと思ったようだ。
「彼女が嫌がってるの分からないんですか」
「なんなんだよお前は。……あ? お前、あの時の!」
パーティーに水をさされたからか、大輔の方は凌さんを覚えていたらしく、怒りの形相になって殴り掛からんばかりの勢いで彼に詰め寄った。
その瞬間、面白がって様子を見ている周りからどよめきが起こる。
けれど凌さんは私を庇いながら咄嗟に身を躱わすと、よろけて転びそうになる大輔を一瞥して、どこかでお会いしましたかと首を捻る。
「凌さん、これ果穂乃さんの……」
背伸びして耳打ちすると、凌さんはようやく合点がいったように、ああ、と呟いてスッと真顔になった。
「奥様はその後ご健勝ですか」
「お前に関係ないだろ!」
周りの視線に気が立っているのか、大輔は怒りを隠そうともせずに大声を出す。
「そうですね。でもそれとこれとは別です。私の恋人になんの用ですか」
「は? 恋人だと」
大輔は驚いた様子で凌さんと私を交互に見ると、けれどすぐにニヤッと笑うと仁王立ちして鼻を鳴らす。
「ハッ。なんだよ。お前らあぶれ者同士、傷の舐め合いでもしてんのか」
「ちょっと!」
「秋菜、ここは任せて」
咄嗟に反論しようとした私を小声で制すると、凌さんは毅然とした態度で大輔と向かい合った。
「ありがたいことに、あなた方のようなクズのおかげで良縁に恵まれました」
「なんだと⁉︎」
「聞こえませんでしたか。どうせあの女に振り回された腹いせに秋菜に絡んだんでしょう? あの女の本当の妊娠相手が上司じゃ、あなたの栄転も頓挫しますよね。心中お察しします」
凌さんは少しだけ身を屈めて大輔に顔を寄せると、恐ろしく冷酷な顔をしながら耳元で毒のこもった言葉を吐き捨てる。
「ふしだらな奥様に、どうぞよろしくお伝えください」
怒りでわなわな震える大輔に冷淡な笑顔を向けると、行こうと言って凌さんは私の手を取り、騒然とするその場から離れて歩き出した。
「ねえ……さっきのって」
「うん。まあ、後で話すよ」
事態が飲み込めずに後ろを振り返ると、顔を真っ赤にしながら、見せ物じゃないと声を荒げてその場から退散する大輔の姿が見えた。
「カリカリすんなよ。長い間構ってやってないから怒ってるんだろ。悪かったよ、俺もバタバタしててさ」
「はあ? なに言ってんの」
大輔のあまりにも馴れ馴れしい態度のせいで、周りから視線を集めてしまうことも、私たちの会話が痴話喧嘩のように見られることにも耐えられない。
「素直になれよ秋菜。お前、今でも俺のこと好きなんだろ」
「……なにをどうしたらそんな考えになるの。頭どうかしてるんじゃないの」
「お前なあ、さっきから人が下手に出てやってんのに、何様のつもりで話してんだよ」
「本当に頭おかしいんじゃないの? どうしたの」
「うるせえな、お前は黙って俺の言うこと聞いてれば良いんだよ! 良いから来い」
また腕を掴まれて無理やり引っ張られてしまう。
「痛い! やめてって。一緒に行く義理ないでしょ」
咄嗟に大きな声で反論して腕を引き剥がすと、傍観を決め込んでいた周りもだんだん騒がしくなってくる。
そして野次馬が増えてきた瞬間、今度は別のどよめきのような声があがった。
「秋菜!」
助けて欲しくて堪らなかった声が私を呼ぶ。
ダークグレーのスリーピーススーツを着こなし、人混みを掻き分けて颯爽と現れた凌さんが、周りの視線を集める。
「凌さんッ」
すぐに彼に駆け寄って、大輔から身を隠すように背後に回り、僅かに震える指先で必死に彼の背中にしがみつく。
「ごめん、遅くなった。彼は?」
「偶然会って、絡まれちゃって」
凌さんは大輔のことを覚えてはいないのか、ナンパかなにかだと思ったようだ。
「彼女が嫌がってるの分からないんですか」
「なんなんだよお前は。……あ? お前、あの時の!」
パーティーに水をさされたからか、大輔の方は凌さんを覚えていたらしく、怒りの形相になって殴り掛からんばかりの勢いで彼に詰め寄った。
その瞬間、面白がって様子を見ている周りからどよめきが起こる。
けれど凌さんは私を庇いながら咄嗟に身を躱わすと、よろけて転びそうになる大輔を一瞥して、どこかでお会いしましたかと首を捻る。
「凌さん、これ果穂乃さんの……」
背伸びして耳打ちすると、凌さんはようやく合点がいったように、ああ、と呟いてスッと真顔になった。
「奥様はその後ご健勝ですか」
「お前に関係ないだろ!」
周りの視線に気が立っているのか、大輔は怒りを隠そうともせずに大声を出す。
「そうですね。でもそれとこれとは別です。私の恋人になんの用ですか」
「は? 恋人だと」
大輔は驚いた様子で凌さんと私を交互に見ると、けれどすぐにニヤッと笑うと仁王立ちして鼻を鳴らす。
「ハッ。なんだよ。お前らあぶれ者同士、傷の舐め合いでもしてんのか」
「ちょっと!」
「秋菜、ここは任せて」
咄嗟に反論しようとした私を小声で制すると、凌さんは毅然とした態度で大輔と向かい合った。
「ありがたいことに、あなた方のようなクズのおかげで良縁に恵まれました」
「なんだと⁉︎」
「聞こえませんでしたか。どうせあの女に振り回された腹いせに秋菜に絡んだんでしょう? あの女の本当の妊娠相手が上司じゃ、あなたの栄転も頓挫しますよね。心中お察しします」
凌さんは少しだけ身を屈めて大輔に顔を寄せると、恐ろしく冷酷な顔をしながら耳元で毒のこもった言葉を吐き捨てる。
「ふしだらな奥様に、どうぞよろしくお伝えください」
怒りでわなわな震える大輔に冷淡な笑顔を向けると、行こうと言って凌さんは私の手を取り、騒然とするその場から離れて歩き出した。
「ねえ……さっきのって」
「うん。まあ、後で話すよ」
事態が飲み込めずに後ろを振り返ると、顔を真っ赤にしながら、見せ物じゃないと声を荒げてその場から退散する大輔の姿が見えた。
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